聞きたいけど聞きたくない
「さあ、今日はたんまりと服を買うわよ!」
意気揚々にそう宣言するアンジェリカ。その背後には沢山の衣服が山のように積まれている。いえ、床に直置きではなく人が持っているのですが。服って重なると結構な重さになると思うんですが力持ちですね。と、軽く現実逃避をする鈴。その光景を前に頬が引き攣る。
何故こんな状況になったかというと深い訳が……ありません。ごくごく簡単な理由です。当然の帰結と言っていいでしょう。
☆ ★ ☆
「リンちゃん起きて! ご飯食べましょう」
勢いよく開いた扉とともに大声で叫ばれる。
「よく眠れたかしら? お腹空いていない? もうすぐお昼よ」
良く寝た、と欠伸をして上体を起こす。寝起きの働かない頭で言われた言葉を繰り返す。
(もうすぐおひる……ひる…………え!? 寝坊した!? やばい学校、遅刻する)
「遅刻する!!」
慌ててベッドから出ようとして転がり落ちる。落ちた衝撃で完全に目が覚めた。仰向けで床に寝そべる鈴の顔を心配そうな顔をしたアンジェリカが覗き込む。
「あらあらリンちゃん大丈夫? うふふ、リンちゃんはお寝坊さんなのね。そんなところも可愛いわ。お昼は運んでもらったからママと一緒に食べましょう」
アンジェリカに支えてもらいながら起き上がる。寝坊した上に寝惚けてさらにベッドから落ちた諸々の羞恥で鈴は顔を赤くし震えている。
椅子まで介護の様に付き添われ飲み物を頂く。爽やかで美味しい。
「リンゴの果実水よ。気に入った?」
「はい、美味しいです」
落ち着きは取り戻したがまだまだ顔の熱は冷めやらない。気にしないようにと用意された朝食、いや昼食を頂こうと皿に手を伸ばしたら。
「はい、あーん」
口元に差し出されたスプーン。スプーンから手、腕、首、顔と視線を辿っていくと藍白の瞳を輝かせたアンジェリカの姿。え、と固まる鈴にそれ以上は言わずにニコニコと笑むアンジェリカ。無言の圧力に屈した鈴は今日も自分でご飯を食べれない。
「そういえばリンちゃん、昨日もその格好だったけど着替えてないの?」
鈴に餌付け出来て終始ご機嫌だったアンジェリカは思い出したように尋ねる。鈴が今着ているのは白のワンピース。特に飾りもなくシンプルなものだ。
「着替え、た記憶はないです。あれ? じゃあずっとこの服で……」
(私を運んだのはパパって言ってたよね!? それじゃあこのワンピースを着せたのは……。いやいやいや。まさか。えっ違うよね。だとしたらあのオネエさん? それはそれでちょっと。心は女性と言われても男性ですし。えっじゃあ誰が着せたの!? すごく気になる。けど聞いて肯定されたら嫌だから聞くに聞けない)
悶々と考え込む鈴はパシンと手を叩く音によって思考の渦から抜け出した。
「じゃあちょうど良かったわ。今日はリンちゃんに着飾ってもらおうと商会を呼んだのよ」
ーそして冒頭に戻る
「お初にお目にかかります。私、ラッセル商会会長のムーアと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「近江鈴です。今日はよろしくお願いします」
何処からか大量の衣服を出した女性が名乗った。何もないところから突然服が出てきた。魔法!? それともアイテムボックス?
「一先ずお聞きした背丈の衣服を商会にあるだけすべてお持ちいたしました」
「そう。なら此処から気に入ったものを買ってあとは注文かしら」
「注文……?」
「リンちゃんにぴったりの服を作ってもらうのよ」
つまりはオーダーメイドですか。どんな金持ち……王妃様だからそりゃ金はあるか。大量の服の前に戦々恐々の鈴は早くも怖気つく。いったい何着あるというのか。
「それではまずは採寸から致しましょうか。ナージュ、お連れして」
ナージュと呼ばれた女性に部屋の隅にパーテーションで囲っている中へと誘導された。
「肌がお綺麗ですね。肌艶もよろしいですし。ですが少しお痩せのご様子ですね。しっかりとご飯を食されていますか?」
ナージュに言われ、鈴はハッと自分の体を見下ろす。日本に居た頃より痩せているがそこには傷一つない肌が。
(ほんとにきれいに消えてる)
思わず涙ぐんでしまったが首を振り堪える。声が震えないように深呼吸してから答える。
「ご飯食べています。すみません、せっかく採寸してもらっているのに」
「いいえ、ご健康になられるのが一番ですよ。体は資本と言いますし、ね。ではサイズより少し大きめの服を身繕いましょうか」
茶目っ気に言われ鈴は思わず笑ってしまった。するとナージュもいたずらが成功したような笑顔を見せて一緒になって笑った。おかげで緊張していたらしいこわばっていた身体も力が抜け、リラックス出来た。鈴はナージュと雑談しながら採寸を終えた。




