3話
説明ぽいのが続いて申し訳ない
* オリー *
「そういえば結構色んな人がいるんだニャ」
市場をひやかしながら、マールについていく。もうどこのお店に行くのかは決めてるらしい。
「この街は大陸交易路東側の入り口に位置してるから商人の往来とか多いね。その分色んな人種がやってくるから、大通りを見てるだけで飽きないよ」
だねー、ファンタジーって感じがするや。黄色人種もちょこちょこ見かけるし、肌が赤銅色の人もいる。黒人は見かけないわけでもないが、そんなに多くないな。
「色んな肌の人間だけじゃニャくて、人間には見えない人たちもいるニャ」
ここでの呼び名がわからないからあれだ、ファンタジーでよく見るエルフっぽいのとかドワーフっぽいのも見かけるし、中には2mを越えるような大きさの人?もいた。 初めて見たときは普通に大きい人間かとも思った。同じような人が何人か力を合わせて、大きな荷物を運んでたのを見かけたのでそういう種族らしい?
そういや人間は自分たちのことを『人間』って呼んでるのかね? あと、この世界の支配種族ってなんだろうね?
「おや……、御父様の方針で亜人とも取引をしているの。そのことについて王都や一部の教会からは色々言われてるみたい」
流石に親父とは言えなかった様子。口調については突っ込まないでおこう。
「戦争前は時々魔族も来てたらしいね。あたしは子供の頃、家から離れすぎるのを禁止されてたから見たことないけどさ」
魔族ってのはどんなのなんだろね。居たら是非見てみたかったのに。口調もすぐ戻したね。
「マールは商売とかも詳しいのかニャ?」
「ニールは交易以外は目立ったものがないからなー。鉱山はないし、作物も輸入に頼ってるし、海に面してないから海産資源も無いし」
せめて大きな川でもあると違ったのにと肩を竦めるマール。
「森があるから木材を輸出してるくらいだね。それも森の民との取引条件であまり切りすぎないように言われて、大分抑えてるらしいよ」
「ニャー」
ほー、って相槌を打つつもりがニャーになる。これほんと不便だな。
「ほんとは色々と関わりたいと思ってます。お父様や叔父様との兼ね合いもあって、重要な仕事は任せてもらえないのよね……」
彼女は、そう寂しそうに独り言っぽく呟いた。僕はまだ彼女の事情を全く理解してない。まぁ彼女にしてみれば僕なんか流れ者と一緒だから、相談相手にもならないんだろうとは思う。だから今の言葉には何も返さないでおくよ。でも、何かあったら相談くらいには乗りたいと思えるほどには、あなたに興味を持ったからさ。
憂鬱を振り払うかのように、大仰な振る舞いで進行方向にある店の一軒を指さした。
「あそこ、あの店ね。猫ちゃん達は顔も出さないでね」
その言葉に猫たちが抗議の声をあげるが、あとできちんと猫の分の食事を買って食べさせることで合意をした。ペット同伴可能なお店なんか流石になさそうだよね。
東大通りに面した料理店に入る。適当な席に座ると給仕が注文を取りに来た。門構えや店内の誂えでもわかったんだけど、ここはそれなりの高級店らしい。 店内を見渡してもメニューらしいものは置いてないしお品書きも書いてない。何が食べられるかわからないし値段もわからなくて大丈夫なのかね。マールの方で給仕と何を注文するか決めたようだ。僕の分もきちんと頼んでくれてるみたいだし大丈夫か。
「ここのお店、話には聞いてたから一度きてみたかったんだ」
「初めてきたのかニャ」
「なかなか自由になる時間が無いから」
「ご一緒させて頂いて光栄の極みですニャ、お嬢様。ありがたくご相伴に預かりますニャ。聞きづらいことニャ、会計は君持ちだよニャ?」
「流石にあんたに集ろうとは思わないから」
「ありがとう、安心して味わえそうニャ」
胸をなでおろすと料理が来るまでしばしの時間をおしゃべりに費やすことにした。
「先に言っておくニャ。この国の作法とか、全然わからないからニャ。いつもの晩餐でも適当なのはわかってると思うニャ」
「いちいちうるさいことは言わないから、あたしの真似をして」
そんなことだろうとは思ってた、と肩を竦める。
「ところでこの地域の名物料理とかあったら教えて欲しいニャ」
こっちに来てからそれなりに経って色々食べたとは思う。でも米を食べていない。元の世界だとパン食がメインではあったものの、やっぱりご飯が食べたくなるんだよね。どこかの地域で稲作やっないのかな。
「さっきも言ったけど、ここは他国への玄関口なんで、色んな地方の様々な生産物が入ってくるんだ。だからあちこちの料理が食べられる。でも、この地域の名物料理みたいなものは特にないんだよねー」
「あぁ、色んなものが食べられるってのも魚は別かな。あまり入ってこないから魚料理は少ないんだよね」
この国でも南部と東部は海に面してるからそっちならまだ魚が食べられるらしい。
「西方から珍しい果物も入ってくるから食べてみるのもいいね。ちょっと高いらしい」
そう言えばこの人の経済観念は参考にならないんだった。多分ちょっと程度では済まないくらいの値段なんだろう。
「美味しいもの色々食べてみたいニャ」
薄々わかってた。この国の料理はあんまり美味しくない。勿論、流通やら生産性やら技術的な問題やら色々と複合的に重なり合っての結果だとは思う。
「そうそう、お米とかはどこかで作ってないのかニャ?」
「あー、西方帝国の主食だっけ? 昔西方人の商人がうちに献上したことがあったよ。でも、調理に失敗したとかでベチャベチャしててあんまり美味しく無かったなぁ」
米は炊き方わかってないとなぁ。まぁ僕も飯ごう炊飯くらいはキャンプでやったことがある。ただし土鍋で炊いたりとかはしたことない。一応、お米があるところにはあることがわかったから良いか。
あとはここのお店の料理が美味しいことを祈ろう。お、料理が来たね。スープに焼きたてのパン、炙った牛肉、あとは果汁で割ったワインか。こりゃ期待できそうですやん。
「ここの牛肉はキリ産、隣国のキリ地方の名産地の品だから美味しいらしいよ」
彼女の真似をして、ナイフと歯が二本しかないフォークで肉を切り分ける。溢れる肉汁に、ソースが絡み合って湯気が鼻腔をくすぐった。我慢できずに一口くちに放り込む。
「ウミャッ……」
「おいしっ」
食べさせてもらっててこんなことを言うのもアレだが、お屋敷の食事と桁が違うよ? ソースの味もかなりのものだし、香辛料も適度に使ってて、肉料理だけなら元の世界のものと遜色無いもん。いや、きちんと美味しいものあるじゃんこの世界も!
こんな美味いのなら毎日でも食べに来たいよ。あ、背負い袋から体半分出してカルネがこちらの様子を伺ってる。ダメだからね! 猫には人間向けの味付けは濃すぎるから! 一口もあげまへんで!!
「残念ですが、うちで出しているものはこれの足元にも及びませんね……」
あまりの美味しさにマールも口調が戻るくらいだよ。彼女も凄い美味しそうに食べてるしやっぱり家の料理に不満があったんだろなぁ。
彼女に曰く、ここの料理はこの国の料理じゃなくて、隣国からきた料理人が出してるお店だそうな。この国は古王国って名乗ってるそうで、保守的な人間が多いこともあってあまり新しい方法とかは受け入れないんだって。その中でもこの街は、異国の文物も大量に流入するからまだマシらしい。
スープはとろみがついていてポタージュっぽいものだった。ポタージュっていう単語は無いだろうけどね。不味くはないんだがこれは普通かなぁ。まぁ温かいスープはそれだけで美味しいね。お屋敷で出てくるものは大量に運んでくる途中で冷めたりしちゃってるのがね……。
パンは焼きたてで申し分ない美味しさだった。形状はロールパンに近いので、バターが使ってないのだけが残念だ。チーズでもいいからちょっとあれば更に美味しくなりそうな。
あと欲を言えば、サラダとかも食べたいなぁ。この国に来てから食事でサラダが出たこと無いんだよね。野菜を食べる習慣がなかったりして。そういえばジャガイモとかトマトは見たこと無いね。類似の植物も無いのかねえ。芋は山芋っぽいのなら出てきたことがある。
全体として、量はそれほど多くなくて、どちらかというと女性のマールに合わせた感じだった。味の方はケチのつけようがなかった。ワインも美味しかったし。
代金はマールが支払ってた。てっきりツケにでもするのかと思ったよ。あーそうか、初めて来るお店だって言ってたもんね。一応お忍びぽいしツケは無理か。




