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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
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1話

* オリー *



「オリー、貴方に会話能力を付与する魔法の目処がつきました」


 猫に揺り起こされ、寝ぼけ眼をこすっていたら、ビアンコが開口一番そうのたまった。


「ニャー!! (オオ、マジか!!)」


 宿場町の出来事から二日目なので、多分早い方だとは思う。昨日丸一日ビアンコはお姫様と話をしてた。色々魔法について教わったらしい。一応僕も横で聞いてた。聞いてはいたもののサッパリ理解出来ないし、ちょっと見てもらったら僕には才能が無いらしいこともわかった。魔法使ってみたかったなぁ。


「まぁ色々試しながらやることになるので、途中おかしなことになるかもしれませんが、そこは気にしないで頂けると幸いです」


 何故すぐに魔法を試さないかというと、一応お姫様が居るところでやると約束させられたらしい。本当に出来るのならさっさとやって欲しいけどね。


 ベッドから起き上がって庭を見下ろす。庭の真ん中の柱が日時計になっているそうな。で、時間がわかるように目印として何種類もの花が植えられてる。勿論季節によって変わるから、大雑把な時間しかわからない。いやー、最初は夜だったこともあって気が付かなかった。次の日の朝も気が付かなかったんだけど。


 今は大体8時過ぎくらいかね? 軽くでいいから朝ご飯を食べたいと言ったら昨日から出してもらえるようになったので、厨房へ受け取りに行く。昨日はわざわざ持ってきてくれてさ、ありがたくはあるものの、途中で冷めるし、取りに来させるのもあれなんで、自分から行くって言っておいたのよ。


「ニャニャー(じゃあ飯くいに行くべ)」


「ニャー(あいよー)」

 

 カルネがあくびしながら返事をした。ビアンコはスチャっとベッドから飛び降りてこちらを見上げている。さっさと行こう。



 食後にそこらを歩いてたメイドさん(その単語がこの世界で正しいのかは知らない)に声をかけて、お姫様と会う約束があることを伝える。正確には僕が、じゃなくてビアンコが約束をしてた。


 この家の人達はみんな僕が猫みたいに鳴く人間だってのは理解してるし、喋ってるところも聞かれてる。でもお客さんを笑ったりはしないのが偉いなぁ。家宰さんは別だが。あの人はさん付けで呼びたくないな。なんか嫌われてるぽい。


 メイドさんが確認して、戻ってきて案内してくれることになった。昨日も使ってた三階にある長ーい部屋だ。部屋の片側が書架になっていて、反対側にはこれでもかってくらいに絵が並んでる。天井も天井画とか凄い。絵の良し悪しはさっぱりわからん。ただまぁ、貴族の屋敷だなって感じはする。


 僕たちの姿を見ると、お姫様は読んでた本をテーブルに置いて立ち上がって会釈した。メイドさんはそのままお姫様の椅子の後に立って、目を臥せってる。出ていくわけではないのね。


「お早うございます。ビアンコさん、カルネさん、オリー」


「お早うございます。お嬢様」


「ニャッ(おはようございます)」


 名前の順番に悪意は無いよね? 無意識だよね? いやそれはそれで……。敬称もついてないし。やはりここで僕は猫以下なんだろうか。


「早速ですが、昨日話していた魔法の目処がついたので実践したいと思いまして」


「あら、もう? 段階を踏まずに一気に?」


「昨日教わった術を応用すれば可能ではないかと」


 僕を置き去りにして話は進む。実際不便だからさっさとなんとかして欲しいのは事実だしなぁ。でも危険はないよね? 猫になったりしないよね?


「あれだけで新しい魔術を編み出すなんで本当に優秀ですね。貴方なら学院で教鞭を取ることが出来るかもしれません」


「いえいえ、私も学んでいる途中ですよ。人に教えるなど滅相もない」


 猫が教師か。まぁ気まぐれだから無理じゃないかなぁ。


「さて、早速ですがオリー、このソファーに座ってください」


 ビアンコが二人がけソファーの背もたれの部分に飛び乗った。僕は言われるままにビアンコに背を向けて腰掛ける。お姫様も近くによってきてビアンコを見つめている。


「動かないでくださいよ。バランスが崩れるとよろしくないことが起こるかもしれませんん」


 ビアンコが僕の頭に登ると前足二本を揃えて僕の前頭部に押し当てた。そのまま呪文の詠唱に入る。前はニャーニャー言ってるだけにしか聞こえなかったものが、今は何故か言ってる意味が理解できた。


「……懊悩のためいき、苦悶のざわめき、後悔の記憶が心をかき乱す。言の葉を紡ぎ、舌は踊る。我が意を受けて永劫の底から響く声よ……」


 聞かなかったことにしたい。え、何これ、会話の魔法でこんな呪文使うの? なんだか凄い怖いよ。ビクっとしたらちょっと爪立てられた。動かなきゃいいんでしょ、動かなきゃ!


 詠唱が終わってからビアンコが頭から降りた。


 ビアンコ、お姫様、カルネまでもがじっとこちらを見つめている。病人の経過を見守る家族のような? クララが立ったしなきゃダメかな。仕方なく口を開く。


「えーと、どうかニャ? 伝わってるかニャ?」


「聞こえてますよ! 人の言葉に聞こえてますよ!」


 お姫様もえらいはしゃぎっぷりだった。メイドさんも驚いてた。


「ニャー(兄貴よー、俺の方はまだなのか?)」


 あれ、カルネの方は猫の鳴き声なのに、僕には理解できるな。そこはそのままなのかね。


「お前もすぐにこちらの方と話せるようにしますよ。今実験も終わりましたし」


「実験てなんだニャ! 僕は実験台かニャ!!」


 ニャ……? そういやなんだこの語尾は……?


「この語尾はなんだニャ?」


 そうそう、オリー、とビアンコがもったいぶった言い方をする。


「その魔法はお嬢さんから教わりました付与魔術を、私なりに改編して使用したものです。私が傍にいる時は有効ですが、あまり離れすぎると魔力が途切れて話が通じなくなります」


「語尾については無視かニャ。えーと、離れるとまた会話ができなくなるニャ?」


「聞くだけならさっきまでと同様に可能でしょう。あれは会話のための前段階として、貴方の脳を血族側に近づけるための処理を行いましたから」


「ニャッ?!」


 開いた口が塞がらなかった。


 ビアンコの話をまとめるとこうだった。まず、脳を猫化(正確にはビアンコとカルネがこちらの世界に来てから得た状態なので純粋な猫とは異なる)する。次に、その状態の猫にビアンコが使っている会話変換魔法(猫語→人語)を付与するらしい。


「凄いですわね。そんなことが可能だなんて目の前でみてもにわかには信じられません」

 

 お姫様は感心することしきりだが、当人じゃないからめっちゃ気楽に言ってくれる。


「なんでそのまま翻訳出来ないのニャ!」


「オリー、努力はしたのですが猿の脳の構造は解析中でして、猿語から猿語への翻訳は私の手に余ったのですよ」


 あくまで現段階ではですが、と付け加えるビアンコ。


 ビアンコが以前から使用してた猫語から猿語の翻訳魔法を僕に付与したということか。


「そうしますとそのへ、妙な語尾はもしかして脳が?」


 今、変って言おうとしたでしょ! あと脳がって!


 ニャッとお姫様の方を睨みつけるとすぐに視線を逸らされた。メイドさんもどうみても笑いをこらえてるなぁ。


「恐らくは脳の血族化の影響だと思われます。引き続き対処方法を研究しますので、もうしばらくの時間と実験台として猿を何匹か都合して頂ければ」


「いやそれは無理だニャ」


「囚人をまわしてもらえるようにお父様を説得すれば……魔導の進歩のためには……」


「お嬢様、流石にそれは」


 このお姫様もやべーな。この人なんかスイッチあるよね。魔法に対する態度が他のことと全然違う。メイドさんは常識人だった。ちょっと失礼な人だけどね。


「いやいや、ダメだニャ。時間かかってもいいから人体実験は禁止ニャ」


 エー、と不満げな声をあげるビアンコとお姫様。どうでもよさげなカルネ。


「ダメニャ! お姫様もビアンコを唆さないでニャ!」


 残念そうな口ぶりをしてもダメだから。基本的人権とかあるかは知らない。でも流石に人体実験はアカンでしょ。


 あーでも、いつかはなんとかして欲しいなぁ。今は頭の中で考えてることの語尾にニャはついてない。でもこれがつきだしたら終わりよねー。


「まぁとりあえずは良かったですね。ようやくきちんと話すことが出来ます」


 宜しくお願いしますね。と笑顔で挨拶された。


「こちらこそ宜しくお願いニャ」


 お姫様が吹き出した。


「ごめんなさい、真面目な顔で言われると我慢するのが難しいです」


 笑いながら謝られてもなぁ。メイドさんも今度は隠さずに笑ってるし。ちょっと皆さん失礼すぎない?

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