陛下の暴走
「…………コホン。それで陛下、大事な話とはいったい何ですか?」
ベイサスの咳払いで部屋の空気が切り替わった。
大事な話……私が聞いてもいいのかと疑問に思う鈴。実際のところ、鈴が聞いたところで何かあるわけでもない。というか話についていけるかの問題になるが。
「ああ、それか。王を辞めてアンジーとリンを連れて隠居しようと思う」
「「………………はあ!!??」」
おうをやめるって、王様ってそんなに簡単に辞めれるものなの!?
「お言葉ですが陛下、そんなに簡単に仰りますが辞めれませんわ。それにもし仮に辞めたとして次の王を誰に務めさせるおつもりで?」
「ルツに代替わりすればいいだろう」
「そう簡単に済む話ではありません」
ソーリャヴィシィスの王辞める宣言に反論するベイサスとウラル。チラッとヨルを見ると目が合った。ヨルは鈴が此方を向いたのが嬉しいのか目を少し細め鈴に向かって手を振っている。つられて手を振り返す鈴。
(ヨルさんは我関せず、なのかな。あっでも喋らないって言ってたな。うん?)
首を傾げるが考えても先程初対面の相手なので分かるはずもなく。のんきに手を振り合う二人。
のほほんとした雰囲気の隣には切羽詰まった話し合いが未だ繰り広げられている。
「とにかく! 代替わりは出来ません。諦めてください。…………そもそも、何故、急に辞めるなどとお思いになられたのですか?」
「リンを幸せにするためだ」
急に自分の名前が聞こえて鈴はビクッとした。ヨルと手を振り合っていたから話を聞いていなかったのさ。訳も分からずあたふたとする。
「リン殿が、理由……?」
「私……ですか」
「ヒトの寿命は短いから」
「……そういう事ねぇ」
何かが分かったのだろうウラルさんは額に手を当てている。遅れてベイサスも気付いたのだろう呻いて眉間を揉んでいる。お二人ともお疲れのようだ。
「いえ、あなたのせいではありませんのでそのような悲しい顔をなさらなくても大丈夫ですよ。問題なのは陛下なので。」
慌てた様子でベイサスが鈴を宥める。そんなに顔に出ていたんですか……。
「陛下、リンを幸せにするのは構いませんがそれとこれとは話は別ですよね。どうせなら職権乱用でもなんでも使うぐらいの気概があった方がいいんじゃないかしら。というわけで陛下の代替わりはなし。はい、この話は終わりよぉ。」
ウラルがバッサリ話を終わらせる。いえ、職権乱用はいいんですか……。
「じゃあ次ね。リン」
「は、はい」
ウラルが鈴と向き合う。
「あなた、何か困っていることはなァい?」
「え、困っていること、ですか……?」
「そォよぉ。些細なことでもなんでもいいのよ。陛下がうざいとか陛下が強引だとかそんな不満愚痴なんでもいいわよぉ」
強引なのは否定しませんが……とは言えませんよ。
「……特に。パ、パパとママは私に優しいですし、逆に申し訳なく思っているぐらいで」
「申し訳ない?」
「えっと、助けてもらった上にこんな好待遇で」
「リンはもっと甘えていい。何か欲しいものはないか?」
「欲しいもの……特には」
「欲がないな」
「すみません」
「責めていない」
「ねえリン、何かやりたいこととか、知りたいこととかはないの」
「……あっ、この世界のことを知りたいです」
「この世界の、ですか?」
「はい。思えばこの世界のことは何も知らないなっと思いまして」
召喚されてからずっとあの部屋にいたからね。何にも知らないんだ。異世界の知識なんてラノベでかじった程度しかないし、それがあっているのかも分からない。あと魔法も使ってみたいよね。
「教師を手配させますか」
「そんなことしなくてもいィわよぉ。アタシが教えるわ」
「そうか、任せる」
「あの、魔法も使ってみたいです」
「ええ、もちろん。手取り足取りしィっかりと教えてあげるわぁ」
ウラルの発言にあれ、大丈夫かな、と不安になる鈴。だがバチンとウィンクされては何も言えなくなった。なるようになれ、と前向きに考えることにした。
「じゃあ早速図書室に……」
「昼だ」
鈴を抱えて執務室を退室するソーリャヴィシィス。自分勝手にも程がある。
「リン、昼食後にねぇ」
「分かりました」
頭をソーリャヴィシィスの肩から出してウラルに答える。曲がる瞬間、ヨルが大きく、手を振るのを視界の端に見えた。




