勉強します3
「さて、次はァ、と」
「あの、パパとママは種族が違いますよね」
「ええ、そォよ。王陛下が竜族でェ王妃陛下が雪狐族よぉ。……あァ、婚姻のことを聞きたァい?」
「は、はい」
「異種族婚姻は今の時代、珍しいことではないわ。特に此処、魔国ではね。確かに種族によっては特有のルールや柵、生活様式なんかがあるけれど、それを加味しても一緒に居たいってのが愛なのよねぇ。子は基本親の種族を受け継ぐ。両陛下でいったらお子は竜族か雪狐族のどちらかになる。例外として祖先に別の種族の者がいた場合とヒト族と交じり合った場合ね。隔離遺伝って分かるかしら? 親のどちらかからではなくてさらに血筋を辿って祖父母や祖先の種族に生まれることがあるの。これは稀だけれど実際にあるわ。それで言い争い、あわや破局に、なんて哀しいことがままあるわ。不貞だなんだ、とね。これは親が分からない孤児になんかによくあるわね。自分の両親の種族が分からないもの」
「孤児がいるんですね……」
「そればかりはどうしようもなくてね。治安は良いけれど不慮の事故や突然の病死なんかは防ぎようがないもの。それ以外にもせっかく産んだ我が子を捨てる、なんて馬鹿げた者もいるけれどね。まぁ今は王妃陛下の政策もあって良くはなっているわよぉ。孤児院だとかシングルマザーや生活難者に向けた支援だとかね。だからリンも安心していいわよ」
ぐっと笑顔でサムズアップされましたが……安心って何をでしょうかね!?
いえ、まあ、結婚に憧れはありますよ。両親の仲良い様子を間近で見ていましたからね。ただ自分がっていうとこう、想像がつかないんですよね。うん。この世界の生活に慣れていないからかもしれませんが。いえ、考えるのは止めましょう。まだ若いからセーフと言うことで……。
悶々と考えていたらウラルの声が聞こえたので思考を中断した。
「あァ、婚姻で思い出した。リン、ヒト族以外に気を付けなければならないことがあるの」
そう言って鈴の隣まで寄って来た。肩同士がぴったりとくっつくほど近くに寄ったウラルに訳が分からず顔を見上げる。近いからかいい匂いが鼻腔をくすぐる。
「獣人族の耳や尾、魔人族の角や羽にはねぇ、神経が通っていてとォっても敏感なのぉ。だァかァらァ、基本伴侶以外には触れさせないのォ。勝手に触ったらダァメなの」
耳に吐息ごと吹き込まれるように囁かれる。加えて片手を腰から尾てい骨の辺りをに撫でさすり、もう片方の手は口を近付けた耳と反対の耳をサワサワと弄ぶ。さらに密着するように肩に胸を押し付け足を絡ませる。
耳から脳を直接揺さぶるような声に思考が、ぼーっとする。ウラルの手に触れられた箇所がどんどん熱を持ち、ゾクゾクと得も知れない感覚が湧き上がる。柔らかな胸と肉付きのいい足の感触が鮮明に感じてしまう。身体に熱が溜まり、目がぐるぐると回る。全身が沸騰するような熱さに耐えきれなくなった鈴は声にならない悲鳴を上げてウラルとは反対の方へと倒れていった。
凭れ掛かるように鈴に密着していたウラルは鈴が倒れるとそのまま一緒になって倒れそうになったが、素早く手をついたので鈴に乗りかかることにはならなかった。鈴の顔の隣に両手をついたウラルは全身を赤く染めた鈴の様子を見下ろし、あっと声が漏れた。
「刺激が強すぎたかしらぁ」
大した動揺も反省もせずにクスクス笑うウラルのその様まさにサキュバスたらしめていた。鈴の体を起こし数舜迷った後、自分の膝の上に彼女の顔を乗せた。魔法で冷却をかけ身体の熱を逃がしてやる。さらに空気を循環させて涼し気な風を巡らせる。これで十分だろうと鈴が起きるのを彼女のために見繕った本を読みながら待つ。起きた時の反応が楽しみだ、とほくそ笑む。
☆ ★ ☆
目が覚めるとそこには視界いっぱいに広がる胸。視界の端には天井らしきものが見える。体を固くしパチパチと瞬きしていると起きたのが気付いたのかウラルが鈴に声を掛ける。多分鈴の方に顔を向けているのだろう、が胸に遮られて顔は見えなかった。髪が一房垂れて来たのでそう思った。
「あらァ起きたのぉ。大丈夫ゥ?」
起き上がろうとして、思い至る。このまま起き上がると胸に突撃する、と。下にずり下がってから起き上がる。あらァ残念、と呟く声が聞こえたが無視だ無視。聞かなかったことにしよう。
「どうしてあん、あんなことをしたんですか……」
あんな、で思い出してしまい顔が赤くなり語尾が小さくなっていく。
「どォしてェって言われてもねぇ。んゥ~、サキュバスの性、とでも言っておくわぁ」
答えになっていませんが、とは言えず黙る。
ウラルは先の説明の合間に挟まれる怒りの思いを聞くに根は優しいのだと認識している。それでないなら何故あんなに理不尽なことに対して怒りを覚えれるだろうか。だからこれも単に鈴を揶揄っただけだと思う。……思いたい。




