想像以上に大変でした
採寸を終えてパーテーションから出る。部屋の中央のテーブルの上にはデザイン画らしき紙や色布が所狭しと並んであり、アンジェリカとムーアが話し合っていた。その隣には先程は見なかったハンガーラックがあり、幅いっぱいまで服が掛かっている。
「こんな感じでどうですか」
「あらいいわね。ここをもう少しレースを多めにしてこっちはーー」
「商会長、採寸が終わりました」
「ご苦労様。じゃあ次はここにあるのを頼むわ」
隣にあるハンガーラックを指さす。まさか……。
「リンちゃんに似合いそうなの選んだから着て見せてね。もちろん他に気に入ったのがあればそれもね」
これにかかっているのをすべて着ろとそういうことですか。どれだけかかっているのかと数えようとして……やめた。数えただけで気が遠くなりそうだから。すでに意気消沈の鈴はたまらずため息をついた。
☆ ★ ☆
「やっと……終わった~」
バタンとソファに倒れこむ。商会の方がまだいるがそんなの気にしていられない。ハンガーラックにかかっているのを端から着ては見せ、また着ては見せの繰り返し。服を着るだけなのにすごく疲れた。
「お疲れ様でした。果実水を用意しましたがお飲みになられますか」
「あ、いただきます」
ナージュに労いの言葉とともに果実水を手渡される。体を起こして一気に飲み干す。あー疲れた身体に染み渡る。
「お疲れ、リンちゃん。次はこれね」
え、次って……と悲鳴のような声が漏れ出る。アンジェリカの手に持っているのは可愛らしいドレス。そう、ご令嬢が着るような……。
「いえいえいえ、ドレスは無理です」
両手を前に突き出し振る。全力の抵抗をする。
(ママや医者のオネエさんみたいにキレイな人なら似合うけど私みたいな容姿は絶対ない!)
馬子にも衣裳でも限度がある。と断固拒否だ。
「リン様は艶やかな黒髪に可愛らしい黒目をしておられますからどの色にも合わせられますよ」
日本人はみんな黒髪黒目ですよ!
「わたくしはこれが似合うと思うわ」
じゃーんと見せるように広げたのはパステルカラーのフリフリドレス。
「え、あの……」
「リン様はどういった形がよろしいですか? 抽象的なイメージを言っていただいても構いませんよ。お客様のご要望に合った最高のものを作るのが我々の仕事ですから」
その仕事に対する熱心さは尊敬します。でもそれとこれとは別です。
「えっと、こういう動きやすいい服がいいです」
最初に来ていたワンピースの裾を摘まんで言う。この服あまり動きを制限しないから少し気に入っている。何といってもシンプルだし。肌触りもいいんだよね。
「えードレス姿も可愛いのに」
頬を膨らせむくれるアンジェリカ。そんな表情をしても変わらず可愛いらしいのはやっぱり顔がいいからだろうか。
「私、ドレス来たことなくて。その、着るのに抵抗が……」
「強要は出来ないし、仕方ないわね」
思ったよりあっさりと意見を変えてくれたことにほっと安堵する。花の18歳だとしてもドレスを着るのには恥じらいがあるし、勇気がいるのだ。
その代わりとばかりにまた着せ替え人形と化す鈴。先程と同程度の量を着たところでようやく終了となった。購入した服はメイドさんが鈴の部屋まで運んでくれるとのこと。その抱える服の高さにを見てああ、と遠い目をする。
(あれは、全部着れるのかな……)
服を買うだけでだいぶ時間がかかったのかラッセル商会の方々が帰ってすぐに夕食の支度がされた。夕食ではソーリャヴィシィスも一緒だった。
「もうソルったら。リンちゃんの服があのワンピース一着ならそうと早く言ってよ」
「すまない」
「もしかして魔国についてからずっとあの服なの?」
「そうだな」
「服は毎日着替えなきゃダメじゃない」
「洗浄魔法で清潔に保っている」
「そうすればいいというわけではないのよ」
ソーリャヴィシィスとアンジェリカが言い合っているのを聞きながら鈴は一つ気になった。
(着替えてないってことは風呂にも入っていない……。えっ私臭い!?)
鼻に腕をつけて臭いを嗅ぐ。そんなに臭くは、ない。
「リンの体も洗浄しているから清潔だぞ。一応消臭魔法もかけている」
いえ、魔法をかければ万事解決ではないんです。
「風呂はないんですか」
「ある」
部屋に戻り、メイドさんに風呂場の案内と今日買った服の場所を教えてもらった。今更部屋の案内されるって、これ以上考えるのはやめよう。
家のより広い浴槽でしっかり温まり、疲れもありその後はすぐに眠った。




