三話 シーフの力見せてやる
「うおりゃっ! 死ねええ!!」
今、私は飛んでいる。
マジで飛んでいる。
地面を蹴った瞬間、身体が弾丸みたいに前へ飛び出した。
足が速いとか、そういう次元じゃない。
シーフやばい。
「おお〜! すげー!」
始まりの館で声を掛けてきた三人は、草原に座って私を見ている。そろって声を上げた。
気持ちいいー!
もっと褒めて。
目標は、でかい蜘蛛。
真下に蜘蛛がのんびり歩いてる。
背中に黒い毛がびっしり生えた、私より大きい蜘蛛。
両手のナイフよ。
今こそお前たちの出番だああ!!
私は蜘蛛の頭上から、両手のナイフを思いきり振り下ろした。
突き刺した。
つもりだった。
「あれ?」
刺さらない。
ナイフの刃先は、蜘蛛の頭に当たっている。
当たっているのに、傷一つついていない。
嘘でしょ?
「こうなったら! 刺さるまで!」
両手のナイフを、全力で蜘蛛の頭に叩きつける。
サスサスサス、と情けない音だけが響いた。
そういや、あのアホ言ってたな。
シーフの攻撃力はないって……。
待て。
頭を振らないで。
やめて。
振るなって!
「痛てっ!」
尻もち。
二回目の尻もちだ。
蜘蛛と目が合った……。
……いや、どれ?
どれが目?
全部?
何か、六個くらいあるんだけど。
キモっ!
よく見ると、マジでキモっ!
……。
よし。
今日のところは、ここまでにしてあげよう。
「蜘蛛、命拾いしたな! 次、私に会う時がお前の命日だ。あばよ!」
これは逃げるんじゃない。
戦略的撤退だ。
「あれ?」
体が動かなくなった。
「うわ」
草と土の匂いがした。
割といい匂いかも。
……そんなこと思っている場合か!
気がつけば、体中に糸が絡みついて転倒していた。
蜘蛛の口から吐き出された糸で、ぐるぐる巻きにされている。
え?
まさか、この蜘蛛、私を食べようとしてる?
……。
「命日に! 私の命日になるうう! 助けてええ!」
「あはははははは!!」
三人は腹を抱えて笑っていた。
「早く助けてえええ!!」
蜘蛛の方へズルズル引きずられていくような?
気のせいか?
……。
気のせいじゃねええええ!
「待って! ごめんなさい! もうしません!!」
蜘蛛は、前脚で私を抱え上げた。
ひいいいい。
食べられる!
「食べられてるうう!! 私! 食べられてるよおおお!! 食べられちゃってるよおお!!」
ひっ。
お尻。
お尻、撫でられたああ!
体の震えが止まらない。
あっ。
股のあたりが、温かくなった。
オシッコが……。
「大丈夫だって! そいつ、捕食判定ないから安心しな!」
勝手な事言って!
こっちの身にもなれって!
蜘蛛が、頭を激しく振った。
「うわあああ! 振らないでええ!」
次の瞬間、私はゴミみたいに空中へ投げ捨てられた。
「うわあああ! 飛んでる! 私、飛んでるよおおお! おおおおおお〜!」
蜘蛛は、私に興味をなくしたのか。
それとも獲物として認めなかったのか。
のそのそと草むらへ戻っていった。
三人の姿が目に入る。
笑い転げている。
「助けてえええ!」
「落下ダメージ無効!」
誰かの声が聞こえた。
けど、川が近づいてきている。
川にいいい!
ボチャーン。
今、背景にボチャーンって文字が浮かんだ。
漫画なら絶対浮かんでいる!
「溺れるうう! 溺れるうう……ぶぶぶぶぶ……!」
薄れゆく意識の中、私は川に感謝を…。
助かった。
いろんな意味で助かった。
川よ、ありがとう。
漏らしたなんてバレないと思う。
私は今ほど、お前に感謝した事などない。




