↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女は旅を続ける、使い魔を添えて  作者: 積極的保留


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/19

第18話 ここにいる方法

 翌朝、三人は転移門を使った。


 門を抜けると、潮の匂いがした。

 街の向こうに海が見える。ネレアも見ていた。

 クラウディアは足を止めない。

 街を抜け、南東へ向かうと、丘の海際に目指している場所が見えてきた。

 石造りの古い塔だ。

 クラウディアが扉を開け、中に入る。

 そのまま階段を三階まで上った。

 ここも、間違いなく魔女の仕事部屋だ。

 朔はそう思った。

 壁際の本棚には古い本が並び、部屋の中央には大きな机が置かれている。

 クラウディアは迷うことなく何冊か抜き出し、机へ置いた。

「師匠は、ここで境界の揺れを調べていたの」

 朔がクラウディアの家で暮らすようになってから、クラウディアは手元に残っていた師匠の記録を調べていた。

 境界が大きく揺れた場所では、ときどき、そこにいなかった人間が現れる。

 逆に、そこにいた人間が消えることもある。

 クラウディアは、朔がこの世界へ来たことと関係がある可能性を考えていた。

 ただ、家に残っていた記録だけでは足りなかった。

 ここには、その続きがある。

 三人で記録を開いた。

 クラウディアが年代を絞り、ネレアが境界の記録を追う。

 朔も古い文字から拾える意味を探した。

 昨日まで見ていた古道の石と、同じような言葉。

 境界。歪み。外。こちら側。

 その中で、ネレアの手が止まった。

「クラウディア」

 差し出された記録を、クラウディアが読む。

 いくつかの事例を比較した記録らしい。

 異界から来たと考えられる人間には、共通する特徴があった。

『魔力がない』

 朔は顔を上げた。

「俺と同じ」

「そうね」

 クラウディアは続きを読んでいる。

 この世界では、人も動物も多少の魔力を持っている。

 けれど、異界から来たと記録された者からは、それが確認できなかった。

 そして、その者たちが長くこの世界に留まった記録も残っていない。

 師匠は、二つに関係があるのではないかと考えていた。

 そこから先はない。

 理由も、対処法も書かれていなかった。

 朔は記録を見たまま考える。

 魔力がない。

 それは、この世界へ来たときから分かっていた。

 今まで困ったことはない。

 魔術を使えない。それだけだと思っていた。

 机の上に置いたスコープへ手を伸ばす。

 指が触れる前に、止まった。

 黒い輪郭が薄くなっている。

「……ネレア」

 ネレアが見る。

 クラウディアも顔を上げた。

 三人が見ている前で、スコープが透けていきそのまま消えた。

 今はそこに何もない。

 ネレアはすぐに朔を見た。

「荷物、全部」

「うん」

 鞄を開く。

 持っていたものを机へ出した。

 手袋、残っているコード、細かな道具。

 端末と、使い慣れた固定具は、そこに見つからなかった。

 目の前で消えたスコープ。

 朔だけではない。

 この世界へ一緒に来たものにも、同じことが起きているのか。

 ネレアが記録を取る。

 クラウディアは師匠の記録をもう一度開いた。

 朔も見る。

 異界から来た者。魔力がない。長く留まれない。

 昨日見た古道が、頭に浮かんだ。

 痕跡は残っていた。

 術式も、完全になくなったわけではない。

 それでも道は閉じていた。

「古道」

 朔が言った。

 ネレアが顔を上げる。

「魔力、流れてなかったんだよね」

「うん」

 昨日、確認した。

 道を作っていた術式の痕跡は残っている。

 けれど、今はそこに魔力が流れていない。

 だから、道としては開いていない。

「魔力がないと、維持できない?」

 クラウディアが古道の記録を見る。

「境界を繋いだ状態を、ということなら」

 ネレアは少し黙った。

「可能性はある」

 朔を見る。

「朔も同じかもしれない」

 異界から来た。

 こちら側にいる。

 けれど、その状態を維持するものがない。

 師匠の仮説が正しいかは分からない。

 古道と朔が、同じ仕組みだとも限らない。

 それでも、今までより材料は増えた。

「魔力を流すことってできる?」

 朔が聞く。

「一度だけじゃ分からない」

 ネレアは答えた。

 古道も、使われていた頃は術式に魔力が流れ続けていた。

 必要なのが同じ条件なら、朔にも継続した魔力が必要になる。

 三人とも黙った。

 しかし、長くはかからなかった。

 魔女と別の生き物の間に、継続して魔力を通す仕組み。

 ネレアとクラウディアが、ほとんど同時に顔を上げた。

「……使い魔」

 ネレアが言った。


 朔は二人を見た。

「使い魔?」

 こちらの世界で、その存在を知ってはいる。

 けれど、詳しく聞いたことはなかった。

 クラウディアが簡単に説明した。

 使い魔は魔女が選ぶこともあるし、向こうが魔女を選ぶこともある。

 使い魔契約によって魔女と使い魔の間に魔力の通り道ができる。

 一度渡して終わりではない。契約している限り、繋がりは続く。

 朔は少し考えた。

「その契約は、人間でもできる?」

「……聞いたことはない」

 クラウディアが答えた。

 ネレアも首を振る。

 できないのか。誰もやったことがないだけなのか。

 今は分からない。

「もし、できたら」

 朔はネレアを見る。

「俺が、ネレアの使い魔になる?」

「そう」

「相棒じゃなくて?」

 一瞬だけ、間があった。

「主従になる」

 ネレアはごまかさなかった。

 朔は黙った。

 数日前まで、自分たちは相棒だった。

 仕事を分ける。意見を言う。違えば止める。自分で判断する。そうしてきた。

 それとは違う。

 けれど、机の上からスコープは消えた。

 自分も、もう何度か消えている。

 時間がどれだけ残っているのか分からない。

 クラウディアが使い魔契約についての本を机へ出した。

 ネレアが開く。

「私、使い魔契約したことない」

「ないんだ」

「手順は知ってる」

 朔も二人の間から本を覗き込む。

「調べよう」

 ネレアが言った。

「うん」

 クラウディアはもう別の本を開いていた。

 朔も椅子を寄せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。