二十七話 追放
「うさぎー。大変な事したねー。おもしろ」
イナが部屋に来た。
今、部屋にいるのは、
リンク。
華菜。
直哉。
イナ。
私。
イツキは、お城に呼ばれてアンドゥルが付き添っている。
おいちゃんとレイヴィルは、修行の旅に。
私だけ正座させられている。
何でこんな事に……。
「とりあえず罪状ね。デバイスシステム不正干渉。資金限度額制御突破。クラン共有資産不正運用。不正債務発生。賭博機能濫用。及び、限度額窃盗だよ。あははは」
しかし、イナは、笑った。
そんなに悪い事には、ならない感じがした。
「うう……盗む使ったのバレてる?」
「私を誰だと思ってるの? バレるよー」
「あの……裁判長、どうなりますか?」
リンクが不安そうに聞いた。
「そうだねこの事は、王様の耳にも入っていてね」
「え? やばくない?」
華菜が、前の処刑の事を思い出したのか、不安そうな顔をする。
直哉は、ボーッとしていた。
「システムにかなりの負担が掛かってね。クラッシュするところだったよ? うさぎ、ごめんなさいは?」
「ごめんなさい……」
「本当だよ。どうすんのよ。百二十億」
「その事なんだけど、今回、全ての事を無しにしたからね」
「え! 本当ですか?」
リンクが嬉しそうに言った。
「うん。百二十一億の借金は、なかったことにした」
「よ、よかった……」
華菜が胸を押さえた。
私も、ほっと息を吐いた。
助かった。
「ただし」
イナが笑った。
嫌な笑い方だった。
「罪がなくなったとは言ってないよ」
「……え?」
「借金は消し、システムも戻した。デバイスの記録も巻き戻した。でも、うさぎがデバイスに不正干渉して、資金限度額を盗んで、クラン口座を破壊しかけた事実は残ってる」
「う……」
「だから処分はあるよ」
「しょ、処分……?」
華菜が震えた声で聞いた。
「うん」
イナは、にこにこ笑ったまま言う。
「クラン『かなり。』は、本日をもって、この街から追放」
部屋の空気が止まった。
「……え?」
「この街のデバイス、ホーム、クエスト、資金管理、全部しばらく使用禁止ね」
「ええええええええええええええええええええ!!」
◇
王邸・執務室。
「イツキ殿、申し訳ないが、そういうことじゃ」
王が、深く息を吐く。
「ククク。うさぎ様は、余を退屈させぬ」
「折角、魔王殿と誼を通じたというのに、あの馬鹿共は……」
「宗篤殿、そう言うな。あれはあれで面白い」
「面白いで済めばよいがの」
王は額を押さえた。
「して、イツキ殿はどうするのじゃ?」
「流れに身を任せるとしよう。それよりもじゃ。アンドゥル」
「はっ」
「例の物を」
「はっ」
アンドゥルは懐から折り畳まれた紙を取り出し、王の机の上に広げた。
地図だった。
王は、その地図を食い入るように見た。
「これは……」
「ここ数日、周辺国の情報を集めておった。そのついでに、地図も作らせた」
「たった数日で、これほどまでに……」
王の背に、冷たい汗が流れる。
地形。
街道。
河川。
森。
山。
そして、国境線。
王国が把握している地図よりも、遥かに精密だった。
「この街を追放されるなら、余があの者達を導こう」
イツキは地図の一点を指差す。
「ここに町を築く」
「町を?」
「うむ。ここは帝国との境に近い」
「たしかに……」
「ここに砦を兼ねた町ができれば、帝国は嫌がるであろうの」
王は、一瞬黙る。
そして、笑った。
「あははは! なるほど。ならば、イツキ殿にますます手を貸さねばならぬな」
「うむ」
イツキは、愉快そうに笑う。
「余が調べたところ、この街の外壁と王城の修復システムは破損しているのであろう?」
「我が国の一大事じゃ」
「帝国の動きが活発化しておる」
「わしの耳にも入っておる」
「ならば、余が壁になろうぞ」
王は、静かに頭を下げた。
「イツキ殿、かたじけない」
「礼には及ばぬ」
イツキは笑う。
「余を試した罪。クラン『かなり。』の庇護をもって赦すといたそう」
王は、しばらくイツキを見つめた。
それから、腹の底から笑った。
「あの者達の追放で、少しは安堵しておったが……どうやら、わしはあの者達から逃げられぬようじゃ」
「宗篤殿、余はこれで」
「幸村、入れ」
王が言った時、パンツスーツ姿をした女性が入室すると、一礼する。
「この者は、幸村凛。イツキ殿に不便があってはならぬ。この幸村をお使いください」
「初めまして、幸村凛と申します。よろしくお願いします」
イツキは、頭を下げて礼をする幸村を少しだけ見ると、王をジッと見つめた。
王は、その視線に気がつくと幸村に声をかける。
「よいか、お主は魔王と我が王国との橋である。粗相があってはならぬぞ」
「はっ」
「イツキ殿、そういうことじゃ。幸村の同行を……」
「ククク。宗篤殿、そなたは一癖も二癖もあるのう。幸村とやら……同行を赦す」
「よろしくお願いします」
幸村は、丁寧に頭を下げた。
「宗篤殿、王国のお心遣い感謝する」
「イツキ殿、お気をつけられよ」
◇
何も無い真っ白な空間。
イナは、椅子に座っていた。
目の前には、デバイスの画面が浮かんでいる。
「うさぎは街を出たか……うんうん。順調、順調」
イナは、楽しそうに足を揺らした。
画面には、三つの文字が並んでいる。
error・リンク・消去不可。
error・ 華菜・消去不可。
error・ 直哉・消去不可。
「やっぱり、私じゃ消せないか」
イナは笑った。
画面が、次の文字を表示する。
errorの消去には、対象の生命停止が必要です。
「あはは。ひどいこと言うねー。人殺しはノンノン」
イナは、まるで他人事のように笑った。
「私が殺す事が出来れば、話は早いのになー」
指先が、画面を撫でる。
帝国。
王国。
魔王。
クラン『かなり。』。
いくつもの名前が、白い空間に浮かび上がった。
「うさぎには、もっと盗んでもらわないと」
イナは、笑う。
「もっと盗んで。育てて……世界を盗めるくらいに」
その声だけを残して、イナの姿は消えた。
白い空間に、最後の文字だけが残る。
error・消去条件。
対象:リンク(ヒーラー)・華菜(道化師)・直哉(罠士)
条件:三名の生命停止。




