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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智


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十四話 魔王直属師団長

「申し遅れました。私は、魔王様直属の師団長を任されております、アンドゥル・ミーンと申します」


 な、何か……すごい礼儀正しいんだけど?

 魔族?


「えと、あの、詩韻しいんうさぎです」

「そういうながれ? 私は、華菜!」

「俺は、リンクです」

「直哉」

「伊藤一刀だ」


 アンドゥルは、私達を見渡す。

 その立ち振る舞いは、やけに落ち着いていた。

 次の瞬間、胸に手を当てると、頭を下げる。

 私達は、自然と身構える。


「御用件を」


 その一言は、静かで柔らかい。

 しかし、威圧するような重みがあった。


「なんて言ったらいいの? リンク?」


 そう言うと、リンクが慌てて答えた。


「は? 俺が言うのか? 誰か」

「私は、ヤダ」

「俺も」


 やれやれという雰囲気で、おいちゃんが頭をかきながら、一歩前に出る。


「アンドゥルとやら、魔王に会わせて欲しいのだが」


 アンドゥルは、顔を上げると柔らかい笑顔を作った。

 とても、爽やかな笑顔だった。

 魔族とは、思えない。


「申し訳ございません」

「そうだろうな」

「素性のわからない方々を、魔王様の御前にお連れするなど……。大変申し訳ないのですが、お引き取りください」


 もう一度頭を下げると、おいちゃんは下がり、私達に小さく言った。


「戦闘になるがいいか?」


 リンク、華菜、直哉の目つきが変わる。

 緊張が走った。

 いつものふざけた雰囲気はない。


「それなりの覚悟はある」


 リンクが囁くと、華菜、直哉が頷いた。


「リンク、疾駆を私達に」

「私は、大丈夫」

「ああ」


 リンクは、華菜、直哉、おいちゃんに疾駆のスキルを使った。


「俺は、罠を」

「大丈夫か?」

「浪漫を信じろ」


 こんな時、私達の連携は早い。

 即決断していく。

 そこに迷いという文字は存在しなかった。


「私が、バルーンを使えば、リンク、あそこの角に、おじ様、攻撃できそうなら」

「おう」

「俺は、あそこで死ぬ。死んだら俺の周りには入るな? 罠にかかる」


 おいちゃんは、直哉の言っている事が理解できないのか、不思議そうな顔をして私達を見た。


「私は、盗めそうな物があれば盗む。おいちゃんいつでもいいよ」


 これだけであった。

 作戦と呼ぶには余りにもお粗末だけど、これだけで十分。

 私達は、誰が何をすべきか、自分がどうすべきか理解している。

 おいちゃんが私達の会話を聞いていた、そして軽く笑った。


「大したものだな。この背中預けたぞ」


 頷きあうと、私は、一歩前に出た。


 格好よくキメてやる……!


「うさぎ……?」

「私に任せて」

「ダメ! あんた、また」

「まぁまぁ」


 アンドゥルは、いまも頭を下げたまま微動だにしない。


 執事だろうか?


 華菜は、心配そうに私の袖を握りしめて、私の顔を見つめている。


 華菜のその顔がとても可愛く見えた。 

 リンク、直哉が笑って私を見ている。

 おいちゃんは、アンドゥルを睨んでいた。


「私達は! 『かなり。』! 魔王を討伐する者だ!」


 ここまでは、一〇〇点中、八十点はある!


「これが、伝説の『かなり。』……。いや、えーと……、一歩と……、いや、私達の伝説だ」


 一点もなかった。


「ダメじゃん」


 華菜が言った、その時、アンドゥルの雰囲気が変わった。

 一瞬で空気が重く、アンドゥルの体から黒い霧の様な物が立ち昇る。


 バサッ!


 真っ黒な翼を広げた。

 体の何倍も大きく、翼からも霧が昇っている。


「魔王……イツキ陛下を討伐だと……」


 アンドゥルの声は、低く震えていた。


「虫ケラが……」


 この時すでに、直哉は動いていた。

 アンドゥルの足元まで滑り込むように移動し、そのまま倒れる。


 死んだ。


 いや、比喩ではない。

 死んだフリのスキル発動中、直哉は本当に死んでいる。

 意味が分からないと思うけど、私達も分からない。


 ただ一つ分かっていることがある。

 直哉の周りに近づくな。


 地面に、淡い魔法陣が浮かんでは消えた。

 自動罠設置。

 直哉の周囲に、ランダムで罠が張られていく。


 華菜の目は、いつもの様に笑ってはいなかった。

 アンドゥルを睨んでいる。

 おいちゃんは、左腰にぶら下げている剣を握り、右足を出して腰を落とす。


 アンドゥルは、直哉が真下に滑り込んできた時、直哉を一度見たが、前を向き両手を胸の前に出した。

 真下で倒れている直哉を警戒しているのか、一度羽ばたくと宙に浮いた。

 次の瞬間に、アンドゥルの前方の空間に大きな魔法陣が五層現れた。


「まずい!」


 タンッ!


 おいちゃんが、地面を蹴る音がした瞬間、剣を引き抜きアンドゥルに向かって切り掛かっていた。

 その時、おいちゃんの目の前の空間が歪んだ。


「バルーン!」


 華菜が即座にバルーンを発動する。

 アンドゥルの頭上から、色とりどりの風船が降り注いだ。

 驚きの表情を見せたが、すぐに視線を戻す。


 リンクと華菜は、打ち合わせ通りに、後ろに下がり、リンクは杖を構えている。

 華菜は、再度バルーンの発動準備をした。


 おいちゃんの目の前の歪みから、新たな魔族が現れ、両手のナイフでおいちゃんの剣を受け止めていた。


「アンドゥル様、ご命令を」

「エマネ、人間を殺せ」

「はっ」


 エマネは刃を弾くようにして横へ飛び退くと、地を蹴りおいちゃんに飛び掛かる。


 おいちゃんを助ける暇はない。

 私がする事は一つ!

 魔法陣を!


「魔法陣を盗め!」


 私は、盗むを発動し、魔法陣を盗む。

 右手に魔法陣が浮かんでいた。


「クソが! 人間ごときが我が魔法をおお!!」


 その時、右腕に衝撃が走った。

 手首から肩までの皮膚と袖が弾け、血が吹き出し、激しい痛みが脳を電光石火に貫く。


「うう……」


 右腕を押さえるが、左手の隙間から容赦なく血が滴り落ちる。


「ヒール!」


 リンクの声が響くと、右腕の傷が消え、嘘のように痛みが消えた。


 おいちゃんは、エマネのナイフを躱わすと同時に、脇腹を蹴り上げた。

 その反動でエマネは、直哉の近くに転がった。


「クソ!」


 その時だった。

 エマネが転がっている地面に幾つもの魔法陣が現れた。


「うおっ!」


 その魔法陣から無数の縄がエマネを縛っていく。

 頭から足まで、縄でぐるぐる巻きにされ、身動きも取れなくなった。

 おいちゃんは、リンクに「疾駆」とだけ叫ぶ。

 その瞬間に、リンクは即座に、疾駆を掛け直した。


「人間共め……」


 アンドゥルは、発動までに時間の掛かる魔法を破棄すると、無詠唱魔法に切り替えた。


 アンドゥルの手から、無数の炎の玉と岩塊が放たれた。


「バルーン! 直哉ああ!」


 そう華菜が叫んだ時、また風船がアンドゥルの視界を埋め尽くし、死んだフリの効果が切れていた直哉は、リンクと華菜の場所に移動した。


 アンドゥルは、お構いなしにあたり周辺に魔法を放ちまくっているが、誰にも当たることはない。


 リンク達は、木陰に隠れて様子を伺う。

 この時、おいちゃんは華菜の風船に気配を隠し、静かに背後に回りこんでいた。


「虫ケラ共に、我が全力などとおお!!」


 アンドゥルがそう叫ぶと、体の黒い霧が両手に集まり、上空に立ち昇った。

 次の瞬間、アンドゥルの真上を黒い粒の様なものが一面を覆う。


 さっきの魔法を盗んだ時の制約で、腕が裂けた痛みが脳内を駆け巡り、一瞬だけ躊躇った。

 しかし、あれはここの全てを破壊する予感がした。

 迷う暇はなかった。


「リンク!! ヒール任せた!!」


 私が叫んだ時に、アンドゥルが叫びリンクが杖を構えていた。


「死ねええ!」


 両手を、私達の方に振り下ろす。

 黒い粒が、一瞬揺れ、雨の様に降り注ぐ。


 体、持って!


 右手を空に向かって上げ、盗むのスキルを左手でなぞった。


「黒い物全て盗め!」


 その言葉と同時に、おいちゃんが地面を蹴り、アンドゥルに向かって飛んでいく、その姿が目に入った時だった。


 両目から涙が落ちた。


 涙?

 手で拭うと血だった……。

 そして、鼻血が垂れる。


「ゴボッ!」


 大量の血を吐き、体中に黒い矢の様な物が刺さり、上着が弾け、体中から血が流れる。

 痛みが全身を埋め尽くした。

 立っていられない。

 私は、その場に蹲った。


 痛い。

 痛い。

 痛い。痛い。

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。


「ヒール!」


 リンクの声が響く。

 一瞬で傷が治り痛みも無くなったが、更に黒い矢に体が貫かれる。


 リンクは、ヒールを私にかけ続け、華菜と直哉は私に駆け寄ると、どうしていいのか慌てていた。


 この時、アンドゥルはおいちゃんの足元に倒れていた。

 アンドゥルの背後から飛んだおいちゃんは、アンドゥルの背後に追いついた瞬間に、翼と右手を切り落としていた。


「くそ! くそ! ……殺せ」


 アンドゥルは、おいちゃんを見上げ言った。


「すまんな、制約上、殺す事はできない」

「貴様達人間は、我が名誉まで踏み躙るか」


 その時、直哉の罠が解除されたエマネが叫び、走り寄った。

 おいちゃんは身構えるが、エマネはアンドゥルを抱きしめる。


「アンドゥル様ああ! 貴様達!! よくも! よくもおお!!」

「エマネよせ……」

「アンドゥル! 不様だなあ! あははは!」


 そう声が響いた時、アンドゥルの真横の空間が歪んでいた。


 そんな展開が起きていたけど、私は、それどころじゃなかった。


「どうしよう、どうしよう、うさぎが死んじゃう」


 華菜が泣いてる……。


 矢が刺さる、痛み、血が流れ、元に戻る。

 その繰り返し……。

 リンクは、一心不乱に、ヒールを掛け続けてくれている。


「華菜大丈夫だ、うさぎが死ぬわけないだろ」


 直哉は、華菜を抱きしめて、言い聞かせている。

 自分に言い聞かせるように……。


 目、鼻、口、そして、体中の細胞全てから血が吹き出している感覚が襲い、寒気を感じた。

 

 そして、意識が少しづつ遠のいていった……。

 

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