二十二話 帰還
「うさぎ様、宮殿は広いのか?」
今、私達は、籠に乗って揺られている。
イツキと二人で同じ籠に乗せられ、イツキは私の膝の上に座って、聞いてきた。
後には、四つの籠を魔族が抱えて歩いている。
中には、リンク、華菜、直哉、おいちゃんとレイヴィルが一緒に乗っている。
江戸時代か!
「い、イツキ……これ、戦争するわけじゃないよね?」
「何故戦せねばならぬ? 余が、新しく移り住むのじゃ、このくらいは必要であろう」
籠から顔を出して、周囲を見る。
左右に、籠を抱える四人、後に華菜達の籠が四つ。
そして、左右に執事とメイドが数百人、籠と同じ速度で歩く。
先頭には、騎士1200が警戒しながら進んでいる。
最後尾は魔法隊、八百が後方の安全を護り、執事、メイドの更に向こう側に近衛隊、合計千六百がイツキの護衛にあたっているらしい。
空には、飛行能力のある魔族が飛び交っている。
イツキの元に走り寄って来る魔族は、何かを報告し、イツキはその度に指示を出す。
そして、その合間に私に話しかける。
魔王って……すごい大変?
「宮殿というか、家?」
イツキは、少しだけ無言になった。
「なんにせよ、うさぎ様と一緒ならなんでも良いぞ」
「それは、ちょっと」
「ならぬ! タンドレ」
「何でしょう?」
イツキは、見た目中年風のメイドに声を掛けた。
タンドレは、メイド婦長らしい。
山羊の様な角が生えている。
「屋敷につけば、うさぎ様と余の部屋をしつらえよ」
「かしこまりましたわ」
タンドレは、頭を下げるとメイド達に指示を出し始めた。
「うさぎ様、タンドレを怒らしてはならぬぞ? 余より強くて、そして怖い」
何故こんな事になっているのか?
イツキが、クラン「かなり。」に入った。
私と、一緒に暮らすといって無理にクランに加入した。
クランに加入したのは、イツキ、レイヴィル、アンドゥル、カルラ、ナキリ、それと屋敷勤めの執事とメイド、近衛の一部。
その数、総勢千二百人。
ちなみに、外の護衛は含まれていないらしい。
えぇ……千二百人って……。
あのホームのどこに?
嫌な予感しかしなかった。
始まりの街。
この世界をイナが作成した時、一番初めに作られた。
この世界の目的は、魔王を倒す事を前提とされていたが、長い年月にその前提は薄れていった。
始まりの街には、領土内で魔王の生体反応を感知するとサイレンがなるシステムが導入されている。
今、そのサイレンがけたたましく鳴り響いていた。
王邸。
王城の復興が進まず、王や王室の者達は王邸に移り住み、政治の場となっていた。
「陛下。一大事でございます」
年老いた執事の男が、執務室に駆け込んできた。
執事の名は、「川畑章雄」
王は、ペンを置くと、静かに答えた。
「サイレンは、聞こえておる。どうなっておる?」
「はっ、只今、物見を出し、騎士団長殿が兵をまとめております」
「うむ。何故今頃に魔王が?」
「分かりかねますが、先日、クラン『かなり。』から、王城爆破の賠償金八十二億ペニーが振り込まれました。調べたところ、あの者達、魔王討伐クエストを申請していたようで……何か関係が?」
その言葉を聞くと、王の眉間に皺が走る。
「また、あの馬鹿共か! 関係もクソもあるか!! あのアホ共! また何かやりやがったな!」
その時、執務室の扉がノックされた。
川畑が、「誰か?」と声を掛けた。
「はっ! 王国軍総司令、北斗豪であります。陛下にご報告にあがりました」
王は、静かに答えた。
「入れ」
「はっ!」
扉が開かれると、背の高い筋肉質の男が、軍服姿で入室してきた。
右手で、軍帽を抱えている。
北斗は、一礼すると話始めた。
「物見によりますと、魔王軍、騎士隊を先頭にこちらに進んでおります。軍の中心に籠が四機。その籠を守る様に進軍中。騎士隊、籠の左右に槍を装備した、恐らく、近衛兵団、後方に、魔導兵団とみられると、総兵五〇〇〇前後の軍とみられます。如何なさいます?」
王は、暫く考える。
川畑は、グラスに水を注ぐと、王に差し出し北斗にも勧める。
北斗は、かたじけないと声をかけて、一気に飲み干すと、グラスを川畑に渡す。
川畑は、受け取ったグラスを持ち、王に一礼し執務室から出ていった。
「その方は、どう思う?」
「はっ! 只今、騎士団長、渡辺総一が兵をまとめ、三八〇〇〇布陣が完了しております。魔王軍五〇〇〇ならば、一気に殲滅も可能かと」
「ふむ。五〇〇〇のみか? その背後に控えてはおらぬのか?」
「と、申しますと?」
「仮にも、魔王自身が来ておるのだ、それのみとは考えにくいであろう」
「しかし、魔防スキル兵二〇〇〇、タンクスキルも二〇〇〇前衛に配置しておりますれば」
「それらも計算している事だろう。魔王自身五千で足りると判断しての事かも知れぬ」
その時、執務室の扉がノックされた。
「誰だ」
王が声をかける。
返事はなかった。
北斗が眉をひそめ、腰の剣に手をかける。
次の瞬間、扉が勝手に開いた。
入ってきたのは、一人の女だった。
場違いなほど軽い足取りで、まるで散歩の途中にでも寄ったように、女は執務室へ入ってくる。
王の顔から、表情が消えた。
「……イナ様」
女は、にこりと笑った。
「やっほー。大変そうだね」




