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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智
街造り

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三十四話 縄張り争い

 大きな中央の道、突き当たりに行く。

 イツキ、リンク、華菜、直哉が立っていた。

 魔族の人達は、作業を続けている。

 その先の地面には、板が設置されている。

 直哉の罠に掛からないようにしているのだろう。


 私とイナは、ゆっくりと近づくと、町から出た野原に三十人くらい人がいた。

 武器は持っていないようだ。

 タンドレさんは言っていた。「お客様」と、しかし、どう見てもお客様には見えない。


「ねえ、あの人達って、攻めてきてない?」

「そうだよー。ここに勝手に町作っているんだもんね」

「怖いんだけど」

「今回は大丈夫だよ」

「だといいけど」


 今回はってイナが言った。

 その言葉に、少し引っかかった。


「ねえ、どうなるの?」

「わかんない」


 華菜の声が少し震えていた。

 緊張している。


「面白くなってきたね」


 イナが空気も読まずに楽しそうに言う。


「リンク、出番じゃ」

「は、はい!」


 リンクも緊張しているみたいだった。

 まるで、小学生の様に気をつけをして返事をする姿に、直哉が笑う。

 その時に、リンクが直哉を見る。

 その目は、睨んではいなかった。

 目が訴えている、「俺と変わってくれ」と。


「リンク、頑張って」


 華菜がリンクの肩を叩くと、直哉も笑いながら肩を叩いた。


「気をつけてね」


 私は、それしかいう事がなかった。

 イツキは、私達のやり取りを気にする事なく、目の前の集団を見つめていた。


 そして、集団が二つに割れると、一人の男の人が前に出てきた。


「俺は、キルア! ここの代表と話がしたい!」


 その声が響いた時に、イツキが私達を振り返りリンクに頷いた。


「リンク、行くがよい」


 リンクは黙って頷くと、板の上を歩き始めた。

 板がギシギシ音をたてる。

 リンクの緊張を表しているみたいだった。

 華菜は、胸の前で両手を握っている。

 直哉は、頭の後ろで両手を組んでいた。

 イナは、笑顔で見ている。

 そして、イツキは、腕を組んで仁王立ちしていた。


 皆、リンクの背中を見つめる。

 徐々にリンクは、キルアと名乗った男に近づいた。


 ◇


「君が、ここの代表か?」

「そ、そうですが……」


 キルアは、一度リンクの背後を見た。

 私達を見たのではない。

 その後ろで、黙々と道を作り、木を運び、石を積んでいる人達を見ていた。


「俺は、ヴァルハラのクランマスター、キルアだ。君は?」

「クラン『かなり。』のマスター、リンク……です」


 リンクの声が震えている。

 無理もない。

 相手は堂々としていた。


「単刀直入に言う。ここはヴァルハラが管理している区域だ」

「管理……ですか?」

「ああ。魔物の討伐、道の安全確保、近隣との取り決め。そういうものを、俺達が引き受けている。そこに、いきなり町を作られると困る」


 キルアは、怒鳴らなかった。

 けれど、その声はよく通った。


「す、すみません。俺達は、その……知らなくて」

「知らなかった、で済ませられる規模じゃないだろ」


 リンクが言葉に詰まる。


「すぐに出て行くなら、それでいい。だが、ここに残るなら、ヴァルハラの保護下に入ってもらう」

「保護下……」

「この土地を使う許可を出す。代わりに、維持費を払ってもらう。月五百万。先に一年分、六千万だ」


「ろ、六千万……」


 リンクの顔が引きつった。

 私も、遠くから見ているだけなのに、胃が痛くなった。


「高いと思うか?」

「いえ、その……」

「なら、話は簡単だ。払えないなら出て行ってくれ」


 キルアは、リンクを責めるようには言わなかった。

 ただ、当然のことを言っている顔だった。


「で、でも、少し皆と相談してもいいですか?」

「ああ。待っている。話してくるといい」


 リンクは頭を下げると、こちらへ戻ってきた。


 華菜がリンクを見つめ、直哉とイナは笑顔でいる。

 イツキは、少し睨んでいた。


 リンクが戻ってくると、すぐにイツキが声を掛けた。


「どうじゃ? 喧嘩になったか?」

「いや、あの、向こうの言い分が正しいと」

「はぁー。ダメな奴じゃの。それでも王になる者か? 今後は貴様を王としての心得を授けよう。よいな?」

「無理だよ。俺には」

「弱音は吐くな。さて、余の出番のようじゃな。リンク、参るぞ」

「えぇ、俺も?」

「はよういたせ」

「……はい」


 リンクは、そう言うと一度だけ私達の方へ振り返った。

 その顔は、泣き出しそうだった。


 ◇


「何だ? お嬢ちゃん何か用か?」


 キルアは、イツキを見ると話し掛けて、リンクに笑顔を見せた。

 リンクは、キルアの笑顔を見ると俯いた。


「お主、見た目で判断するとは、小物じゃのう」

「ははは! お嬢ちゃん言うじゃないか」


 キルアは、そう言ったが、目の前の少女の頭に生えた角を見ると、真剣な表情に変わる。

 イツキは、その表情を見て少しだけ笑った。


「で? 答えを聞こう」

「我等は、此処を離れるつもりは無い」

「そうか、なら俺達の管轄下に入るという事でいいな?」

「逆じゃ」

「は? ……逆?」

「うむ。ここを我等クラン『かなり。』の領地といたす。其方等ヴァルハラは、我等の傘下に入る。よいな?」

「あははは! お嬢ちゃん、面白い事を言うな。おい、リンク! それでいいのか?」


 リンクは、突然話を振られると、頭を上げた。

 泣きそうな顔だった。

 そして、小さく首を横に振った。


 違う。

 絶対に違う、という顔だった。


 だが、イツキは満足そうに頷いた。


「うむ。王の覚悟、しかと見届けた」

「見届けないでください……」


 リンクの声は、ほとんど泣いていた。


 キルアは、リンクを見て苦笑した。

 だが、すぐにイツキへ視線を戻す。


「本気で言ってるのか?」

「無論じゃ」

「俺達に喧嘩を売るってことか?」

「喧嘩ではない。取り決めじゃ」


 イツキは、楽しそうに笑った。


「其方等が勝てば、我等はこの地を去る。余達が勝てば、ヴァルハラは『かなり。』の傘下に入る」

「……なるほど。分かりやすいな」

「であろう?」

「いいぜ。そういう話なら、嫌いじゃない」


 キルアは笑った。

 さっきまでの笑みとは違う。

 少しだけ、戦う者の顔になっていた。

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