迷子になりました
「リン」
部屋の扉にはソーリャヴィシィスの姿が。どうやらお迎えに来てくれたようだ。
「お迎えねェ。今日は楽しかったわぁ。リンの世界の話、また聞かせてね。あァ魔法については今度教えるわ。明日、はちょっと予定があるから二日後でいいかしら。」
「は、はい、今日はありがとうございました。二日後、楽しみにしています」
日本の話をしているとき、ウラルの瞳は溢れんばかりに輝いていた。それは文字を初めて知った子供のような、そんなキラキラした瞳だった。
知将であるラウルは新しい知識を得ることが何よりも好きだった。今まで覚えたその膨大なまでの知識は
全て頭の中に入っている。記憶力まで優れている。それは魔国の中でも随一の知識量だ。だからこそウラルは知将なのだ。
「戻るぞ」
鈴の返事も聞かないうちに抱きかかえ歩いていく。流れるような動作で鈴が気付いたときには既に腕の中。驚く暇もない。
ウラルは困ったような、でも少し嬉しそうな顔で鈴とソーリャヴィシィスを見送った。
☆ ★ ☆
次の日。
「これからわたくしとソルは視察があるの。今日は構ってあげられなくてごめんなさいね」
「いえ、お仕事ですから仕方がないですよ。お仕事頑張ってください」
「健気で良い子だわ~。やっぱり今日の視察は辞めようかしら」
「そうしようか」
「お仕事に私情を持ち込んだら駄目ですよ!?」
む~と口を突き出すアンジェリカを出し締めるソーリャヴィシィス。なんとか説得して無事視察に行くように促す。
「城内は好きに出歩いて構わない。では行ってくる」
「お土産、期待していてね」
「行ってらっしゃい」
お土産とか、旅行に行ってくるというような言い方だったけど、大丈夫、だよね。扉の前で二人を見送る。二人が並んで歩いている姿を見るのはなんだかんだ初めてだ。腰を抱きながらゆっくりと歩む様はとても仲良く、お似合いだ。
「好きに過ごしていいって言われても、何しよう」
ベッドに腰を掛けてスライムさんに尋ねる。もちろん、返事を求めているわけではなくて。なんとはなしに口に出た。
こんなにのんびりしているのは久しぶりに感じる。思い返してみれば、日本に居た時は学校にバイトと、あとは日常に欠かせない食事や睡眠、家事ぐらいで一日は終わっていた。趣味も特にないし。
そういえば、昨日図書室に行ったとき本の題名とか読めてたな。書かれているのは知らない文字だったのに日本語が二重で浮かんでるように読めた。うん、なら、本を借りて読もうかな。魔法の本は、明日教えてもらってからでいいから。物語とかどんなのあるか、気になる。さすがにラノベみたいなのはないだろうけど、恋愛小説ぐらいはあると思う。
「スライムさん、私、図書室に行ってくるね。……っわ」
ベッドから立ち上がってスライムさんに宣言するように言い放つ。いいね、と言うようにプルっと震えてから鈴の頭に飛び乗った。
「スライムさんも行くの?」
大して重さは感じず、いうなれば帽子を被っているような感じ。返事をするように振動したのを頭越しに感じた。
「じゃあ、行こっか」
意気揚々と部屋を飛び出した。そこまでは良かった。
「どうしよう、スライムさん。道、迷っちゃった……」
記憶を頼りに歩きはしたものの、前を見ても後ろを見ても代り映えしない廊下が続く。一旦元居た部屋に戻ろうとしたが、帰り道すら分からなくなった。
今思えば図書室に言ったのは執務室から。しかも移動はほとんどがソーリャヴィシィスに抱えられての移動だ。ろくに歩いていない。しかも、ここに来てから独りになったのは初めてのことだ。
そして、未だ誰とも出会わない現状にも寂しさを増して感じさせる。城仕えの人ですら誰一人として会っていない。
「うぅ……どうしよぅ……」
不安で不安で、たまらず頭に乗っているスライムを腕に抱える。もう子供じゃないのに、涙で視界が滲む。泣きたくないのに、でも、どうしようも出来なくて、涙が溢れそうになる。
立ち止まっても何も解決しないのは理解できているので歩いてはいるが、進めど進めど変わらない廊下。心細さにスライムを抱きしめる腕の力が強まる。だんだんと前を向いていた視線が下がって俯く。
心ここにあらずで歩いていたからか、足元がおぼつかなくなって躓いてしまった。前に倒れる。腕を前に出して受け身をとればいいのに、それが最善なのに、スライムを抱きしめて身を固くした。これでは地面に直撃する。頭の片隅にはスライムだから衝撃に強いから放しても大丈夫だと、理解は出来ているのに。
ダメだ、と倒れる衝撃に備えたら、ポスっと何かにぶつかった。
「大丈夫?」
目を瞬かせていると頭上から声が聞こえた。どうやらぶつかったのではなく誰かに支えられたらしい。肩を抱えられるように支えられている。




