悲惨な少女
ソーリャヴィシィス視点
空を翔け、ブリカーラ王国まで高速で移動した。今は王宮の上空にて滞空している。
「陛下、異邦人はどのように対処なさりますか」
「見てから判断する。我は国王の元に行く。ベイサスは異邦人を一箇所に集めろ」
「御意」
魔力探知をし国王がいる部屋まで下降する。愚者でも一応は王族だから魔力量は人族の中でも多い傾向にある。その分見つけやすくもある。右手を前に出し掌に魔力を溜める。それを前方に放出し、外壁を破壊する。
ードゴォォーーン
大きく開いた壁から内に入り、部屋に降り立ち辺りを見渡す。……見つけた。
「ヒィィー、おおお前は魔王っ!! おおお、お前たち、早く魔王を倒さんか!」
周囲の状況に構わず歩みを進める。途中、魔法が飛んできたり何人かが向かってきたが一瞥もくれずに魔力で吹き飛ばす。吹き飛ばされた騎士は大きな音を立て壁にめり込み動かなくなった。
人如きの力では魔王の歩みを一瞬たりとも止めることなど出来やしない。すぐに国王の前へと辿り着いた。
「申し開きはあるか? ブリカーラ王国国王」
「なな、なんのことだ」
「魔国民を誘拐し、あまつさえ殺害しようとしただろう。その制裁を下しに来た」
「誘拐? 何を言って……」
「知らぬのか? まあ、関係ないがな」
「ヒギャッ……」
右手を横に払う。国王だった男は引き裂かれ、物言わぬ肉塊となった。
「陛下、誘拐の首謀犯は此方の宰相です」
「ご苦労」
監視についてた影の一人が報告する。その横には後ろ手に拘束されうつ伏せに倒れ呻いている男がいる。こいつがか。
「何故魔国の子を誘拐した」
「何故? 決まっているだろう! 人族こそが頂点。人族以外など存在することこそが罪なのだ。子だろうが魔族は魔族。魔族は死すべき。魔族は滅ぶべき。奴らも我々のために死ねるのだ、感謝こそすれ恨むのは甚だおかし……ゥガァ」
「愚問だったな」
聞くに堪えない男の言葉を遮るように魔力でその体を潰す。
「王宮を破壊する。崩壊に巻き込まれないようにな」
「御意」
次は異邦人か。
ベイサスの魔力を辿り一直線に進む。道中の邪魔な壁や床を破壊しながら最短距離で向かう。近づくにつれ騒がしい声が大きくなっている。最後の壁を破壊した瞬間、声が止み静寂が訪れる。
ベイサスに近寄りながらその近くにいる四人を見た。あれが異邦人か。
「一人足りないな」
「王宮全体を探知しましたが反応がありませんでした。すでに此処にはいないのかと」
ベイサスは一礼し後ろに下がった。報告でも子を攻撃したのは四人と言っていたな。
「……だ、誰だお前は!」
「やばっチョーイケメン!」
「我は貴様らが言う魔王だ」
「なっ!?」
「お前が魔王……」
「貴様らは魔族の子を殺そうとしたな」
「魔族は、敵だ」
「人族の平和のため」
「話にならんな」
ほんの少し魔力を放出する。魔力を浴びた四人の顔はたちまち真っ青になり、体が大きく震えている。
さて、どうしようかと思案していると女がこちらに一歩踏み出した。
「魔王がこんなイケメンなんて聞いてないわよ……。まあいいわ。ねぇあなた、アヤの彼氏にしてあげる」
コノ女ハ、イマ、ナント言ッタ?
「無礼だぞ女。このお方を誰と心得る」
「魔王なんでしょ? あら、それならアヤは王妃になれるのね。ねぇアヤを妻に出来て嬉しいでしょ?」
「陛下には既に伴侶がおられる。妄言も大概にしろ」
「なら、そんな女とは別れてアヤを娶りなさいよ」
誰ガ、誰ト、別レル、ダト?
膨大な魔力が一気に溢れ出る。見開いた眼は瞳孔が縦に割れていた。
刹那
女の体が破裂し、弾け飛んだ。
女は声すら出せずに終わりを迎えた。死んだことすら認識できなかったのかもしれない。魔王の逆鱗に触れたのだとそこに居たものは瞬時に理解した。理解せざるを得なかった。それほど、圧倒的で強大だった。
目を閉じ、一呼吸で魔力を抑える。目を開くと瞳は元通りに戻っていた。
残る三人は青を通り越して白くなった顔で固まっている。それを一瞥し、外へと歩いた。
これ以上この場に居るとまた怒りが再熱しそうだった。だから落ち着くためにも離れるという手段をとった。
あとの異邦人についてはベイサスが何とかするだろう。生かすも殺すも、もはやどっちでもよかった。
☆ ★ ☆
再び王宮を見下ろせる高さまで上昇し、徐に腕を薙ぎ払う。すると王宮に一閃の亀裂が入り、そこから崩れていく。
崩壊していく王宮を眺めていると、微弱だが変わった魔力を感知した。
気になって魔力を探知した場所に向かう。その場所は先程の攻撃で天井も壁も半壊していた。もう少し位置が悪かったら危なかったなと内心少し焦った。部屋に降りると息を呑んだ。家具も何も無い部屋。そこにはボロボロの格好で倒れている少女がいた。黒髪黒目の少女。この世界では見ない黒色を持った少女。異邦人の最後の一人。
「っ、これは……」
あまりにも酷い。あまりにも惨い。肌が見える部分にはいくつもの痣が見える。その数は数えきれないほどに。これが人のやる所業か。魔族よりもよほど残酷ではないか。この少女がいったい何をしたというのか。
瞠目し固まっている間に少女はこちらを向いた。正確には顔を上げただけだが。
「お…願い、殺し…て」
掠れていてか細い声だった。殆ど空気のような声だったが確かにそう言った。少女を凝視していると今度は笑みを浮かべた。少しでも動くのすら困難なのだろう。その笑みは少し口角を上げただけだった。
そして、限界だったのかパタリと頭が落ち、動かなくなった。
そこでやっと頭が、体が動いた。
「……っおい、大丈夫か!?」
慌てて近くに寄り少女の体を抱き起こし、その小さな体の異様な軽さに驚いた。生命力が乏しい。風前の灯火だった。この様子なら魔力を察知できなかったのも頷ける。魔王ですら気づけたのはほんの偶然だったのだから。
しかし不味い。このままではこの哀れな少女は死んでしまう。
状態から見て一日や二日の出来事ではないだろう。もう少し早くこれば……とそこまで考えて頭を振る。もしもの想像など所詮想像に過ぎない。もう起きてしまったことにそのような考えなど考えるだけ無意味だ。それより今すべきことを成すのが先だ。
少女をマントで包み、壊れ物に触れるかのように慎重に抱えて飛翔する。負担が掛からぬように魔法で風を避け、刺激を与えないようにだが早急に空を翔る。
「オルガ! オルガはいるか!」
城に着きすぐにオルガを呼ぶ。オルガは魔国一の回復魔法使いだ。
「お呼びですか、陛下」
「この少女を頼む」
「御意」
オルガは少女の容態を見て目を見開いたが、すぐに真剣な顔になった。少女を受け取りすぐさま踵を返した。
少女を運ぶオルガの背を見届け呟く。
「願いを叶えてやれなくてすまない」
あんな状態の子供を見殺しにするなど、出来ない。少女が吐露した最後の願いを叶えるという選択肢は最初からない。その代わり、死にたいと思わなくなるほど幸せにしてやる。




