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知りませんでした

図書室を出たところでハタっと固まった。どうしよう、帰り道……自信ない。

また迷子になるのか、と消沈していたら袖を引かれた。振り返ってみると真っ黒な塊、ヨルさんが立っていた。


「ヨルさん……!」


サムズアップしてからこっち、と手招きして袖を引く。何も言わないけどどうやら部屋まで案内してくれるようだ。有り難いです。ものすごく助かります。もう迷子は懲り懲りなので。


部屋に帰ってヨルさんにお礼を言うと頭を撫でられた。長椅子に座ってどの本を読もうかと選んでいたらコンコン、とノック音が聞こえた。ノックをするってことは義両親となった二人ではない。誰だろう、と応答するとメイドさんが入室して来た。なんだろう、不思議に思ったら手早く紅茶と軽食の用意がなされた。


「あ、ありがとうございます」

「こちらを置いておきますので御用の際はお鳴らし下さい。我々に知らせが届きますのですぐにこの部屋に一人向かいます。飲み物や質問、城内の案内など些細なことでも構いません」

「分かりました。ありがとうございます」


ベッドの横にあるサイドテーブルに鈴が置かれた。なんだか、迷子になったのが知れ渡っている感じがする。ですが、有り難いので喜んで施しを受けます。迷子、嫌ですし。いつまでも義両親がご飯時に突撃するわけでもありませんし。


長椅子に身を預けてゆったりした姿勢で本を読み始める。三冊の本は絵本、恋愛小説、暮らしの豆知識集と様々だ。絵本は魔国の成り立ちが書かれている。恋愛小説は騎士と平民との恋物語。暮らしの豆知識集はギャグっぽく面白おかしく書かれていた。


どれも読みやすく面白かったので夢中になって読み進めた。あっという間に三冊とも読み終わって椅子から立ち上がり体をほぐすように伸ばした。窓の外を見るともう夜だった。もうこんなに時間が経っていたのか。


夕食の用意をしてもらおうと早速メイドさんに頂いた鈴を鳴らそうとベッドに歩いていくと激しく扉が叩き開かれた。


「リンちゃーん、ただいまー。寂しくなかった? 泣いていない? 大丈夫だった?」

「ママ……。お帰りなさい」


心配、してくれたんでしょうか。内容がいかにも幼い子供に対してな感じがしますが気のせいでしょうか。


「リンちゃんにお土産を買ってきたのよ。きっと気に入ると思うわ」

「アンジー、先に夕食を済ませよう」

「ソル、そうね。少し興奮していたわ」


じゃあ行きましょう、とアンジェリカの部屋へと連れられた。



アンジェリカの部屋には先客がいた。


「カイニルさん!?」

「リンさん、また会えたね」

「あら、二人はもう会っていたのね。なら話は早いかしら。紹介するわ。リンちゃん、私の次男のカイニルよ。あなたのお兄さんになるかしら。カイ、私の新しい子供のリンちゃん。優しくしなちゃ駄目よ」


カイニルさんはパパとママの二人目の子。そういえば二人の色合いとどことなく似ている。あのフッサフサの尻尾と耳はママと同じ雪狐族ということか。フサフサ、触りたい。モフモフ。

……ッハ、違くて。私の義兄さん、だから呼び方も変えないとダメだよね。


「えっと……」

「リンさん、カイっと呼んでくれ」

「カイ、義兄さん……」


そう呼んだ瞬間、カイ義兄さんの尻尾がブワリっと膨らんだ。

えっ、何!? もしかして、怒らせて、しまった……?


「あら、良かったわね、カイ。そんなに嬉しそうに喜んで。フフ」


あっ、喜んでいるんですね。良かった。


「そろそろ飯にしよう」

「そうね」


二人がテーブルに着こうとしているとき、ススっとカイ義兄さんの傍へと寄った。


「カイ義兄さんは知っていたんですか? その、私が迷子になったとき……」

「いや、知らなかった。会議室の道中にベイサスから聞いた」

「そうだったんですね」


「ちょっとー、カイもリンちゃんも二人でこそこそ喋っていないでこっちにいらっしゃい。話ならご飯を食べながらでも出来るでしょう」

「あ、はーい」


家族四人で仲良くご飯を食べて、その後はアンジェリカが購入した大量のお土産に鈴の頬が引き攣ったのはまた別の話。


二人の一人目の子供は確かルツさん、だっけ。今離島で巣ごもり中の。その人にはいつ会えるのかな。その人にも私を受け入れてくれるといいな。そしたら五人で食卓を囲める。あっ、お嫁さんがいるから六人になるのか。それは、楽しいだろうな。今もだけど、それよりももっと。


鈴は未来のことに思いをはせていた。自分でも気付かないうちに今の状況に順応していた。刻一刻と幸せへの道に歩き始めていることに気付いていないのは鈴本人のみ。今日会ったばかりのカイニルですら、鈴が幸せそうに、楽しそうに笑っているのに気付いていた。最も近くで見ているソーリャヴィシィスとアンジェリカは順調だと顔を合わせて頷いた。

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