十二、覇気
晶凛は横になっている雷帝の腰に手を添えると、一点を目掛けて強く押した。
「痛ってえ!」
雷帝は苦悶の表情を浮かべる。
日課となっていた出来事だった。
「普段の姿勢が悪いから、その皺寄せが腰にいってしまうのですよ。……こんな話があります」
「何だ?」
お説教でいつもは終わっていたが、晶凛は雷帝を説得しようと別に何かを考えたようだ。
「『体に触れたときに、痛いとか硬いとか感じたら体の異常の合図』という言葉があります。雷帝は無理をされていませんか?」
「無理か……そんなこと考えたこともなかったな」
普通の者なら皇帝に無理をしているかなどとは恐れ多くて聞けなかっただろう。
晶凛は体の調整をしながらということもあって容易に聞くことができた。
「焦って何かをするというのは、体の故障の原因になりますよ。でも、皇帝となると、無理も必要なのかもしれないですけれど」
雷帝をは「ふむ」と言って、悪戯をする子どものような目をした。
「逆に問わせてもらおう。俺が無理をしないで過ごす方法を教えてほしい」
「え?」
晶凛が思い浮かぶのは、お面を着けない状態は姿勢が良いのに、お面を装着した瞬間に崩れるということだった。
「……お面を着けるのをやめたらいいのでは」
「ククッ。面白いことを言うなぁ。一度お面を付け忘れた状態で朝礼に出たことがあったが、大変なことになったぞ。側近以外は俺のことに気づかず、追い出されそうになった」
雷帝が言うには、お面を外すと皇帝としての威厳も消えてしまうらしい。
「それなら、お面を着けた状態で背筋を伸ばしたらいいのではないですか」
「ーーそれができたら苦労はしない」
わかっているといった様子だった。
「訓練じゃないですか? わかりました。私がお面を着けますから、そのまま立っている状態を保っていればいいと思います」
「そうだな。要は試しだ! このまま立っていればいいんだな」
晶凛はお面を手に取り、雷帝の顔を見据えた。
「いきますよ! 動かないでくださいね」
「おう!」
雷帝のお面が顔に貼り付くと、条件反射のように背中が丸くなった。
「動かないでって言ったじゃないですか」
怒ったように言うと、雷帝は「無意識に動いてしまった……」と言って呆然としている。
「練習ですよ! もう一度やってみましょう」
「そうだな」
お面を外そうとするが、びくとも動かない。
「あ、あら。外しにくい」
「百理の特製品だからな……」
手こずっていたところに、「何をされているのかしらぁ?」と灯里が扉を開けて立っていた。目は呆れたように半目になっている。
「れ、練習だ」
雷帝は目を泳がせ、口を尖らせながら言った。
「そんなに顔を近づけて練習することなんてありますの?」
「至って真剣だ!」
お面が何かの拍子に外れると、雷帝の赤い顔が露になる。
「あ……」
晶凛はバツが悪そうな顔をして、雷帝の反応を伺った。
「ほぉら、お顔も赤くされちゃって。私には隠さなくていいのですよ?」
疑われて後ろめたくもないのに、顔が赤くなっていく。
「違う、違う!」
本当のことだったが、ムキになると灯里はさらに怪しんだ。




