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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智
魔王討伐

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二十話 作戦スタート!

 最初に、レイヴィルの作戦を実行となった。

 私達は、寝室横の控室にいる。


 ーレイヴィルの作戦ー


「レイヴィル、余はどうすればよいのだ?」

「はっ! お耳を」

「うむ」


 レイヴィルは、何かの本を見せながら魔王に説明している。


 何か……。

 添い寝するだけだよね?

 そんなに説明する事ある?


 覗き穴でうさぎの様子を見る。

 気持ち良さそうに寝ている。

 あんなベッドで、私も寝てみたい。

 羨ましい。


 横を見ると、リンク、直哉、おじ様が食い入るように覗いている。


「あんまり、覗かないの。うさぎが可哀想でしょ」


 しかし、魔族の寝巻き、意外と可愛い……。

 あれは、なんの動物を?


「華菜殿、準備出来ました」


 レイヴィルは、小さな声で言った。


「分かりました。魔王様、いいでしょうか?」

「うむ」


 皆が私を見る。


「では、行きます。レイヴィル作戦スタート!」


 その言葉と同時に、魔王はドアを開いて、寝室に入って行った。


 皆、覗き穴を覗く。

 な、何か、悪い事している気が……。

 うさぎごめん。


「あの、レイヴィルさん、どんな作戦を?」


 うさぎに悪い気がして、喉が渇く。

 水を口に含んだ時に、レイヴィルが一冊の本を差し出して言った。


「人間は、こういう行為をするのだろ?」


 本を見た。


「ぶっふうううううう!!」


 水が噴水の様に吐き出された。


「汚な! おい!」

「華菜!」

「華菜ちゃん、大丈夫か?」

「ゴホッ! ゴホッ! エロ本じゃないのおお!!」


 うさぎが危ない!


「どいて!」


 直哉と変わって覗き穴を覗く。

 魔王は、うさぎの上に跨って、服を脱がそうとしていた。


 ぎゃあああ!!

 うさぎいい!!


 控室の扉を、勢いよくあけ、ベッドに走って行くと、魔王が私を見た。


「犯罪じゃあああ!!」


 ゴンッ!


 魔王を拳骨する。


「余に何をした?」

「早く来て! いいから、うさぎに嫌われる」

「何だと?」

「早く!」


 魔王もその言葉を聞くと、慌てて控室に戻った。


「おい! あんた何やらせたんだよ!」

「しかし、この本では」

「華菜とやら、余に何をした?」


 ブチっ!


 こいつらああ!

 キレた!

 ブチギレじゃあ!!


「おい、座れぇ……」

「華菜殿、何を言うか! 魔王様に座れなどと」


 慌てて、カルラが言う。


「黙れ……」

「華菜?」

「落ち着けって」

「華菜ちゃん、うさぎちゃん起きてしまうぞ」

「皆黙れぇ……。ぶち殺すぞ」

「ほう?」


 バチーンッ!


 魔王にビンタする。


「……貴様」


 魔族の四人は、慌てていた。


「うさぎに嫌われたいのか? おい」

「……」

「ようく聞け! うさぎの意識がない時にあんな事するな。いいな?」

「華菜とやら」

「座れ! うさぎに嫌われてもいいのか?」


 そう言うと、魔王は、黙って座った。


 教育してやる。

 魔王を!


「おい、今から私の事は、お姉ちゃんと呼べ」

「貴様が余の姉だと? ふざけた」

「呼べ」

「貴様」

「うさぎは渡さない」

「……お姉ちゃん」

「よし、いい子だ。今後は私を頼れ、いいな?」

「分かった」

「お姉ちゃんは?」

「分かった、お姉ちゃん」

「よし! レイヴィル、マイナス百点」

「何故でございますか!」

「犯罪じゃ! 次!」


 アンドゥルが進み出た。


「ふん、レイヴィルには、お似合いだな。マイナス百点とは、あははは。次は、私めにお任せください。魔王様、必ずやご満足いただけるかと」


 チラッと魔王は、私を見てアンドゥルに声を掛けた。


「うむ。期待しておるぞ、アンドゥル」

「はっ!」


 ーアンドゥルの作戦ー


「華菜、どういう事?」

「まぁまぁ、それよりも、そのドレス可愛い〜」


 うさぎは、寝起きにメイドに取り囲まれ、無理矢理ドレスに着替えさせられていた。


 あの時のうさぎの怯えようといったら……。


 クククク。


「ごまかさないで、怖いんだけど?」

「大丈夫だから、ついて来て」


 うさぎは、寝起きでまだ少し目がとろんとしていた。


「華菜」

「大丈夫、大丈夫!」


 そう言うと、うさぎはさらに嫌そうな顔をした。


「その言い方が怖いんだけど」


 私達は、魔王城の中庭に移動した。


 とんでもなく広い。

 庭っていうより、もう森だった。

 綺麗な花が咲いていて、噴水もある。

 道は白い石で出来ていて、月の光を反射している。

 普通に綺麗だ。


「アンドゥルさん、作戦内容を」


 私が言うと、アンドゥルは胸に手を当てて頭を下げた。


「はっ。私めの作戦は、手を繋いでお散歩作戦にございます」


 手を繋いでお散歩?

 いいじゃん!

 て、式場選びの本からよく辿りついたな!

 天才か?


 うさぎが私の袖を掴んだ。


「華菜、これ本当に大丈夫?」

「たぶん。今のところは」

「今のところって何?」


 イツキが、うさぎの前に立った。


「うさぎ様」

「な、何?」

「手を」


 イツキが手を差し出す。

 うさぎは、その手をじっと見る。


「変なことしない?」

「しない。お姉ちゃんに怒られる」


 うさぎが私を見た。

 魔王にお姉ちゃんって呼ばれるの、まだ慣れない。


「よし。では、アンドゥル作戦、スタート!」


 うさぎは恐る恐る、イツキの手を握った。

 その瞬間だった。


 ザッ!


 庭の左右に、ずらりと人が並んだ。


 執事。

 メイド。

 近衛兵。

 侍女。

 楽士。

 旗持ち。

 花びらを撒く係。

 数百人はいる。


「……は?」


 うさぎが固まった。


「何これ?」

「魔王陛下の散歩でございます」


 アンドゥルが当然のように言った。


「散歩に人数多くない!?」

「最低限です」

「最低限!?」


 うさぎとイツキが手を繋いだまま、一歩進んだ。


「陛下、御休憩を」


 執事が椅子を置いた。

 豪華な椅子が、二脚、二人の後ろに置かれている。


「え?」

「うさぎ様、お掛けください」

「いや、一歩しか歩いてないんだけど?」


 メイド達が、うさぎを座らせた。


「ちょ、ちょっと待って!」

「髪を整えます」

「お化粧の乱れはございません」

「水分補給を」

「お菓子もございます」

「一歩だよ!? 一歩歩いただけだよ!?」


 うさぎが叫ぶ。

 でも、魔族達は大真面目だった。


「再開可能です」

「うむ」


 イツキが立ち上がる。

 うさぎも立たされる。


「何だったの、今の?」


 二人はまた手を繋いだ。

 一歩進んだ。


「陛下、御休憩を」

「またああああああああ!?」


 椅子が出た。

 座らされる。

 髪を整えられる。

 水を飲まされる。

 立つ。

 一歩。


「陛下、御休憩を」

「なんじゃこれええええええええ!!」


 うさぎの絶叫が、中庭に響いた。


「散歩って歩くことだよね!? 何で一歩ごとに座るの!? 進まない! 全然進まない!」


 イツキは首を傾げた。


「魔王の散歩とは、こういうものだが?」

「普通に歩かせろ! 人間は一歩ごとに椅子に座らないの!」


 私は指揮棒を上げた。


「終了!」


 その瞬間、全員の動きが止まった。

 うさぎは肩で息をしている。


「疲れた……。全然歩いてないのに疲れた……」


 直哉は腹を抱えて笑っていた。


「一歩ごとに休憩は新しいな」


 おじ様は静かに頷いた。


「格式とは、時に人を縛るものだな」

「おじ様、今そういう話じゃない」


 私はアンドゥルを見た。

 アンドゥルは、なぜか誇らしげだった。


「いかがでしたか、華菜殿」

「アンドゥル作戦……」


 私は指揮棒を掲げる。


「一点!」

「一点!?」


 アンドゥルが目を見開いた。


「手を繋いで散歩までは良かった! そこから全部ダメ!」

「くっ、無念」


 アンドゥルは、地に伏せ悔しがる。


 私は大きく息を吐いた。


「次!」


 ナキリが静かに前へ出た。


「アンドゥル、レイヴィル。見ているがいい」


 ーナキリの作戦ー


「魔王様、うさぎ様、私にお任せください。必ずやご満足いただけるかと」

「うむ。ナキリ任せたぞ」

「はっ」

「ちょっと待って! 皆何してるの?」

「うさぎは黙って!」

「はあ? 説明がいるでしょ!」

「まぁまぁ、今面白いから」

「もー」

「さて、ナキリさん、あなたの作戦は?」

「我が作戦は、盛大に式典を」

「どの様に?」

「華菜殿、よくぞ聞いてくれた。今、城の東側に巨大な式場を建設中だ」

「は? 建設中? それ、どのくらいかかりますか?」

「ふむ……。一年あれば可能かと」

「ナキリ作戦終了〜!! 0点!!」

「なんだとおおお!」

「長い! 以上!」

「最後、カルラさん」


 私は、祈るような気持ちでカルラさんを見た。


 頼む。

 頼むから、まともであって。


 カルラさんは、胸に手を当てて、にこりと笑った。


 ーカルラの作戦ー


「わたしの作戦は、遊園地でございます」


 遊園地なら大丈夫。

 魔王城の裏側に、それはあった。

 私は、口を開けたまま固まった。


「……うわ」


 そこには、想像していた魔王城の風景が広がっていた。


 黒い鉄の門。

 赤黒い空。

 地面から噴き出す炎。

 骨で作られた観覧車。

 牙のような支柱で支えられた巨大な滑り台。

 悲鳴のような音を立てて回る謎の乗り物。


 うん。

 遊園地って何だっけ?


「カルラさん」

「はい」

「これ、遊園地?」

「はい。子供達に人気です」

「魔族の子供、強すぎない?」


 うさぎが、私の袖を掴んだ。


「華菜……怖い」

「まだ何もしてないから!」

「何もしないで帰ろ?」


 私も少し帰りたかった。

 

「では、まずは安全性を確認するため、近衛兵による実演を」


 カルラさんが手を上げると、近衛兵の一人が前へ出た。


「光栄であります!」


 何が光栄なのか分からない。

 近衛兵は、巨大な車輪のような乗り物に乗った。

 次の瞬間。

 車輪が空へ飛んだ。


「え?」


 空中で三回転した。

 燃えた。

 落ちた。

 爆発した。


 煙が晴れると、近衛兵は地面にめり込んでいた。


「え? え? 死……。え?」


 私が叫ぶと、周囲の魔族達が拍手した。


「素晴らしい!」

「見事な飛距離!」

「次は私が!」

「いや、私だ!」


 魔族達が、次々と手を上げ始めた。


 何で死にたがってんの!?


「華菜ちゃん」


 おじ様が静かに言った。


「あれは、魔族にとっては楽しいのかもしれない」

「価値観の差が深すぎる!」

「次は、こちらです」


 カルラさんが案内したのは、巨大な谷だった。

 谷の上に、一本の丸太が渡されている。

 普通なら、ちょっとしたバランス遊びだ。

 でも、下に見えるのは溶岩だった。

 あと、何か動いていた。

 絶対、溶岩だけじゃない。


「これは?」

「丸太渡りです」


 うさぎが震えながら言った。


「やらない。私、これはやらない」

「ならば、余がやろう」


 イツキが一歩前へ出た。


「イツキ?」


 うさぎが慌てて止めようとした。


「大丈夫だ、うさぎ様。余は魔王ぞ」

「いや、そういう問題じゃない!」


 イツキは、うさぎに微笑むと、丸太の上に足を乗せた。

 黒いドレスの裾が、風に揺れる。

 普通に歩いている。


 すごい。


 そう思った瞬間だった。

 谷の奥から、何かが跳び出した。


 犬?

 たぶん犬。

 でも、山くらい大きかった。


「ぎゃあああああああ!!」


 うさぎが叫んだ瞬間、その犬みたいな怪物が、イツキを丸呑みにした。


 世界が止まった。


「イツキイイイ!!」


 うさぎの声が裏返った。


 次の瞬間。


 犬が膨らんだ。

 黒い光が、内側から漏れた。


 轟音がし爆風が襲う。

 地面がめくれ、遊園地の遊具が吹き飛び、遠くに見えていた山が、真っ平らになっていた。

 空に、巨大な黒い煙が上がっている。


 煙の中心にイツキが立っていた。

 服の乱れ一つもない。


「ふむ」


 イツキは、何事もなかったように髪を払う。


「少し驚いたな」

 

 うさぎが腰を抜かして、地面に座り込んでいた。


「うさぎ?」


 私は近づこうとした。

 でも、その前にメイド達が動く。


「うさぎ様、失礼いたします」

「入浴の準備を」

「替えのお召し物を」

「お部屋へお運びします」


 うさぎは、真っ赤な顔で震えていた。


「ち、違う……これは……違う……」

「大丈夫です。オシッコを漏らしたなどと言いません」

「言ってるだろおおおおおおお!!」


 うさぎは、メイド達に抱えられ、そのまま城へ運ばれていった。


「終了!! マイナス一億点!」

「マイナス一億だなんて……」

「死ぬわ!」


 私は指揮棒を地面に叩きつけた。


 これで全員終わった。


 レイヴィル、マイナス百点。

 アンドゥル、一点。

 ナキリ、零点。

 カルラ、マイナス一億点。


 まともな作戦が、一つもない。


「優勝者なし!」


 私は宣言した。

 魔族四人は、悔しそうに膝をついた。


 それから、皆お城に戻って、最初の魔王の部屋に入った。


 あー!

 楽しかった!


 ◇


 何だったんだろう?

 私の知らないところで華菜が何かやってたのは分かる……。

 くそー、人で遊ぶなああ!


 この時、私はまだ知らなかった。


 この後、イツキに子を授ける事になることを。

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