十六話 魔族? 魔王登場!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
私は、今叫んでいる。
この魔王城の城下町で!
「あはははは!」
華菜がお腹を押さえて笑った。
笑ってる場合か!
「なあ、うさぎ狩ると、スキルポイント貰えるんじゃ?」
直哉が恐ろしい事を言い出した。
仲間を狩るんじゃない!
「何でそうなるんだ?」
リンクが、心配そうに言った。
リンクしか私の仲間はいないのか!
「これは面妖な」
おいちゃんが呟く。
面妖って何だ?
江戸時代か!
今、私の頭には、長いうさ耳が生えている。
いや、正確には生えてしまった。
そして、お尻には白くて丸い、ポンポンみたいな尻尾。
……。
なんじゃ!!こりゃあああ!!
「何で! こんなことにいいいい!!」
ウィンドウを開いて見る。
私の情報が上書きされていた。
種族:魔族
職業:魔法シーフ
魔族……だと……?
「あのー、皆様、大変な事になってるのですが……。発表してもよろしいでしょうか?」
「はい! うさぎ君どうぞ」
華菜が笑いながら言った。
笑いごとじゃなくなった。
魔族て……。
「ウィンドウでね? 私の情報、魔族ってなってんだけど……?」
「は?」
リンクが、素っ頓狂な声を上げた。
「見せて」
華菜がそう言うと、周りに皆が集まり、ウィンドウを覗きこんだ。
「おお! 浪漫じゃん!」
「おい! 直哉!」
「どうやって人間に戻るんだ?」
おいちゃんがそう聞いたけど、誰も答えることは出来なかった。
「私達の盗む禁止を破った罰でしょ」
皆頷いた。
「お取り込み中、申し訳ございません」
突然、背後より声がした。
振り返ると二人の魔族が立っていた。
緊張が走る。
おいちゃんは、剣にてをかけ、リンクが杖を前にだす。
華菜は、バルーンの発動準備に、直哉は、自動罠設置の発動準備をしていた。
「私は、参謀のカルラ・ビエンテと申します。こちらは、軍団長ナキリ・ルー。これより皆様を陛下の元へご案内いたします。陛下がお会いしたいと申しております」
「カルラ、面倒だ。とりあえず連れていくぞ」
「待ってください!」
華菜が前に出た。
声は震えている。
でも、私の前に立っていた。
「うさぎは……この子、さっきまで人間だったんです。魔族になりたくてなったわけじゃなくて」
カルラは静かに頷いた。
「存じております。魔王様もご覧になっておりました」
見てたの!?
「おそらく、魔族の根幹を取り込んだ影響でしょう。ただし、取り込んだ力は肉体ではなく、精神性に引かれます」
「精神性?」
「はい。つまり、うさぎ様の場合……兎です」
は?
「精神性じゃなく名前じゃん!」
「名は体を表すと言うしな」
おいちゃんが腕を組んで頷いた。
「もういい。行くぞ」
ナキリが言った次の瞬間、景色が歪んだ。
足元が消えた。
「うおっ!?」
「きゃあ!?」
「おお、転移! 浪漫!」
「直哉、黙れ!」
気がつくと、私達は巨大な扉の前に立っていた。
黒い扉だった。
見上げるほど大きく、表面には魔族の文字らしきものがびっしり刻まれている。
その奥から、重たい魔力のようなものが漏れていた。
カルラとナキリが、私達の前に立つ。
「よいか? この先に陛下がいる。粗相のないように」
怖い。
普通に怖い。
絶対この先、骸骨とか転がってる。
黒い炎とか燃えてる。
玉座とかあって、魔王が足を組んで座ってる。
間違いない。
私は、そう思った。
カルラが一歩前に出て、静かに頭を下げる。
「陛下。客人をお連れいたしました」
その声に応えるように、扉の向こうから金具の動く音がした。
ギィ、と重たい音を立てて、扉が開いていく。
開けていたのは、二人の魔族の衛兵だった。
黒い鎧を着ていた。
角も翼もあった。
扉の向こうに広がっていた光景は、私の想像とはまったく違っていた。
「……え?」
思わず、声が漏れた。
そこは、想像するような魔王の間ではなかった。
高い天井からは、大きなシャンデリアが下がっている。
壁には、魔族の歴史なのか、戦争なのか、神話なのか分からない、美しいレリーフがいくつも刻まれていた。
窓には、細かな刺繍の入ったレースのカーテンが揺れている。
床は磨かれた石で、燭台の光をぼんやり映していた。
広い。
とにかく広い。
晩餐会でも開けそうなほど長いテーブルが、部屋の中央に置かれていた。
その上には、白いクロス。
銀の食器。
いくつもの燭台。
湯気の立つ料理。
見たこともない果物。
透明なグラスに注がれた、赤い液体。
何これ。
魔王って、もっとこう、骨とか食べてるんじゃないの?
テーブルの奥に、一人の女が座っていた。
黒いドレス。
銀色の髪。
紅い瞳。
ただ食事をしているだけなのに、その場の空気が全部、その人のものだった。
女の背後には、執事のような男の魔族が立っている。
左右では、メイド服姿の魔族達が、音もなく動いていた。
ナイフを取り替え、フォークを下げ、新しい皿を置き、空いたグラスに飲み物を注ぐ。
静かだった。
誰も大きな声を出していない。
食器の触れる小さな音だけが、やけにはっきり聞こえた。
リンクが息を呑み、華菜が私の袖を掴む。
直哉ですら、黙っている。
おいちゃんも、いつもの軽い雰囲気を消していた。
カルラとナキリが、その場で片膝をつく。
「陛下。客人をお連れいたしました」
女は、ゆっくりとナイフとフォークを置いた。
その仕草だけで、部屋中の魔族が動きを止める。
女が、こちらに顔を向ける。
ハッキリと顔が見えた。
魔王と言われた女は、どう見ても14か15くらいの少女だった。




