助けてくれたのは
肩を優しく押され体の体勢を整えられる。助けてくれたお礼を言おうと相手の顔を見上げると固まってしまった。
天色の髪に頭に生えた三角に耳、獣人族を表すケモ耳が少し垂れている。淡い黄色の瞳はじっとこちらを見ている。口は横一線に閉ざされていて無表情だ。だが顔が整っているせいか無表情でも絵になるイケメンだ。視界の端に捉えた尻尾はフッサフサで長い。それが左右にゆらゆらと揺れていてつい目で追ってしまう。かっちりとした衣服を身に纏い、腰に一振りの剣を携えている。騎士さんだろうか。
「大丈夫?」
「っ、はい、大丈夫、です。あの、助けていただきありがとうございます」
「間に合って良かった」
再び声を掛けられて不躾に凝視していた鈴はハッとする。慌てて返すと垂れていた耳がピコンと立った。
「それじゃあ」
「あっ、ま、待ってください。あの、迷子になってしまって、道を教えてくれませんか」
「分かった。どこに行くの?」
「図書室にお願いします」
こっち、と先に歩いて案内してくれる。その後ろを付いて歩く。歩きながら前に居る獣人の騎士さんの背中を見つめる。だがすぐに振れてる尻尾に目が行った。
話しているときは終始無表情だった。無表情だったのだが……顔とは裏腹に獣の耳と尾は忙しなく揺れ動いていた。それはまるで彼の感情を表しているかのような。
無表情なのに、無表情なのに……可愛く見えるのはなぜでしょうか。まさか、これが、ケモパワー!?!?
先程のお願いだって、提案した瞬間のぱああ、と輝くような後光が見えた気がしたのに顔は無表情だし。尻尾は嬉しそうに高速で動いているし。
「……これが、ギャップ萌え……」
「ぎゃ、ぷ……?」
「いえ、何でもないです」
ボソッと呟いただけなのに聞こえるとかさすが獣人ですね。気をつけないと。
それにしても、フワフワフサフサと揺れる尻尾……。うぅ、モフりたい。いえいえ、ダメです。伴侶以外触れさせないって昨日聞きましたし。それなら獣人さんはみんなグルーミングは自分でやっているんでしょうか。ぜひともブラッシングをさせていただきたいです。
「着いたよ」
「ありがとうございます」
図書室に入ると後ろから足音が付いてくる音が聞こえる。あれっと後ろを振り向くと先程の彼が付いてきている。
「あの……?」
「気にしないで」
気にしないでと言われても気になっちゃうんです。
廊下からドタドタとだんだん大きくなる音が聞こえた。
「見つけましたよ!!」
図書室の扉を勢いよく開けたのはベイサスさん。
「カイニル様、会議の時間ですよ。早く来てください」
「でも……」
「でもでもなんでもありませんよ。皆さん集まっているんですから。さあ、早く」
彼、カイニルさんはどうやら用事があったようです。助けてくれたとはいえ申し訳ないことをしたな。弁明しなければ。
「あの、ベイサスさん。カイニルさんは私が迷子になってしまってそれで図書室まで案内してくれたんです。だからそんなに怒らないでください」
「おや、リン殿。そうでしたか。ですが、それとこれとは話が別ですよ。第一、図書室には案内し終わっている。それなら会議室に向かえばいい。ですが、こうして図書室の中に居る。つまり、会議室に来る気が全くないという気の現れです。だいたい、カイニル様はいつも会議室にはなかなかいらっしゃいませんので、こうしてお迎えしているんですよ。ですので、叱っているのはいつものことですからリン殿が気に病む必要は一切ありません」
カイニルさん……。時間にルーズなんですかね。
そういえばベイサスさんはカイニルさんのことを様付けで呼んでいるから偉い人なのかな。私のことは殿付けだし。でも幹部であるベイサスさんより地位が高いって……?
「さぁカイニル様、行きますよ。……カイニル様?」
「リンさんといる」
「駄目です。ほら、行きますよ」
ベイサスはカイニルの腕を掴んで引き摺って図書室を出て行った。カイニルは顔は無表情ながら耳と尻尾がシュンと垂れ下がって寂しそうに鈴を見ている。またね、と手を振ってきたので振り返した。
さて、本をっと振り返って気付く。ここ、図書室だった。結構騒いでたよ。
慌ててカウンターに居る司書さんに謝ると大丈夫と笑って言ってくれた。日本の図書館では静かにしないといけないってルールがあるから焦ったけどここではどうなんだろう。でも、落ち着いて本を読みたい人とかいるから静かにしていた方がいいよね。
「あっ、あの。スライムさんの持ち込みって大丈夫ですか?」
「ええ、問題ございませんよ。飲食物の持ち込みは許可できませんが、スライムが本を汚すことはありませんので」
微笑ましいと言わんばかりの笑みで言われた。何か間違ったこと言ったかな。
「今日はどのようなご本をお探しですか?」
「物語が書かれている本はありますか?」
「ございますよ。よろしければいくつか見繕いましょうか?」
「お願いします」
少々お待ちください、とカウンターから離れていったので近くの椅子に腰を下ろして待つ。
少ししたら三冊の本を抱えて戻って来た。
「私のおすすめ本になりますが読みやすい本を身繕いました」
「ありがとうございます。あの、貸し出しとかってできますか?」
「出来ますよ。貸出用に記録しますので返却時はカウンターにてお持ち下さい」
「分かりました。ありがとうございます」




