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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智
街造り

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二十八話 ここを本拠地とする

 私達は、アンドゥルを先頭にして歩いていた。

 両脇には、執事とメイドがずらりと並んでいる。

 その数、合わせて千百人ほど。

 百人ほどは、人間に擬態して始まりの街に残ったらしい。

 街の様子を探り、何かあればイツキへ知らせる役目だと聞いた。

 

 街を出された時、一人だけ見送りに来てくれた。

 シスターだった。

 

「あなた方とは色々とありましたが、とても寂しくなります。どうか旅の安全を祈らせてください」


 シスターは、私達に祈りを捧げてくれた。

 いつもの怖さはなかった。


 そして、私達はシスターにお別れを告げると歩き始めた。


 ……完全に、私のせいだ。


 私の前を、リンク、華菜、直哉が歩いている。

 誰も喋らない。

 振り返りもしない。

 ただ、黙って歩いている。

 その沈黙が、何より痛かった。


 イツキは、そんな私の腕に当然のように腕を絡めている。

 その少し後ろには、王国から派遣された幸村さんが歩いていた。

 イツキの身の回りの世話をするため、という名目らしい。

 けれど、どう考えても監視だ。

 私達がまた何かしでかさないように。

 そう思うと、胸の奥がぎゅっと縮んだ。


 ごめんなさい。

 本当に、ごめんなさい。


 そんな言葉ばかりが頭の中で浮かぶ。

 すると、イツキが私の顔を覗き込んだ。


「うさぎ様」

「……はい」

「罰として、食事抜きじゃ」

「当然!」


 華菜は、振り返ることなく言った。

 その声は、あきらかに怒っている。


 泣きそう……。


 自分が悪い。

 泣いて許してもらうのは卑怯だと思う。

 

 そう思っていたけれど、隣を歩いているメイドの一人がハンカチを渡してくれた時に、涙が溢れた。


 その時、前方からタンドレが歩いてくると、全員歩くのをやめ始めた。


「お嬢様、アン坊やが到着したと言ってますわ」

「うむ。うさぎ様ゆくぞ。リンク、華菜、直哉参れ」


 イツキは、私を引っ張り歩き始めた。

 私達の後にいた幸村さんもついてきている。


「余の道を開けよ」


 執事、メイドが左右に開くと頭を下げた。

 私達は、その中央を歩いていくと、アンドゥルが待っていた。


「陛下、予定の場所に」

「うむ。皆どうじゃ?」

「どうとは?」


 リンクが困った顔で聞き返した。


「ここに町を作るのじゃ。ここを本拠地とする」

「町を?」

「え?」

「おお、浪漫だな」


 私は、イツキから離れて、リンク達の後ろで俯いていた。


「ここから先の話になるが、よいか……町が出来れば、国家宣言を各国に」

「は?」


 リンクが固まった。

 私も固まった。


 今、何て言った?

 国家宣言?

 町を作るだけじゃなかったの?

 小屋とか、畑とか、そういう話じゃなかったの?

 国?

 私達、始まりの街を追い出されたばかりだよ?

 追放された人間が、その日のうちに国を作るって、そんなことある?


「く、国? こ、怖いんだけど」


 華菜の声が震えていた。

 分かる。

 すごく分かる。

 

「あははは! 浪漫じゃん」


 直哉は笑っている。

 何で笑えるの?

 いや、直哉はそういう奴だった。


「その時、リンク……其方が王となるがよい」

「はっ? お、俺が?」


 リンクが自分を指差した。

 私は、思わず顔を上げた。


 リンクが王?

 いや、リンクはクランマスターだ。

 確かに、私達の中では一番まともだ。

 一番ちゃんとしている。


 でも、王?

 王って、あの王様みたいな人でしょ?

 怖い顔して、椅子に座って、国のことを考えて、みんなの命を背負う人でしょ?

 リンクに、そんなもの背負わせていいの?


「リンクが王? 面白いじゃん」

「だな。浪漫溢れる」

「いや、あの」


 リンクだけが、必死に現実へ戻ろうとしていた。

 その少し後ろで、幸村さんは目を瞑ったまま話を聞いている。


 この人は、本当にイツキのお世話だけなのかな。

 王国から来た人だ。

 ただのお世話係なわけがない。

 もし、王国のスパイみたいな人だったら?

 まずくない?

 国を作るって話、全部聞かれてるよ?


 幸村さんは何も言わない。

 それが逆に怖かった。


「クランマスターであろう? 国とそう変わらぬ」

「いやいや、国だぞ?」

「従う者が多いか少ないかだけじゃ。決まりじゃ」


 決まりじゃ。

 軽い。

 国を作る話って、そんなに軽く決まるの?

 今日の晩ご飯を決めるくらいの感じで、王様が決まった。


「いや、決まりじゃ、じゃなくて――」

「反論は許さぬ」


 リンクの言葉は、そこで終わった。

 イツキは、執事とメイド達へ視線を向ける。


「予定通りに、動け」


 その一言で、千を超える魔族達が一斉に動き始めた。

 

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