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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智


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四話 クラン?家賃?

「ここは?」


 ベッド?


 また、知らない部屋だ。

 尻もちに警戒しないと。


「あ、気がついた。気分はどう?」


 椅子に座っていた華菜さんが、こちらを覗き込んできた。


 気分?

 色々と、文句はある。

 私を笑いものにしやがって……。

 見捨てやがって。

 ま、一応助けてくれたらしい、私の必殺技を封印しといてやろう、命拾いしたな。


「ん? ぎゃぁ! 裸! 何で!」

「ああ、ビショビショだったし、もう少しで乾くよー。リンクと直哉は、別の部屋に居るから安心して」


 それはそうだろ。

 気を失った女を、男の前で裸にすると犯罪だぞ。


「それにしても、うさぎさん、その胸、ブラって必要なの?ぷぷぷ……」

「はっ?」


 この女、言ってはいけない事を……。

 封印したばかりの、必殺技の封印を解く時がきた。


 ベッドから降りると、仁王立ちした。


「な、何?」


 両手を腰にあて、天井を見上げて目をつむる。


「う、うさぎさん……?」


 喰らえ。


 ゆっくりと、華菜さんの方へ顔を向ける。


 カッ!


 目を見開く。

 味わうといい! 

 この精神ダメージを!


「今、私の頭の中で、華菜さんが巨大ロボットの足に踏み潰された」


 華菜さん、ごめん。

 こんな強力な技を繰り出して……。

 しかし、貴様は私を怒らせた。


「へ?どういう事?」


 まさか?

 効いてない……だと……?


「いや、あの、巨大ロボットに踏み潰されたって言われると、精神ダメージうけるかな……? みたいな」

「え? あははは! うさぎさん面白ーい!」

「ははは……」


 全身の力が……。

 床に崩れ落ちる。


 この女……。


 つ、強い!

 この私が負けるとは……。


「あ、乾いてるよー。服着たら?」


 敗者が勝者に従うのは、当然だ。


「はい!」


 元気よく返事をして、服を着た。


 ◇


 ここからは説明パート。


 読み飛ばしてもいい。

 でも読み飛ばすと、そこで話は終わる。


 だから、私は読む。


「まず、この世界にはクランっていうのがあるんだよ」


 華菜さんは、椅子に座ったまま指を一本立てた。


「クラン?」

「仲間同士で作るチームみたいなものだな」


 リンクさんが言った。


「クランを作ると、街の中にクランホームが支給される」

「ホーム?」

「家だよ。家」


 家。

 いい響きだ。


 私は思わず頷いた。

 家は大事だ。

 知らない部屋で尻もちをつく人生は、もう嫌だ。


「ただし、無料じゃない」

「え?」


 今、いい話が終わった気がした。


「家賃がある」

「家賃?」

「あと、水道代と電気代もある」

「異世界なのに!?」


 私は思わず叫んだ。


 異世界に来てまで家賃。

 異世界に来てまで水道代。

 異世界に来てまで電気代。


 夢がない。

 あまりにも夢がない。


「で、そのお金を毎月一回、クランホームにある料金箱に入れる必要がある」

「料金箱……」


 名前からして嫌だ。

 絶対に私からお金を奪う箱だ。


「払わなかったら?」

「三ヶ月までは滞納扱い」

「意外と優しい」

「三ヶ月を過ぎたら、家を没収される」

「優しくなかった!」


 家を没収。

 つまり、ホームレス。


 異世界でホームレス。

 嫌すぎる。


「没収されたあと、もう一回ホームが欲しい場合は、始まりの館で滞納していた三ヶ月分を払う必要がある」

「借金からは逃げられない仕様……」

「そういうこと」


 直哉さんが、さらっと言った。


 怖い。

 モンスターより怖い。

 家賃システム怖い。


「だから、みんなクエストを受けて稼いでるんだよ」

「モンスターを倒して稼ぐんじゃないんですか?」

「一応、モンスターは石を落とすことがある」


 石?


「魔石みたいなもの?」

「まあ、そんな感じ。でも確率が低い。生活費を稼ぐ手段としては現実的じゃない」

「じゃあ、さっきの蜘蛛は?」

「倒しても、たぶん何も落とさない」

「私、死にかけたのに!?」


 あいつ。

 私のお尻を舐めた上に、金にもならないのか。


 許せない。

 次に会ったら命日だ。

 私のじゃなくて、あいつの。


「だから基本はクエストだ」


 リンクさんが続ける。


「クエストは、クランホームにあるデバイスから選べる」

「デバイス?」

「まあ、機械みたいなものだな。そこに依頼が表示される。薬草採取、荷物運び、護衛、モンスター討伐、掃除、修理、色々ある」

「掃除もあるんですか?」

「ある」

「異世界なのに掃除……」


 思っていた冒険と違う。


 もっとこう、剣と魔法で魔王を倒すとか。

 伝説の武器を探すとか。

 そういうのを想像していた。


 なのに現実は、家賃と水道代と掃除クエスト。


 異世界、思ったより世知辛い。


「で、クランホームが増えると、街も広がっていく」

「広がる?」

「クランが作られるたびに、家が増えるんだよ。だからこの街は、どんどん大きくなっていった」


 華菜さんが、窓の外を指さした。


「この街、最初はもっと小さかったらしいよ」

「へえ……」


 クランが増える。

 家が増える。

 街が大きくなる。


 それはちょっと面白い。


 でも、同時に思った。


 家が増えるということは。

 家賃を払う人間も増えるということだ。


 誰が回収してるんだろう。

 誰が管理してるんだろう。

 誰が儲かってるんだろう。


 ……まさか、あのアホか?


 考えると眠くなる。

 今は服を着たばかりだ。

 倒れるには早い。


「つまり、クランを作ると家がもらえる。でも毎月お金がかかる。稼がないと家を没収される。だからクエストをする。そういうことですか?」

「そういうこと」


 華菜さんが笑った。


 なるほど。


 理解した。


 ホームレスなんてごめんだ。

 ん? 今の私って、ホームレス……?


 ◇


「ねえ、リンク、直哉、どう?」

「俺は、いいと思う。うさぎさん悪い人じゃなさそうだし」


 直哉さんが、そう言った。


 待て。

 何の話だ?

 勝手に話を進めないで。

 ここまで、私の意思とは関係なしに進んでいる様な……いない様な……?


「俺も賛成だ。それに……」


 それに……何……?

 何を言われるか怖いんだけど?


「俺は、ショトカ属性だからな。うさぎさん、ショートカット似合っているし」

「は? ショートカット?」


 頭を触ってみると……。

 気づかなかった。


「何だこれー! 私の黒髪ロングがあああ! アイツか! イナのアホか!! 髪の毛返せええ!!」


 私は、泣いている。

 華菜さんが、ずっと頭を撫でてくれていた。


 クランホームのリビングにあるソファが、私の涙を受け止めている。

 ソファよ、大きく育て。

 今だけは、お前だけが味方だ。


 こんなに悲しいことはない。

 私の、自慢だった髪が……。


「似合ってるし、いいじゃん」


 この馬鹿は何を言っているんだ?

 似合うとか、似合わないとか、そういう問題じゃない。

 私の黒髪だぞ。

 大事にしてきた大切な……。

 勝手に消えていいものじゃない。


「リンク、分かってないね。うさぎさんに謝りなよ」


 そうだそうだ。

 その空手馬鹿に言ってやれ。


「うあーん……私の髪が……」

「すまん」


 まあ、いい。

 謝罪は受け取ってやる。

 それよりも。


「鏡……見たい」

「こっちだよ。おいで」

「うん」


 華菜さんに連れられて、鏡の前に立つ。


 ……。


 は?

 誰これ?

 そこに映っていたのは、本当に髪の短くなった私だった。


 白髪……インナーにペールブルーって……。


 これが、私……?


 って、思うかああ!!


 私の黒髪!

 大事にしてきた黒髪!


「どう? 落ち着いた?」


 華菜さんが、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 胸のことを馬鹿にしてきた女だけど、今は少しだけ良い人に見えた。


「うん……ありがとう」

「戻ろ?」

「うん」


 私の涙を受け止めてくれたソファ。

 ありがとう。

 次は、私のお尻を受け止めて。


「もう、大丈夫かな?」

「はい。ごめんなさい」

「いやー、びっくりしたよ。突然泣き出すからさ」


 チッ。


 迷彩馬鹿が。

 お前の頭、スキンヘッドにしてやろうか?

 ああ?


「直哉、黙れ」

「んだよ?」

「華菜、直哉、喧嘩すんな」


 リンクが二人を止めてから、改めて私を見る。


「それよりもだ、うさぎさん」


 少しだけ、声の調子が変わった。


「もしよかったら、俺たちのクランに入らない?」


 皆、良い人っぽいし…何よりホームレス回避。

 これがでかい!


「私と直哉も賛成してる。うさぎさん、是非」


 うーん…どうしよ?


 あれ?

 今まで、夢の中の出来事と思ってたんだけど…。

 夢……じゃない?


 頭撫でてくれていた感触あったし……。

 本当に、どこにいるの?

 家に、帰りたい……。


 あ、また、泣きそう


「あの、入るのはいいけど……聞きたいことがあります」

「なあに?」


 華菜さんが、少し間の抜けた声で首を傾げる。

 ……こういうところ、ちょっと可愛い。


「家に帰りたいです。どうやったら帰れますか?」

「あー……」

「あのね、私とリンクも帰る方法探しているの。でも、分からなくて……」

「まあ、そういう事だ」


 華菜さんとリンクさんの二人だけ?

 直哉さんは?


 私の視線に気がついたのか、


「俺は、ここの生まれだからな。リンクと華菜が、違う世界から来たってのが信じられん」


 え?ここで?

 そういえば、二百年がどうのって言ってた気が……。


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