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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第一章
10/75

10話

* ??? *



 その日は朝から待っていた報告がこなかった。予定通りならば襲撃は昨晩の内に済ませているはずなので、西門が開かれ次第報告が来ることになっていた。


 終始イライラしていたが、顔には出さないようにし、何時も通りの業務を何時も通りにこなす。隠しきれては居なかったようで、皆の姿が見えない。あまり私の前には出ないようにしているらしい。


 息子もそれを察してか全く近寄ってこなかった。あいつはどうにも臆病で困る。これからはしっかりしてもらわないといかんのに。


 昼前に、討伐に向かった騎士が大急ぎで戻ってきたと連絡がある。オータル卿とのこと。彼は処刑対象リストの上位にあったはずだった。つまり、襲撃は失敗したのだろう。


 収まりかけていた感情が爆発しそうになるも、なんとか踏みとどまり、鏡を見て怒りが表に出ていないかを確認する。大丈夫なようだ。


 兄と共に私も一緒に結果について聞かなければ……。


「遅くなってすまない、火急の知らせと聞いていますが」


 オータルはあちこち負傷しているようで、血の滲んだ包帯が痛々しい。まぁその死を望んだのは私なんだがね。


「家宰殿、これからお館さまに報告しようとしていたところでございます」


「わかった。私も聞かせてもらいましょう」


 あの子の無事次第では次の手を考えなければならん。



* オリー *



「大きいなぁ」


 時計が無いからはっきりしないけど、お昼を過ぎてさらに荷馬車に揺られること数時間で、森を抜けると大きな石づくりの城壁が見えてきた。こういうのテレビでみたことがあるくらいで、自分の目で見るの初めてだ。予想以上に高いし大きい。城壁の上にもきちんと人がいるみたい。あ、ここは濠とかはないのね。んで、壁の外にもいくつか建物が寄り添うように建てられている。衛兵みたいなのが出入りしていたり、厩ぽいのもあるようだ。


 門は開かれていて、たくさん人が並んでる。商人ぽい人が多そうかな? そしてパッと見ても色んな人がいる。お姫様も騎士たちも全員白人だったから、白人国家なのかと思ったらそれ以外の人も結構いそう。


「僕らは並ばなくて良いの?」


 列の最後尾を通り過ぎ、並んでる人たちを尻目に進んでいく。やっぱりこの街のえらい人だから並ばなくても良いのかね。人の対応をしてた門番が手を止めてお姫様に挨拶しにきた。門の中からも何人か出てくる。お姫様は一言二言声をかけてすぐに馬を進めた。こちらの荷馬車も素通り。後で聞いたらお姫様はこの時、衛兵に医者を領主の館へ呼んでくれってお願いしてたみたい。


「道が広いねぇ」


 城壁の中に入っても狭いという感じがしない。門から東へまっすぐ伸びてるのが大通りかな。かなり横幅は広くて、今乗ってる馬車だと何台か並んで通れそう。とは言え、馬に乗ってる人はあまりいない。そう言えば、城壁の外の列もそうだった。荷馬車が全然ないね。あと、馬よりもロバの方が多いね。荷運びはロバが主流なのか。大量輸送とかどうやってるんだろね。


「人がたくさんいるねぇ、色んな人種の人がいるよ。あれ、普通の人間に見えない人も結構いるなぁ。ファンタジーだなぁ」


 ちなみにさっきからなにかあるたびに声をあげてる割には、みんな無視してる。話が通じないのは仕方ないとして、ビアンコとカルネは反応してくれてもいいだろ! 耳がピクリとも動かない。完全に聞いてないよ。ちょっと扱い酷くない?


 まぁ猫にしてみれば人間の営みなんてどうでもいいんだろうけどさぁ。


 もっとゆっくり見て回りたいという、僕の気持ちなんかお構いなしに荷馬車は進む。人だかりとかあっても容赦なく道を開けさせる。権力者だなぁ。しかし、案内が欲しいね。なにせこちらは文字も読めない、符丁も当然わからないので、建物の外見だけ見てもなにをやってるところなのかがわかりようがない。あーでも、最初お姫様と話したときはここに僕と猫だけで来るはずだったんだよな。亡くなった人たちには悪いけどそんな事態にならなくて良かったという感想しか出てこないや。こんなところほっぽり出されても即日詰むって。しかも話せるのは猫だけだよ?




 中央広場ぽいところを北上して、真っ直ぐ行くと、遠くからでも建物が見える。なんていうんだっけ、門の上にある櫓みたいなやつ。まぁあれ。正式名称は知りません。んで、左右に広がる石壁、門の脇の二本の塔。


 塔か櫓からか見張りが見ていたのだろう、こちらよりも早く向こうから確認すると、門は大きく開かれて、門番が飛び出してくる。門を入ると中庭とは違うかな、大きな広場になっていて、真ん中に噴水がある。噴水を回り込んで正面にある大きな建物が母屋なんだろうね。


 そのお屋敷と、左右の壁沿いにある建物から人が次々と飛び出してくる。お屋敷の召使いみたいな人から見慣れた格好の騎士や従士の人たちも。大きな階段の上にある玄関ポーチ前で荷馬車は横付けされ、すぐに人が集まってきてまずは怪我人をおろしていった。僕も手伝おうかと思ってはいたんだ。でも十分そうな人がいたし邪魔になりそうだったので止めといた。亡骸を積んだ荷馬車の方はここではなく、また別の場所に運ばれていく。教会みたいなところがあるのかもしれない。


 というか、お屋敷に見とれてた。かなり古くて立派な建物だ。石の種類とかは大理石くらいしか知らない。まぁなんか高い石を使ってそう。一階の高さが随分あるみたいだなぁ。外から見ると四階建てくらいかな。屋根裏とかありそうだしもっと? いやーでもあれか、一階部分が階段の上で高さを稼いでさらに地下だか半地下の階層があるみたい?


 怪我人を運んでいる人々の間から悲哀の声が響いてきて現実に戻された。運んでいる間に亡くなった方もいたのだろう。救急車みたいに輸送中の治療とかはないし、あの揺れる荷馬車にすし詰めじゃあねぇ……。まぁ言葉は通じなくてもみんなが悲しんでるのは感じ取れた。


 お姫様は最初人々に指示を出してたはずが、気づいたら途中でどこかへ行ってしまってた。僕はどうしたらいいのかわからなくてぼーっとしてたら、御者をやってた従者の人がきて、ジェスチャーでついてこいって示すんでそれについて行った。


 広場の隅の井戸のところに連れて行かれ、手ぬぐいを渡された。彼は水を汲んで桶に貯めると、いそいそと服を脱ぎだし全裸になった。頭から水をかぶり、自分の分の手ぬぐいで体をこすり始めた。僕ほどじゃないけど彼もかなり汚れてたようだ。で、僕を見て井戸を指さしたり、手ぬぐいを指さして自分の体を擦ってみせた。


 流石にここまでお膳立てされればわかるよ。体を綺麗にしろってことだよね。まだ寒いし井戸水めっちゃ冷たい……。野営地で少しは綺麗にしてもらってた、全身きちんと自分で綺麗にしたわけじゃなかったからなぁ。髪もゴワゴワバリバリで固くて酷い臭いしてるし。お風呂とかあればいいのになぁ。観念して上だけでなく下も全部脱いだ。人前で裸になるのは抵抗があるなぁ。こういう文化のところなら変な目で見られることもないだろうと信じてやるしかないか。あれだけ出てきてた人もいつの間にか全然居なくなっちゃったしね。


 髪も念入りにすすぎ、上半身は一度拭いたのでまだマシだった。それに比べて下半身はひどかった。痛くなるまで擦った。せめて石鹸くれませんかね。冷たい水で濡らして手ぬぐいでこするだけだからなぁ。汚れた直後ならまだしも、血糊や汚物やらが完全に乾いちゃってるし。温かいお湯に浸かりたい。ほんと、ここではお風呂とかどうなってるんだろ。まぁあとでビアンコにお湯を出す魔法が無いか聞いてみよう……。


 念入りに体を洗って(洗わされて)、何度も何度も水をぶっかけられて、体を拭いても冷え切って震えてたところに召使いぽい人が服を差し出してきた。上等、というわけではないけどそこそこ綺麗でそれなりに厚めの生地でできた袖に腕を通す。あー、ファスナーは当然としてボタンもないのか。あれって何時頃作られたものなんだっけね。


 で、僕が苦心してる間に、どこかへ行ってた猫たちが戻ってきた。


「ここには血族はいないようですね。こちらの血族に興味があったのですが、頭の悪そうな犬っころしか居ませんでした」


 犬が繋がれていたのですがカルネがちょっかいを出そうとして大変でしたよ、などと特に大変そうではない様子で言う。


「何いってんだよ、兄貴だって魔法の練習台に良いとか言ってただろ」


「私のはお前とちがって冗談ですからね」


 本当かぁ? と疑わしそうな声をだすカルネ。僕も正直それは疑わしいと思う。まぁでもやっぱり君らは犬のことあんまり好きじゃなかったんだね。


 着替え終わったところで、執事っぽい人が手招きしてきた。あー、靴はないのか。ずっと裸足だから辛いなぁ。町中だと裸足の人もそれなりにいたんだよね。


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