新たな問題
ソーリャヴィシィス視点
鈴を部屋まで運び、ベッドにそっと寝かせる。するとすぐにスライムが鈴のもとにすり寄る。
ここに連れて来た当初とは違って穏やかな表情で眠る鈴を見ながらまだ記憶に新しい出来事を思い浮かべる。
☆ ★ ☆
それは突然起こった。遠くの方で空間に歪みが生じたのを感じた。
(なんだ? この位置……ブリカーラ王国か?)
「どうかしましたか、陛下」
「少し気になることが起きてな。ヨル」
名を呼べば音もなく現れる。
「ブリカーラ王国を調べろ」
一礼してまた音もなく姿を消した。
「またあの国、なにかあるんですか」
「どうせまた、しょうもないことでも企んでいるんでしょぉ」
「凝りませんね」
「トップがクズでェ下もクズな国だからぁ、どうしようもないわぁ」
「いい加減滅ぼしても問題ないと思いますが」
「あらァさすが脳筋エルフねぇ。あそこはあれでも流通の要国だから容易に手出しできないのよぉ」
ベイサスとウラルが言い争う。
ブリカーラ王国は人族主義なうえ、我が国と森を挟んだ向かいに位置しているから度々諍いが起きる。といっても向こうが勝手に攻めて来ては返り討ちにあって終わっているだけだが。懲りずに何度も来るから諦めが悪い。
少ししてヨルが報告書を持って来た。
読み終わったときにはたまらずため息が零れた。呆れた。ここまで愚かだったとは。
なんでも、五人の異邦人を魔王を倒すために召喚したという。
目の前のベイサスとウラルにも渡す。素早く読みこちらも呆れている。
「これはまた、何と言いますか」
「バカだクズだとは常々思っていたけれど、ここまで酷いとはねぇ」
「何も知らぬ無垢な少年少女を……」
「この世界の知識がないからァ思い通ォりに操れるとでも考えていそォうねぇ」
「ウラル、召喚について心当たりは」
「聞いたこともありません。そもそも境界を渡れるのは魔族のみですし、またエルフ族が使う転移魔法とも違うと考えていいでしょう。どのような陣が使われたかは直接見てみないと詳しくは言えませんが、ただの人族風情の力だけで行うのは不可能かと」
何百年と生きてきたが異邦人など聞いたことがない。もちろん、そのような事が書かれている書物もないだろう。
「やっていることは誘拐と変わりないわ。それに元の世界に戻せるかどうかも……確証はないわ」
「陛下、どのように致しますか」
「取り敢えずは様子見だ。異邦人についてもだ。他国のことだから介入はしない。ただし、此方に手出ししようものなら容赦はしない。それが異邦人だとしても、だ。」
「「御意」」
頭を切り替え仕事に戻る。実際何事もなければ関係ないことだ。だが、先程から妙な胸騒ぎが消えない。杞憂だといいんだがな。
☆ ★ ☆
あれから数日が経過した。
「陛下、報告」
ヨルが慌てた様子で執務室にやってきて報告する。ヨルが声を出すとは珍しい。それほど緊急性が高いということか。遅れてヨルの部下が部屋に入ってきた。
「報告します。ブリカーラ王国が魔国の子を数人誘拐した模様。監視をしていた者が保護し、既に親の元へと送り届けております」
「……」
「王国の鍛練場で騎士や魔術師がいる中、異邦人らに誘拐した子らと戦闘をさせていたところを発見しました」
怒りで魔力が漏れる。どこまで此方を馬鹿にするのか。報告に来た影の者が魔力に当たって震えている。
「続きを」
「異邦人の四人は躊躇いもなく子に攻撃を仕掛けました。その様子からして殺すつもりだったのだと推測します。発見した影が救出し事なきを得ました。また、子供らに怪我はありませんでした」
「報告ご苦労。ヨル、工作部隊を。ベイサスは準備しろ、出るぞ」
「御意」
我が国の子供たちを誘拐し、あまつさえ闘わせるなど許し難い。これまで生かしてやったがもう我慢の限界だ。ブリカーラ王国は滅ぼす。
窓から外を見やり、ブリカーラ王国の方角を睨む。空はもうすぐ夜の帳が落ちる時間だった。今夜は満月か。




