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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第一章
11/75

11話

すいません、忙しさにかまけててセットするのも忘れてました

* マリークレスト *



 オータル卿が連絡しておいてくれたのでしょう、戻るとすぐにお風呂をいただくことができました。早くさっぱりしたかったので本当にありがたいことです。感謝しないと。

 

 昔は気づきもしなかったのですが、お風呂を沸かすのに使う薪の燃料もばかになりません。魔法が使えたらパッと出来るのに、と思ってました。学院に通って自分が魔法を使う段になって初めて知りったのですが、大量のお湯をわかすのは魔法でも面倒なことです。火をつけるのは簡単でも、何もないところに火を起こし続けるというのはかなりマナを浪費します。


 幼い頃から姉のように慕っている(乳母の娘なので実際姉のようなものだが)女中が体を洗ってくれる。汚れがあまりにも酷いので、2日ぶりに顔を合わせたと思ったら、本当に最初から最後までずっと文句を言ってました。確かに今回は無謀な遠征だったし、反省するべき点は多々あったことは認めます。でもそこまで言わなくても。


 体についた小さな擦り傷・切り傷一つでもキーッと悲鳴をあげてやりすぎなくらいの手当をしようとしてくる。心配してくれるのはありがたいのだけどね。今回のことは何年も先まで言われ続けるかもしれない。まぁあの風呂桶のお湯の汚れ具合を見れば仕方ないかな。


 こちらの準備ができたのでオリーを呼びに向かわせます。お父様のお加減もありまして、異邦人を合わせるのに一応我が家にも段取りめいたものがあるのです。


 控室で待っていると従僕に連れられてオリーが来ました。彼は身を清め、着替えて大分こざっぱりとした感じです。、とはいえ寒さに震えて顔が真っ青な上に、まだ少し臭います……。私は石鹸を使い、香水も使ってごまかしていますが、彼は汚れを落としただけのようですからね。


 言うのを忘れてたけど猫たちもきちんとついてきてました。勝手にどこかへ行ったりしないし本当に賢い猫で羨ましい。我が家でも犬が一匹います。元は狩猟犬だったにもかかわらず、父が狩猟をしないせいでぶくぶく太って今ではあまり動かないおじいさんになってしまった。


 彼が来てからニール家の家宰である叔父を呼ぶように命じます。父が病に臥せりがちになってから、家のことは万事叔父が取り仕切っています。私が学院へ行く前はこうでは無かったのですが。


 急いで報告しなければいけないはずで、すぐ近くで待機していたはずだろうに、勿体つけて叔父が部屋に入ってきました。


「彼がそうかね?」


 叔父は無遠慮な視線をオリーと猫たちに向けます。臭いにも気づいたのか、一瞬眉をしかめました。胡散臭げに睨みつけていますね。まぁ私が考えた以上のことは多分わからないでしょう。猫が口を効くどころか魔法を使うことも伝えていませんし。


「はい、ノスル叔父様。詳しいことはお父様にもご報告差し上げたいので後ほど」


 私の言葉を聞いて叔父は更に顔をしかめた。


「まぁいいでしょう。貴女の責任についても当主の前で弁明する必要がありますしね。ところでその汚らしい猫たちも一緒なのですか? 出来れば外でいて欲しいのですがね。この屋敷には高価なものがたくさんあります。傷をつけられても困りますよ」


 白猫の表情が一瞬変わったように見えたました。猫の表情は見慣れていないのでよくわかってはいません。もしかしたら気のせいかもしれない。この子はこちらの言葉がわかるのだから注意してもらいたいところです。


「大丈夫ですわ叔父様。この子達は非常に賢いですから」


 自分でも白々しいと思いながら言葉を紡ぐ。実際ははっきり言えるほど彼らのことを知っているわけではありません。昨日会ったばかりの人ですら無い猫ですからね。


「お待たせして申し訳ない。お客人。当家の家宰であるノスルと申します」


 一応挨拶はしてますが、これはかなり下に見てますね。まぁ古王国人は西方人を対等な相手とはみなさない節があります。ニールは他種族も多いのでそういう傾向が薄いのですが、叔父は保守的だから。


 話しかけられたオリーには当然伝わっていませんね。叔父が挨拶したことだけは多分わかったみたいで、相変わらず何を言ってるのかわからないなりに、とりあえず返事だけはしたようです。


「2XX&OXX&8XX*!XX&^XX&7XX&F、XX&*XX&$XX"!Y[^[Z*BSXX&7XX&FXX&/XX*,XX*(」


 前半は叔父に向かって、後半は白猫に向かって話してました。事情を知らない人間が見たら首をかしげるでしょうね。そして白猫は何故か知らんぷり。


「西方からわざわざ来ているということは貿易商かなにかだろう? 大陸公用語の方が良かったかね?」


 怪訝そうな表情の叔父様。気持ちはわかります。


「叔父様、その方たちは王国語も公用語も解しませんわ」


 はぁ? とでも言いたげですが、流石に言葉にはしなかった様子。再度になりますが、気持ちはわかりますよ。ええ。

 白猫ちゃんが言葉を話さないのは何故かわかりませんが、私が話しかけても返事しなかったら私が馬鹿みたいじゃないですか。


「そんなものでどうするつもりかは知りませんが、それで恥をかくのはお嬢様ですからな。あまりお父様にご面倒をおかけしないように」


 叔父は鼻をならすと後ろにある書斎の扉を開いてみせた。


「当主様。お嬢様と西方人がおいでです」中に声をかけると、オリーの方へ入るように促した。


「我が家の主の前です。失礼の無いようにお願いします」


 残念ですが叔父様、その言葉は猫にしか届いてません。白猫ちゃんもそれがわかっているのかオリーに伝えているようには見えませんでした。


 案内されたのは正式な客人を迎えるための部屋ではありませんが、調度もそれなりに高価なものを置いてあります。叔父ではありませんが猫ちゃんたちの動きが気になるところ。春先ではありますが、まだ冷えるので、御加減の良ろしくない父のために暖炉には火が灯っていました。父は暖炉そばのゆったりとした肘掛け椅子に腰掛けていました。


「我が家へようこそ、お客人。体調が悪いので座ったままで失礼させてもらうよ。マールもよく無事で帰ってきてくれた」


 顔色が優れないようで、本来なら人に会えるような状態ではないのかもしれません。無理をなさってないといいのですが。

 私が一歩部屋に入ってからオリーたちの方を振り向くと、すたすたと猫二匹が入ってきて父の近く、暖炉の間近で寝転びました。


「おやおや、これは小さなお客様だな。ふむ、賢そうな猫じゃないか。君が飼っているのかね?」


 オリーはあとを追うように部屋に入ると、私を抜いて猫のところに駆け寄りました。お父様に一礼すると、猫に向かって何やらまくしたてています。


「DXX&$XX*$XX&@XX&+XX*)Y[^[Z*BSXX&7XX&FXX&/XX*,XX*(」


 お父様も流石にオリーが言葉を理解していないことに気づいたようです。


「彼は言葉が通じないのか? 公用語は? 誰か家に西方語が出来る人間が居ただろうか。しかしどうやって意思の疎通をしているんだ。ジェスチャーかなにかかね」


『いいえ、私が通訳をしているのですよ。貴方がこの屋敷の主ですね。私はビアンコ。こちらが弟のカルネ。その男は我々の餌係のオリーです』


 そのときのお父様と叔父の顔は見ものでした。いえ、猫が喋るなんて目の前で見ても信じられませんよ。私は流石に慣れましたけどね。


「はっ? 嘘だ、信じられん! 魔術か手妻だろう!」


「マール、これはお前のいたずらかね? まさか留学先でこんなことを覚えて帰ってくるなんてねぇ」


 二者二様の驚きようですね。


「いいえ、お父様、叔父様。話しているのはその白猫ちゃんですわ。確かに魔法は使ってますけど使ってるのは白猫ちゃんですし」


『その通りです。お嬢さんは関係ありません。私は自分で言葉を喋ることができます。ただ貴方達と会話をするのには魔法の力を借りなければいけませんが』


 二人共驚きのあまり言葉も出ないようです。最初から座っていたお父様はともかく、叔父は腰を抜かしかけて壁にしがみついてますね。


「お父様、大丈夫ですか?」


「使い魔なのかい? 話には聞いたことがあるなぁ。見るのは初めてだよ」


 いや、使い魔では無いそうなんですよ。じゃあ何かって聞かれたら私も答えられないんですけどね。


「おっと、名乗りが遅れて申し訳ない。私は代々このニール地方の領主を務めているファズバン家当主のナースロー・ダ・ファズバン・ニールだ。よろしく頼むよ。ちなみにそこで腰を抜かしてるのが弟で家宰のノスルだ」


「腰を抜かしているなど、そんなことは」

 

 といいつつまだ壁から離れられないようですけどね。


 お父様は叔父には愛情を込めてかときどき意地悪をします。叔父はその度にムキになるのですが。

 私はというと気になっていたことを白猫ちゃんに聞くことにしました。


「そういえば何故この部屋に入るまで黙っていたの?」


『ちょっとした茶目っ気ですよ。こちらの方は猫が喋るのに慣れていないようなので一つ驚かしてやろうと思いましてね。あと一応言っておきますが私と弟は使い魔というものではありません』


 それは大成功でなにより。おかげで少し報告がし易くなりました。まだ気が重いですけど。


『じゃあビアンコちゃん。またオリーとの通訳をお願いしますね』


 白猫は律儀に頷いてオリーに鼻をならしてみせた。


 叔父がまだ壁から離れられそうにないので、オリーにも暖炉の側の椅子をすすめ、私も一人がけのソファーに腰掛ける。叔父が恨みがましい目で睨んできてます。


 私をそんな目で見ても、ねぇ?


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