大事なことは二回言って
「それでェ、どこまで進んだのォ」
「魔力循環が出来たとこねェ」
「あら、案外早いわねェ」
三人でオルガさんが差し入れの昼食を食べながら喋る。地べたに座って……ではなくて、またまたどこから出したのか机と椅子が用意された。アイテムボックスとか……?
「それで、リンちゃんの特性は分かったの?」
「オルガと同じで回復魔法に秀でているわねェ。そういうわけだから、オルガがアドバイスしてあげなさいよ。手取り足取り、ね」
うふふ、と怪しげな笑い声を出す二人に鈴の背筋に嫌な汗が伝う。
「回復魔法に秀でているってどうして分かるんですか?」
「ワタシはねェ魔力が視えるのよ。魔力は人それぞれで違うのだけれどいくつか共通する部分があるの。それで多くの魔力を視て特徴を考察して、今じゃ魔力を視ればどんな魔法が得意かが分かるようになったのよォ」
「凄いです! あ、じゃあブリカーラ王国の鑑定版? っていうのはウラルさんが……?」
「あァ、あれは違うわ。ワタシは魔法具作成にも携わっているけれど、あれに関してノータッチよ。ワタシもブリカーラ王国に行ったときに見たんだけどどうにも、ね。魔法式も回路も出鱈目で、正直なんで動いているのか謎なのよ。ヒト国にはそういった魔法具がいくつかあってね、原理も構造もあったもんじゃないわァ」
「えっ……じゃあ鑑定版に書かれていた職業聖女ってーー」
鈴が恐る恐るウラルに尋ねると首を横に振る。
「そもそも、そんなもので人の職業を、将来を決めるだなんて可笑しくなァい?」
それじゃあ……それじゃあ、あの日々は……?
聖女だから、姫咲さんに、聖女だから…………。
ーパシン
甲高い音が響いた。知らず知らずのうちに下げていた視線を音源の方に向けるとオルガさんが手を合わせていた。
「なァにじれったい顔をしているのよ! 過去は過去よ。いィリンちゃん。辛い気持ちは何時までも心に巣食うから無理に忘れるなとは言わないわ。だからって思い出しても良いことなんてひとっつもないの」
鈴のおでこを指で突きながら諭すようにオルガは言う。
「私だって、好きで思い出しているわけじゃないんです。でも……ふとした瞬間にーー」
「ならその記憶を思い出せなくしたい? 夢魔族の子に頼めば記憶を封印してもらえるわ。過去は、記憶はなくなることはないわ。だってそれは自分が生きた証のようなものだもの。でもね、楽しい幸せ記憶だけじゃないのはもう分かっているわよね。辛い思い悲しい思いも背負って生きるのが人生なのよ。それを無理に受け入れろとは言わないわ。理不尽なことはどうしたってあるわけだし免れない。思い出したくもない辛い過去なら逃げたっていいじゃない。誰もあなたを責めることはしないし、そんな輩はこのアタシが直々に懲らしめてやるわ。どうかしら?」
……正直、話の半分も理解出来なかった。うん、そこまで頭良くないんですごめんなさい。
それでも、オルガさんが心配してくれているのは言葉の節々に伝わった。
「私、この記憶を閉じ込めたいです。いつまでも縛られていたくない。オルガさん、お願いできますか?」
「まっかせなさぁ~い。アタシから声を掛けておくわぁ」
シリアスな空気が流れたが終わりにはまた穏やかに世間話をして昼食を終えた。
いよいよ実際に魔法を使う。とても楽しみ。
「魔法の発動には二つの方法があるわ。一つが詠唱魔法。これは一般的に用いられてよく使われている魔法様式よ。もう一つは陣魔法。これは魔道具や超強力な魔法を扱うときに用いられる魔法様式よ。リンがこちらに召喚されたときに使われたのは後者の陣魔法。床に術式が描いてあったのがそれよ」
あの図形と文字みたいな記号のことか。図書室にあった本の文字は読めたけどあそこに書かれた文字は読めなかったな。
「リンが今から使うのは詠唱魔法の方よ」
「詠唱魔法って唱えるんですか?」
なんか中二病っぽい詠唱を。それだと少し恥ずかしい。でも今まででそんなの聞いたことがないけど。
「一応魔法ごとに詠唱文はあるけど、それは魔法操作が出来ない人しか使わないわ。だいたいは無詠唱魔法。使う魔法を頭の中で思い描いて魔法を流せばその通りに魔法を使えるわ。想像が明確なほど魔法の質は高くなるわ。ただし、属性適正や高難度の魔法は不発になるし、消費魔力が足りないと暴発するから気を付けなさいね」
もの凄く物騒なことが最後にさらっと聞こえましたが。えっ、そこもっと強調した方がよくないですか? とっても大事なところですよね!?
「回復魔法は傷がある部分に元の状態を想像しながら魔法を流すだけで治るから簡単でしょぉ。掠り傷や打撲ぐらいならちょぉっと魔力流せば直ぐ治るわァ」
「回復魔法ってどこまでの怪我なら治せるんですか?」
「そうねぇ、技量によって人それぞれだけど切り傷、捻挫、打撲に骨折ぐらいならいけるのかしら」
「オルガのように高い技量と魔力を持つ人だと欠陥部位を治すことが出来るわ。前に腕一本再生させていたわね」
腕を一本ってすごっ。そんな人に治療を施してもらってたなんて知らなかった。その節はお世話になりました。
「じゃぁ早速やってみましょ」




