騎士団の団長さん
肩で息する鈴にオルガが優し気に微笑む。
「魔力も結構消費しているわねぇ。慣れない状況下で気持ちも張っていたのが余計に疲れちゃったのねアタシたちの仕事は終わったことだしィ、しばらく休んでいましょ。床に直座りは良くないわねェ、動ける?」
「………無理そうです。ごめんなさい」
「あぁいいわよ、謝らなくて。強引に連れて来たのはアタシだもの。椅子を持ってこさせてもいいし、この部屋から出たいならアタシが抱えて運ぶけど、どっちがいぃ」
強引だって自覚あったんですね。
「他の部屋でお願いしてもいいですか」
分かったわ、とオルガさんが近づいてくると後ろに引っ張られた。突然の浮遊感に身を縮こませると何かが宥めるように背中を上下に触れている。
「僕が運ぶ」
頭上から声がして仰ぎ見るとカイニルがいた。そこでようやく鈴は自分がどうなっているかを理解できた。カイニルに抱きかかえてもらっている。チラリと後ろを振り向くとカイニルの尻尾が見える。どうやら背中を擦っていた何かはカイニルの尻尾のようだ。これは触るうちには入らないのかな。自分からだからノーカン?
先程眠っていた部屋と同じような部屋に連れられ長椅子に降ろされる。降ろす前にふかふかのクッションを挟むことを忘れずに。三方をクッションで囲まれてなんともだらしない姿勢になってしまっているが見逃して欲しい。身体に力が入らないんだ。
「水を貰ってきたけど飲めるかしらァ。果実もあるわよ。入らないなら無理して食べなくてもいいけど」
有り難く水を頂き喉を潤す。カラカラだったのかコップに入った水を一気に飲み干した。すぐに新たに注いでくれて半分まで飲んだところで一息ついた。
カイニルがコップを回収して机に置いて、代わりに果実が乗った皿を持って来たがそれは断った。食べたら吐いてしまうと思ったから。
「そういえば、カイ義兄さんはどうしてここに居るんですか?」
尋ねるとキョトンとした様子のカイニル。いや無表情なのは変わりありませんが。
「言っていなかった?」
問いにコクコクと頷く。何かの会議に出るほどの偉い人というのしか知りません。会議っていうと大臣のイメージですがそれなら騎士団にはいないですよね。
「僕は第七騎士団の団長を任せられている」
「団長さん!?」
第七騎士団って救助要請出した団だよね。
「部下を治してくれてありがとう。助かった」
「お役に立ててよかったです」
そういえば騎士団のことはまだウラルさんに聞いていないな。この機会に聞いてみよう。
「カイ義兄さん、騎士団について教えてくれませんか」
快く了承して騎士団について教えてくれた。
騎士団には第一から第七まであって各団に団長が一人、副団長が二人いる。第一騎士団が中央領地、第二騎士団が北領地、第三騎士団が東領地、第四騎士団が南領地、第五騎士団が西領地、第六騎士団が上空一帯と近海周辺、第七騎士団が魔の森を担当している。領地っていうのは魔国を五分割してそう呼んでいるだけで大した意味はないそうだ。広いから名目上ってことらしい。
騎士団には実力があれば誰でも入れるから総体数が多い。だから七つに分けても人員は足りている。ただ第六騎士団だけは例外で所属できる人が限られている。有翼種か空を飛ぶ手段を有していないと第六騎士団に入れない。担当が空だから当然と言えば当然だけど。
第七騎士団は魔の森に潜む魔物の討伐がメインの仕事。魔物はどの領地でも出現されるけど魔の森は高濃度の魔力で強化されているからその分脅威が増すらしい。だから騎士団の中で一番に危険が伴う団だと。その団の団長をやっているカイニルは相当な実力の持ち主だろう。
魔術師団とかはないのかと聞いたらないと答えられた。騎士団とはいっても戦えるのなら手段は問わず、得物も様々。魔法特化で戦う人でも騎士団所属となる。
ちなみにオルガさんは騎士団所属ではない。騎士団を統括しているのはベイサスさんでオルガさんみたいな戦闘特化じゃない支援職の人や魔道具師たちをウラルさんが統括。ヨルさんはというと偵察や情報収集などの特殊な仕事を担っている人たちを統括している。
最初に会ったときのは団長会議と聞いて再び謝った。謝らなくていいと言われたけどそれでは気が済まない。遅れるのはいつものことだからと宥められた。それ駄目ですよね。ベイサスさんの苦労が目に見える。
話していると体調が戻って来た。果実を摘まんでいるとノックする音が聞こえた。
入って来たのは騎士の人。何人かいる。失礼します、と部屋に入って来て一目散にオルガさんのもとに進んだ。オルガさんの目の前まで行ったら皆一様に跪いた。跪いたというより縋りついている?
「オルガさまぁ、ウラルさまばかりに構っていないで愚かな我々にも御慈悲を」
「もうあなたさまなしでは生きていけません」
屈強な騎士が涙ながらにオルガさんに訴えかけているという異様な光景に戸惑いを隠せない。
「あらァ、アタシの行動に物申せるほどあなたたちは偉いのかしらァ」
目の前の騎士の一人の顎を指で上げる。その騎士は紅潮した、悦楽に浸った表情をしている。
えっ、どうして?
ウラルさんがやって来て、帰るわよォと告げてきた。
またあれを体感するのか、と絶望する鈴にウラルはごめんねぇ、我慢してちょうだいと無情にも告げられた。
「転移陣を使わないと今日中に城に帰れないのよ。辛いだろうけど耐えてね。転移酔いは最初の一回だけだったり使ううちにどんどん平気になるとか言われているから、もしかしたらさっきより軽い症状かもしれないわよ。鈴はどれかしらァ」
最初の一回だけ転移酔いする体質でした、に賭ける。そうであってくれという願望だが願うしかない。
カイ義兄さんが送るというので転移陣の部屋まで一緒に歩いた。オルガさんが部屋を出ると縋りついていた騎士たちの泣き叫ぶ声が轟く。本当になんなんだろう。




