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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
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2話

* マリークレスト *



 あの後、キジトラちゃんも同じ魔法をかけてもらって私と会話が可能になったのを見届けました。でもキジトラちゃんの方は語尾がそのままだったので、オリーはえらくお冠で白猫ちゃんに食って掛かってます。


「さて、会話も可能になりましたし、街を案内しましょうか」


「ニャ? あぁ、誰かに頼んで街を歩きたいと思ってたんだニャ!」


 流石に猫が通訳をする異邦人を連れて町中は歩けなかったのですよ。街に普段住まいしている有名な魔導師の使い魔とか言うのならともかく、主人からして「ニャー」しか言えないのではちょっと。今も語尾がかなりあれですけど、そこは怪しい西方人という扱いでなんとかなると有り難いのですが。


 オリーは随分嬉しそうにしています。やっぱり会話ができると違いますね。


「お姫様がそんな簡単に、出歩けるものなのかニャ?」


「変装してたらわからないものです。そもそも私の顔を知ってる人間の方が少ないんだから。家の者ならともかく」

 

 そういえば、お姫様って呼ばれてるとは思ってませんでした。間違っては居ないのですが町中でもそう呼ばれると流石に困るんですよね。白猫ちゃんからお嬢様と呼ばれるのも困りますし、なんて呼んでもらいましょう。普通に愛称でいいですかね? 私こういうのを考えるのは苦手なのですよ。お父様以外の異性から愛称で呼ばれるのは初めてですが、まぁいいでしょう。ちょっと気をつけてもらわないといけないことがありますが。


「外に出ている間、私のことはマールとお呼びください。一応身分を隠した方が良いので。但し、屋敷内では無用にお願いします。特に公式の場で愛称で呼ばれるのは困りますから」


「マール? 呼び捨てでいいのかニャ?」


「結構ですよ。いっそのこと、町娘の真似をして喋り方かも変えてみましょうか」


 慣れるまで大変そうですが面白い試みです。


「そういえば貴方のことはなんと呼べばよろしいので?」


「既にオリーって呼んでるニャ?」


「でもそれは家の名前でしょう?」


「ニャ?」


 なんだか噛み合ってませんね。私も愛称を教えて頂きたいのですが、彼の名前はなんでしたっけ? イァナガワ? 彼の元の世界だとどういう愛称になるんでしょうか。


「あぁ、勘違いしてるニャ。僕は名前がオリーニャ、ヤナガワが家の名前というか家族の名前だニャ」


 前後が逆なのですね。そういう呼び方の文化圏もあるとは聞いたことがありましたが、彼もそういったところの出身だとは思ってませんでした。


「失礼。では今まで通りオリーでよろしい?」


「今から他の呼び方で呼ばれる方があれだからそれで頼むニャ」


 彼に頷いてみせると、ソファーでくつろぐ猫たちに目を向ける。


「町中では猫ちゃん達はなるべく喋らないようにして頂けます?」


「問題ありません。緊急時にはその限りではありませんが」


「えー、折角喋れるようになったんだしかまわねぇだろ? 使い魔だっけか。そういうフリしとけばいいじゃん」


 使い魔も一般的とはいい難いので難しいんですよね。


「カルネ。面倒事は避けるべきなのですよ」


 キジトラちゃんは喉を震わせて文句を言ってますが可愛いものですね。


 さて、出かけるには相応しい格好に着替えないと。あと猫たちを入れて運ぶものが欲しいところです。この時間は人が多いですから雑踏をこんな危険な生き物を引き連れて歩くのは問題でしょう。


「動きやすい服装に着替えてきます。裏口を使いますから、庭の噴水のところででもお待ち下さい」


 姿見の前で女中のナナンに着替えを手伝ってもらいます。よく考えたら家族以外の男性と二人きりでお出かけというのは初めてです。叔父様でしたら案内が必要なら街の衛士でもつけて引き回せばいい、とか言いそうですが。


 彼には私の味方になってもらわなければなりません。先程愛称で呼んでもらえるようにお願いしたのは、身分を隠す以外に少しでも親しみをもってもらえたら、などという下心もあってのことです。今日のお出かけが上手く行ったら、また計画するのも悪くはないかもしれませんね。


 案内ついでにこの国の現状なども伝える必要があるでしょう。屋敷の中だとどうにも家の者の視線が気になりまして。年頃の娘を氏素性の怪しい男と二人だけにしないという点だけでは、叔父様だけでなく他の者達も徹底していました。


 こちらの一般常識や社会のこと、魔法のことだけなら家でも良いかもしれませんが、叔父の話はどこで誰に聞かれるかわかりません。そこは外であっても注意しないと。


 うーん、私は町娘のような格好で構わないと言ったのですが、ナナンに任せていたら随分気合を入れてますね。目立つのも困るのでほどほどにしてもらいましょう。あ、化粧は濃すぎないように、香水もつけすぎないようにお願いね。いやだから、そんなにしなくてもいいのよ! 


 なんとかナナンを説き伏せて逃げてきました。オリーは噴水の縁に座って庭を見てますね。陽の光の下で見ると、それなりに整った顔つきをしているのがわかります。というか、あれなんですよね。美醜とは関係なく顔が綺麗なんですよね。痘痕も無いし、歯が白くて欠けてないっていう。やはり庶民には見えません。見たことは無いのですが西方の貴族はこんな感じなのでしょうか? あぁ、彼は西方人ではありませんでしたね。


 実際のところ、今までは猫を介してて離していたので彼個人のことはよくわかっていません。時間があったらその辺りも聞いてみましょうか。


「お待たせしました。参りましょうか」


「いや、僕も今来たところだニャ」


「あら、どこかで時間を潰していたのですね」


「いや、言ってみたかっただけニャ……」


 はて? なんのことかよくわかりませんね。


 裏門をくぐり、横道を抜けて屋敷の前まで伸びている北通りに出ます。途中背負い袋を渡してそこに猫を入れるように言いました。あとは、少しでも目立たないようにということで帽子も。


 背負い袋は紐を緩めれば一匹くらい顔を出せるだろうと思ったのですが、あっというまにキジトラちゃんの方が横に穴を開けて二匹とも顔をだすという状態になっています。これはこれで目立っちゃうじゃないですか。


 北通りを南下しながら軽く説明します。とはいえこの辺りは高級住宅街という以外、言うことはあまりありません。騎士団の上長やニールの法務貴族などの館があります。多国間で貿易を行っている豪商の仮宅も多いそうで。


 その分治安はニールで一番良いですね。詰め所もありますし、衛士に出会う確率が一番高いのはここか西門でしょう。また、この通りでの開店許可は降りないそうなので、飲食店すらありません。その分不便らしいです。

 

 道端で遊んでいる子どもたちも身なりの良い子ばかりです。私も昔はこの通りで遊んでましたね。


 歩きながら会話を続けます。そういえば口調を改めるつもりでした。


「ちょっとここから口調を変更しますね。あまりかしこまった物言いをしていて目立つのもあれなので」


「わかったニャ」


 私だけ目立たなくてもオリーがこの喋り方ではダメなのでは……。


「ゴホンゴホン、えーっとこんな感じかな。どう?」


「ニャ」


 相槌も「うん」じゃなくて「ニャ」なんですね。ま、まぁ気にしないようにしましょう。


 そうこうしている内に中央広場が見えてきました。勿論オリーもここは何度か通っているので、始めてきたわけじゃありません。そんなにキョロキョロしないで、お上りさんみたいですよ。お上りさんみたいなものでしたっけ。


「ここがニールの中心。往来も多いので一応露店禁止。あそこの、広場で一番高い建物がこの街の太陽神殿。どこの街でも中心部に建てられるらしいよ。あ、神殿は人も多いしあんまり近づかない方が良いから」


 西方人はこちらとは独自の信仰を有しているらしく、同じ神でも違う名前で呼んでいたり礼拝方法も異なるらしいのです。外見が西方人な彼は火種に成る可能性があるかもしれない。信者はともかく、司祭様たちはわかりやすい紋章の入った格好をしてるので覚えてもらわないと。


「神殿の右から順に、市議会会館、商工組合総会議所、市役所、調停神の裁きの庭、騎士団支部、ニールでも最高の宿『流星雨』などが合間合間に通りを挟んで建ってるってわけ」


「市議会があるっていうことは選挙とかやってるのかニャ?」


 とオリーが驚いた風に聞いてきました。


「えっと、議席自体は割当が決まっていまして、商工組合の割当分を組合内部で決めるのに選挙とかいうのをやっていたような気はします」


 議席割当は辺境伯、市長、騎士団長、宗教枠、貴族枠、組合枠とかそういうのだったような? あと、投票の重みもそれぞれ異なるとかどうとか。私ももしかしたらいつか参加することになるのでしょうか。


「そういうことなら僕が想像してたのとはちょっと違うみたいニャね。あと口調戻ってるニャ」


「おっと、すまねぇ。気にしないでおくんな」


「変な方向にいっちゃってるニャ」


「……」


 気を取り直して案内を続けましょうか。


「で、広場を中心に東西に伸びるのが中央大通り。王都がある方向の東大通りは市場になってるから露店も多いよ。荷馬車も時々走ってるから気を付けてね」


「西大通りは宿屋が多いんで宿町通りとも呼ばれてたりするかな。あと、西大通りの南側からその、悪所というか。まぁあんまりあんたには関係ないかも?」


 うーん、女性が話すことではないですよね。ちなみに私は当然のように、悪所に足を踏み入れたこともありません。あと、あんたって呼んじゃったけどいいですよね?


「基本的に貴族や他国の使節以外は街中での騎乗は禁止だからね。騎士団も任務のときは騎乗してるから避けたほうが良いかな。あと、馬やロバの糞が多いから足元にも気をつけて」


 あちこちでボロ拾いをしている人たちが片付けてはいるんですが、間に合わないことも多いので。 


「討伐のときにロバに乗せてもらったニャ。一人だと多分上手く乗れないと思うニャ。馬も乗ったこと無いから乗れニャいニャ。練習して乗れるようになった方がいいのかニャア」


 あー、どうでしょうね。と思ってオリーの方を振り返ったら背負い袋から頭を出してる白猫ちゃんと目が合いました。この子には街の案内よりも私の方が興味あるのかしらね?


「庶民はそんなものよ。どうしても乗りたいっていうのなら考えとくわ」


 実際は乗れた方が良いとは思います。私も嗜み程度にしかやっていないから教えられないので。騎士団のどなたか、オータル卿辺りなら喜んで教えてくれそうです。


「気を付けなきゃいけないのは街の南側の貧民街と外壁に張り付くように作られてる貧民窟」


「貧民街と貧民窟って一緒じゃないのかニャ?」


「南側端っこの城壁寄り周辺の貧民街は元々あったもので、この街の下層階級の中でも特に貧しい者たちが寄り集まっているところ。勿論治安は宜しくないらしい。あたしも入ったことは無いね」


「ニャニャ」


 今のは、「うんうん」かな?


「貧民窟の方はさ、何年か前まではそんなものなくて、外壁東側の周囲に市街に収まり切れない隊商が天幕はってたくらいなんだけど、今は魔軍の影響で他所からの避難民とかが集まってきて、住み着いちゃってさ」


「基本衛士も街の外には関わらないようにしてるし、あんたも物見遊山で見に行くのはやめといた方がいいよ」


「一応心配してくれてるのかニャ?」


「あんたに何かあったら暴走する連中がいるでしょ。どれだけ被害が出るかわからないんだから」

 

 あ、白猫ちゃんが頷いてる。抜けてる飼い主を持つと大変そうね。


 話を戻すね、と言いおいて。


「買い物するのなら東大通りでなんでも手に入るから、そこで済ませておけばいいよ。他に行くところも特にないでしょ。食べ物屋も多いから東は本当に便利」


 じゃ、東の方に行ってどこかのお店でお昼にしましょうか。

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