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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智
街造り

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二十六話 博徒伝 ギャンブラー兎

 目を覚ますと、イツキはいなかった。

 寝巻きのまま、部屋から出ると執事やメイドが奥の部屋の前から一列に並んでいた。

 興味が湧いたので、奥の部屋を覗いてみた。

 中は、小さな部屋で中央に机が置いてあった。

 その机で、イツキが何かの書類に目を通して、一人ずつ何かの指示をしている。


 魔王ってたいへんだな……。


 そのまま部屋に戻ると、またベッドに横になっていた。


 皆、何してるんだろう?


 そんな事を思いながら、ゴロゴロしていると、いつの間にか寝ていた。


「うさぎ! おーい! 起きろ!」


 ドンドンドン!


 リンクの声と扉をノックする音で目が覚めた。

 ベッドから身体を起こし、ふらふらと歩いて扉を開けた。

 扉を開けると、リンクが立っていた。


「うさぎ、飯食いに行こうぜ」


 リンクの後ろには、華菜と直哉もいた。

 華菜は、まだ眠そうに目を擦っている。

 直哉は、廊下の奥を珍しそうに見回していた。


「ご飯?」

「ああ。朝から何も食ってないだろ」

「食べてない」


 昨日から色々ありすぎて、ちゃんと食べた記憶がない。


「イツキは?」

「いない。仕事してるらしい」

「魔王ってたいへんだね」

「だな」


 リンクが短く答える。

 私達は、廊下を歩いた。

 相変わらず、宮殿の中は広い。

 白い石で出来た床は磨き上げられていて、歩くたびに寝巻き姿の自分が場違いに思える。


 曲がり角ごとに、執事やメイドが立っていた。

 皆、静かに頭を下げてくれる。


 角がある人。

 羽がある人。

 肌の色が少し違う人。

 見た目は人間に近いけど、誰一人として人間ではない。

 全員、魔族だった。

 でも、不思議と怖くはなかった。


 だって……私も魔族だし……。

 えー? 嘘? マジで?


「こちらでございます」


 案内してくれたメイドが、大きな扉の前で立ち止まった。

 そこは、食堂だった。


「……広っ」


 思わず声が漏れた。

 長い食卓が、いくつも並んでいる。

 天井は高く、壁には大きな窓があり、朝の光が差し込んでいた。

 けれど、それよりも目を引いたのは、壁一面に並ぶ棚だった。

 小さな棚が、壁にびっしりと並んでいる。


「何これ……」


 華菜が呟いた。


「すげえ数だな」

「千個くらいあるんじゃねえか?」


 直哉が言うと、近くにいた執事が静かに答えた。


「千二百個でございます」

「千二百」


 多すぎる。

 さらっと怖い言葉が出た。

 華菜が私の袖を掴んだ。


「うさぎ……私達、何食べればいいの?」

「普通のやつ」

「普通って何?」

「人間が死なないやつ」


 すると、メイドがすぐに頭を下げた。


「ご安心ください。皆様には人間用の朝食をご用意いたします」

「人間用って言い方が怖いんだけど」

「毒、魔力、血液、発酵魔草、魔獣内臓類は使用いたしません」

「使う場合があるんだ……」


 私は、少しだけ後ずさった。

 リンクが苦笑する。


「とりあえず、食えるならいいだろ」

「そうだけど」


 席に案内される。

 座ると、すぐにメイドが横へ来た。


「何をお召し上がりになりますか?」

「じゃあ……パンと卵とスープ」

「かしこまりました」


 華菜も小さく手を上げる。


「私もそれで」

「俺も」

「俺は肉も欲しい」


 直哉が言うと、執事が頷いた。


「焼き加減はいかがいたしましょう」

「普通で」

「かしこまりました」


 普通で通じた。

 少し待つと、奥の扉から料理が運ばれてきた。

 運んできたのは執事だった。

 皿の置き方ひとつにも音がない。

 焼きたてのパン。

 白い湯気を立てるスープ。

 ふわふわの卵。

 直哉の前には、厚く切られた肉まで置かれた。

 見た目は、ちゃんと普通だった。


「いただきます」


 皆で手を合わせてから食べる。

 美味しかった。

 すごく、美味しかった。

 パンは柔らかく、スープは優しい味がした。

 卵も、変な味はしない。

 毒も、魔力も、たぶん入っていない。


「……美味しい」


 華菜がほっとしたように言った。


「普通にうまいな」

「ああ」


 リンクも頷く。

 直哉は黙って肉を食べていた。

 周りでは、執事とメイド達が静かに控えている。

 誰も話しかけてこない。

 けれど、皿が空けばすぐに下げられ、水が減ればすぐに注がれる。

 落ち着かない。

 でも、悪い気分ではなかった。

 食事を終えると、リンクが言った。


「一回、デバイス見に行こうぜ」

「デバイス?」

「クランの金、確認した方がいいだろ。百億入って、借金返したんだろ?」

「あ」


 忘れていたわけではない。


 十四億。


 数字が大きすぎて、まだ実感がなかった。


 私達は食堂を出た。

 大階段のある広間へ向かう。

 階段は、何度見ても大きい。

 白い石で作られた階段が上へ伸び、手すりには細かな装飾が彫られている。

 その大階段の横に、小さな部屋があった。

 案内された時には気にも留めなかったけど、中に入ると、壁際に見慣れたものが置かれていた。


 デバイスだ。

 始まりの館やクランホームにあったものと同じ形をしている。

 ただ、置かれている台がやたら豪華だった。


「これもあるんだ」

「宮殿だからな」


 リンクが近づく。

 私はデバイスに手を触れた。

 画面が光る。

 クラン『かなり。』

 表示された文字を見て、胸が少し落ち着いた。

 資金の欄を開く。

 そこには、確かに表示されていた。


 十四億ペニー。


「……ある」


 私は呟いた。


「本当に残ってる」

「十四億か」


 リンクが画面を見つめる。


「四億で死にかけてたのにね」

「それ言わないで」


 華菜が小さく笑った。

 でも、その笑いもすぐに消えた。

 皆、画面を見ていた。


 十四億。

 大金だった。

 もう、宿代に怯えなくていい。

 ご飯代で悩まなくていい。

 ホームを失う心配も、少しは遠のいた。


「大事に使おう」


 リンクが言った。


「うん」


 私も頷いた。

 その時、直哉が画面の端を指差した。


「なあ」

「何?」

「これ」


 言われて、私は画面を見る。


 クエスト。

 資金管理。

 ホーム管理。

 メンバー管理。


 その下に、小さな項目があった。


 スロット。


 私は、指を止めた。


「……スロット」


 華菜が、その文字を見て固まった。


「うさぎ」

「何?」

「押しちゃ駄目よ」


 私は画面を見つめていた。

 スロット。

 その文字だけが、妙にはっきりと光って見えた。


 皆は、今後この資金をどうするか話し合い始めていた。

 けれど、その話は私の耳に入ってこなかった。


 スロットを押して操作する。

 掛け金は、最大一億まで賭けられるようだった。


 はぁ……はぁ……。

 手が……手が……。


 ティロン。


 と、音がする。


「きゃあああ!! この馬鹿あーー!!」

「うさぎ! 何やってんだ!」

「あははは! うさぎ、一億賭けてやがる。浪漫だ」


 直哉だけが笑った。

 だけど、皆すぐに黙って、デバイスを食い入る様に見る。


「え?」


 スロットでは、


 右「50」

 真ん中「50」


 が止まり、リーチの文字が表示されると、画面が騒がしくフラッシュしはじめる。


「え? これ当たる?」


 華菜がソワソワし始める。


「当たったらどうなるんだ?」


 ドンッ!


 私は、高級そうな台を叩く。


「こい! こおおおおおいいいい!!!」


 左に止まったのは、「50」

 画面が騒がしくフラッシュしはじめる。


 その瞬間、私は画面を睨んでいた。

 皆も黙って画面を見ている。


「え? 当たったんだけど? どうなるの? この馬鹿、一億賭けたんでしょ?」


 華菜は、とうとう私の事を馬鹿と言った。


「さ、さあ?」

「浪漫が溢れるな」


 直哉がそう言った時に画面に➕五十倍の文字が!


 下のパネルに資金がどんどんと上がっていく。


 華菜は、手を口にあてて見つめ、リンクと直哉は、私の顔の真横に寄せて見ていた。


 資金表示が止まった時に、表示された資金は……。


 $5000000000pn


 クランの資産表示には、


 6300000000pnと表示されている。


「え? い、いくら?」

「イチジュウヒャクセン………….ご、ご、ゴジュウオクウウウッ!!! うおおおおおお!!」

「すごい!! すごい!!」

「す、すげぇ……」

「浪漫だああああああ!」


 直哉が土下座して叫ぶ。


「うさぎ様ああああ!」


 リンクと華菜もそれに続いた。


「うさぎ様! 最高!!」

「馬鹿と言ってすいませんでしたああ!!」


 そして、私は、両手でガッツポーズを決めた!


「うおおおおおおおお!! 金持ちやああああ!!」

「うさぎ! うさぎ! うさぎ!」


 一通り皆で騒いでいた。


 そして……。


「ねね、百億目指そうよ」


 私がそう言うと、華菜が慌てた。


「うさぎ、もう止めよ? ね?」

「だな」


 リンクも華菜に賛成したけど、直哉だけが違った。


「浪漫じゃねえな」

「でしょ?」

「直哉、煽るな」

「あと、少しだけ、お願い」


 手を合わせてお願いした。


「あと少しだけだからね?」


 華菜は、ため息混じりに言う。


「うさぎ、あと五回だけな」


 リンクは、諦めたのかそう言った。


 私は、五回だけスロットを操作した。


 一回で一億……。

 感覚がバグる。

 一億使っている事に何も感じていなかった。

 ただ、数字が動いているだけの様に感じている。


「ヒャッホオオオオ!!!」

「も、もう終わり、すごいのは分かったから、ね? うさぎ終わろ?」


 いま、資金は八十億を超えた。

 二十倍が当たり資産は、更に増える。

 

 これ、増える一方なんじゃ?


「もういいだろ?」

「だな」


 さすがに、直哉も皆に賛成した。

 その時、クランホームの部屋の戸が叩かれる。


 リンクが戸を開けると、執事の人が夕食の準備ができた事を告げに来た。


「分かった。もう止める」


 執事について皆で食堂に行った。

 イツキは、やはりいない。


 まだ、仕事をしているのか……。


 皆、料理を頼んだ。

 三人は、お酒も頼んでいる。

 お金が六十億も増えた事で、テンションが上がっていた。

 私は、ソワソワしてる。


「うさぎ? 食べないのか?」

「う、うん……何か調子が悪くて」

「大丈夫?」


 華菜が心配し、リンクが「横になるか?」と聞いてきた。


「うん……ごめん……皆、楽しんで」


 それだけ言い残し、食堂から出ようとすると、メイドがお部屋までと言ってくれたけど、その申し出を断って、一目散にホームの部屋に行った。


 ◇


 やばいやばいやばいやばいやばい!!!


 どれほど時間が経つのか分からない。

 私は、ずっとスロットをやっていた。


 今、資金が一億。

 クランの全ての資金が一億だけになっていた。


 あれだけあったお金がああ!!

 お願いします! お願いします!


 せめて、十倍をおおおお!!


 そして、0になった。


 うわあああああ……。


 どうしよう? 

 皆に怒られる!


 スロットのスタートを押す。


 資金の限度額を超えています。入金してください。


 そんな文字が表示される。


 お金無いなった……。

 終わった……。


 右手にセットしている『盗む』のスキルをなぞると、画面に向けて、スキルを発動してみた。


「限度額を盗め」


 右手に「$」のマークが現れるとすぐに消えた。


 試しに、スロットのスタートを押してみる。


 赤文字で、−100000000と表示されて、スロットが回転する。


 やばい!

 マイナス一億!


 お願いします!

 お願いします!

 お願いします!

 当たって!

 当たって!


 目を瞑って両手を握り、祈りを捧げる。


 そして、画面が激しくフラッシュしていた。

 目を開けると、そこには。


 資金が十九億表示されている。


 やった!

 やった!

 危なかった!

 トータルは、プラス五億。

 もう止めよう。

 これ以上は、ダメ……。


 ……。


 あと、一回。


 外れ。


 も、もう一回。


 外れ。


 と、一回。


 一回。


 回。


 ……………………………。


 ◇


「うっ……う……うう……ひぐ……ひぐ」


 玄関の大階段の右横にある部屋から泣き声が、漏れていた。


「う、うさぎ?」


 華菜は、おそるおそる、扉を開けると中でクランのデバイスを開いて、スロットをまだやっていた。


「か、華菜……う……うう……」

「うさぎ? だ、大丈夫?」

「こ、これ……」


 うさぎは、デバイスを指差した。

 華菜は、デバイスを覗き込んだ。


 華菜は、暫く眺めていた。

 状況を把握したのか、目を見開いた。


「ぎゃあああああああああああ!! あんた何やってんのおおおおお!!」


 クランの資産表示は、赤文字で


 −12000000000pn


 と、表示されていた。


「華菜……う……うう……これ、取り戻せると……思う?」

「無理だろおおおお! 言ったじゃんか!! もう止めようって!! どうすんのよおおおお!」

「う……あ……う……」


 ティロン♩


「回すな!! このドアホが!!!」


 −12100000000pn


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