勉強後の雑談
リーンゴーンと鐘の鳴る音が聞こえた。窓の外に目を向けると空に夕焼けに染まり日が暮れかけている。
「鐘の、音……?」
ここ数日で聞いたことがなかったので鈴は不思議に思った。時間を刻む鐘なら昨日も一昨日も鳴っているはずだ。
「あらァちょうどぴったりねぇ」
「ぴったりって、何がですか?」
「この鐘は教会の鐘の音よ。それも、婚姻が結ばれたときにのみなる音、ね」
だからぴったりなのか。さっきまでその話をしていたから。
それにしても婚姻の時になる、か。じゃあ今まさに一つの夫婦が結ばれたってこと。誰かは分からないけどおめでたいな。
「教会で婚姻を結ぶってどんなことをするんですか?」
「そォねェ、簡単に言うと書類を提出して教会の中で親戚や友人、その場に居合わせた衆人観衆の場で二人が宣誓するの。宣誓が聞き届けられたら鐘が鳴るのよ」
「衆人……観衆……」
「他人に告げる、ということに意味があるの。ワタシたちは神を信仰しているとか宗教に殉じているとかは特にないしねぇ。だから、ヒトが神殿にて神に向かって誓うということはしないわ。その代わりってわけじゃないけどねェ、その場にいた全ての者が二人の宣誓の承認になるの」
神じゃなくて人に誓うってことなのかな。その場に居合わせた人にもって、赤の他人にも祝われるってことだよね。なんか、想像つかない……。
「まぁもちろん、書類だけ済ます者もいるけれどね。っと、そろそろ時間ねぇ。陛下が来てしまうかしら。何か聞いておきたいことはあるかしらァ」
聞きたいこと……。いろいろ聞いたから結構頭の中いっぱいいっぱいなんだよね。うーん、あっそうだ。
「私のいた世界に、異世界を題材にした物語があるんです。それに、獣人族には運命の番っていう設定?があるんですけど、こっちの世界にもそういうのってあるんですか?」
昼食時にパパ、ソーリャヴィシィスが鈴の事情は幹部の三人には伝達済みだと言っていた。だから思い切って相違点について聞いてみる。
「異世界を題材に? 行ったこともないのにどうやって?」
「想像、でしょうか。剣と魔法の世界だったり、貴族の物語だったりと」
「ふぅ~ん。異邦人は想像力が豊かなのねぇ。で、運命の番っていうのはどういうのなの?」
「えっと、確か……獣人族には一生に唯一人だけ、運命の番といわれる相手がいるんです。その相手は自分の好きな匂いが漂い一目見た瞬間にこの人だって本能で分かるそうなんです。獣人はその相手に対し盲目的に愛するんです」
「なるほどねぇ。ワタシはそォいった話は聞いたことがないわぁ。運命ねぇ、それは両人が分かるものなの?」
「獣人同士はお互いが運命の番だと分かるんですが、獣人と人間の場合だと獣人側にしか分からなくて、人間側はその感覚が分からなくて苦労をするって」
「へェ、面白そうねぇ。聞きたいのはその運命の番について?」
「それもあるんですが、えっと、獣人族の中でも竜や狼は執着心というか独占欲というか、そういうのが強いって表現されるんです」
「あァ、それはあるわよ。ワタシたちも苦労したわぁ。陛下にはね。王妃陛下に他人を、自分の子供でも触れさせなかったり籠ったりねェ。まったく、仕事もせずに。その溜まった仕事がワタシたちに来たり停滞したりするからホントに辞めてほしいわ」
ウラルさん、苦労しているんですね。でも、自分の子にも触れさせないなんて。
「ママ、私に触っていますよ……?」
「同性だからじゃないかしら?」
「なるほど……?」
話を聞いていると結構な執着心を抱いているようだが、会ってからのソーリャヴィシィスの態度を見てもいまいち納得できていない鈴。最初から何故か鈴に優しく接していたから。
「まァでも、婚姻当初に比べれば今はだァいぶ落ち着いた方ねぇ。婚姻後が一番酷かったわぁ。わざわざ離島にまで行って巣ごもりよ。しかも何年も。さすがに陛下も思うところがあったのか国が落ち着いてからだからまだ助かったけれどね」
「離島?」
「魔国の近くにある……あァこの島よ。現在はルーツァイ様がそうね。向こうには必要最低限の人数しか使用人がいないわ。それも殆ど接触も視界に入ることもしないよう徹底して、ね」
「そこまで、ですか」
「蜜月休暇が定められているのだけれど、それでも三か月。なのにあの人らは数年単位よ」
「それは……凄いですね。でも今は落ち着いているんですよね」
「対外的によ。あァいうのは根底は変わらないのよ。今だって隙を見ては籠っているもの。だから、リンをあんなに甘やかしているのには驚いたわぁ」
改めて人に指摘されるととても恥ずかしい。
個人的にはもう少し遠慮してくれると嬉しいんですけどね。申し立てても無言の圧力というかこちらが折れるまで動かないんですよね。パパもママも。




