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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智
魔王討伐

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十七話 好き!

「よく来たな」


 魔王の声は少女そのもので、静かだけど、威厳がある。


「レイヴィルいるか?」

「はっ! こちらに」


 魔王に、呼ばれると、カルラとナキリの横に現れ、膝をつき、頭を垂れた。


「いとういっとう、というのは?」


 名を呼ばれ、おいちゃんは、私達を一度だけ見ると一歩前に出た。


「私ですが」


 いつもの、俺ではなく私呼称がおいちゃんの緊張を表していた。


「レイヴィルに剣の修行をつけるそうだな?」

「そういう約束に……」

「そうか、レイヴィル、許す」

「はっ! 有難き」


 一度、レイヴィルとおいちゃんを見ると、食事を続ける。

 その度に、執事とメイドは、忙しく働いていた。

 執事が、料理をテーブルに置く時に、耳打ちをしている。料理の説明をしているみたいにみえた。

 魔王は、静かに執事の声に頷く。

 一口食べると、美味しかったのか、目を見開く。


 私達は、皆黙って、その姿を眺めている。

 動けば殺されると勘が訴えていた。


「アンドゥルはいるか?」

「はっ! これへ」


 アンドゥルが呼ばれ、レイヴィルの横に現れた。

 腕と翼は、治っている。


「不覚をとったか。傷はどうだ?」

「ハナ先生を送っていただき、ありがとうございます」


 魔王に頭を下げると、こちらに振り返った。

 アンドゥルは、おいちゃんにナイフを差し出した。


「我が命を」

「待ってくれ、俺達は争いにきたわけじゃない」


 あれ?

 私達、魔王討伐にきたんじゃ?


 百億!


 そっと……スキルをなぞってみた。


 『レベルが離れすぎて盗めないよ〜!』


 て、出た。


 イナ! ふざけた説明文書くな!


「しかし、魔王討伐と……」


 アンドゥルがそう言った。

 その時に、魔王が手を止めて、フォークとナイフをテーブルの上に置く。

 執事が、フォークとナイフを新しいのに替えている。


「ほう? 余を? 面白い」


 次の瞬間だった。

 まるで、壁に押し付けられた様な圧を感じた。

 魔王は、何もしていない。

 カルラ、ナキリ、レイヴィルは、より一層頭を下げ、アンドゥルも魔王に向き直ると頭を下げた。


 息が詰まった。


 風なんて吹いていない。

 なのに、全身が壁に押し付けられているみたいだった。

 魔王は動いてもいない。

 ただ、ほんの少し魔力が漏れただけだった。

 私の体は震えている。


 逃げたい!


 華菜の震えが袖を通して伝わる。

 直哉は、顔を下げて震えていた。

 リンクは、ただ立っている様に見えたけど、汗がすごく流れている。

 おいちゃんは、指が微かに震えていた。


「アンドゥル殿、私達は、魔族に初めて会った。少しだけ、手合わせしてみたかった。故に、アンドゥル殿を怒らそうと、言ったまでのこと。私達は、争いに来たわけではない」


 アンドゥルは、頭を下げたままでいた。


 ……。


 魔王は、暫くおいちゃんを見て、執事に耳打ちをする。

 執事は「かしこまりました」と言うと、テーブルの上を片付け始めた。

 メイドは、ナプキンで魔王の口を拭う。

 魔王は、おいちゃんをもう一度見た。


「ふふ。そのようにしておこう」


 そして、静かに名を呼ぶ。


「いっとう、と言ったな?」

「はい」

「命を拾ったな」

「ありがとうございます……」


 魔王は、リンク、華菜、直哉に目を移した。

 三人をそれぞれ見る。


「その方たち、名は?」

「ひっ……」


 華菜の口から小さな悲鳴が漏れた。


「か、か、華菜……です」

「リンクです」

「直哉」


 魔王は、暫く三人を見ていた。

 おいちゃんは、この時、剣を床に置く。

 魔王は、一度見ると、小さく頷いた。

 そして、視線を私に移した瞬間だった。


 ガタッ!


 椅子が倒れる音と共に、魔王は立ち上がり目を見開いた。

 その瞬間に、魔王の魔力が嵐の様に襲ってきた。

 おいちゃんは、膝をついて頭を下げ、リンクも、おいちゃんに従う様に同じく膝をついた。

 華菜と直哉は、土下座をする。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 華菜が泣きながら呟く。

 私は、身動きが取れなかった。

 魔王は、私を見つめている。

 目を離す事が出来ない。

 目を離した瞬間にどうなるのか、簡単に想像できた。


 私、何したの?

 魔王に、まだ何もしてないよ?


 魔王は、身動き一つせずに、私をずっと見つめている。


「はぁぁぁあー!」


 魔王が叫んだ。


「ひいいいい!」


 華菜も叫んだ。


 リンクとおいちゃんは、更に頭を下げた。

 直哉は、震えていた。


 私は、オシッコが漏れそうだった。


 私の膀胱がんばれー!

 気を抜くと、社会的に死ぬ!


「名は? 名はああ!!」


 更に魔王は叫ぶ。


「ひっ!」


 あまりの恐怖に変な声が出た、その時、魔王の姿が消えた。


「へっ?」


 私が、声を上げた瞬間に、私の目の前に魔王がいた。

 背の高さは、私とあまり変わらない。

 魔王は、私の顔に顔を近づけた。


 あ、死んだ!

 逃げないと!

 どうしよう。

 どうしよう。


「いい……」


 魔王が呟く。


「い……い……?」

「名は?」

「し、し、し、詩韻しいんうさぎで、で、です」

「私は、イツキ! うさぎ……好き!」

「はい?」

「好き!」

「むぐうううううう……」


 突然、魔王に好きと言われキスされる。


 はい?

 好き?

 私の初めてのキスが魔王だとおお!


 魔王は、私の口から離れると、衝撃的な事を言い出した。


「うさぎ様、私に子をください」

「はっ? むぐううううう」


 またキスをされ、抱きしめられる。

 少女の姿だったが、力強く手をほどけない。


「待って! 女……。私、女!」

「……? 女? 関係ないよ? うさぎ様……子を」

「助けてえええ!! この子怖いんですけどおおお!!」


 

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