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バグ職シーフは紙すら切れない。  作者: 藤原 智


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十話 剣術御前試合

 最高の日々!


 食べる!

 風呂!

 寝る!


 だった……。


 しかし一週間後、やる事なくて皆飽き始める。


 私達は、リンク達の部屋で暇を持て余し、リンクと直哉は寝転がり華菜は私の膝を枕にしている。


 おいちゃんは、いつもどこかに出かけていた。


「これからどうする?」


 リンクが、やる気なしに聞く。


 瓦礫処理に行くべきなんだろうけど……。

 いまだに、四億ペニーの稼ぎ方が思いつかない。

 ウィンドウ内のクラン情報では、資金が一万程あるが、文字がグレーになっている。

 資金が拘束されている証だった。


 デバイスを操作する事ができれば、スロットというギャンブルも出来る。

 それで一攫千金とも思ったけど、資金が拘束されてる今、八方塞がりだ。


「もうさ、忘れない?」


 三人とも私を見た。


 しかし、真下から顔を覗き込んでいる華菜にヨダレを垂らすと、どんな反応するのかな?なんて事が頭をよぎったのは、秘密。


「何を?」

「だから、四億ペニー。無理だし、ほっとかない?」

「浪漫あるな」

「あははは!」


 華菜が笑うと、皆頷いた。


 そうだ!

 私達に四億なんてない!

 そう思い込もう。


「そう思うとらくになった」

「だな」

「だったら、遊びに行こうよ」

「浪漫ある提案だけど、金ねえだろ?」


 にひひひ……。


 よほど悪そうな笑顔だったのか、華菜が言った。


「なあに? うさぎとても悪そうな……悪人の笑顔じゃん」


 む?

 こんな可愛い少女に悪人だと?


「いたあーい、もう、ほっぺつねらないで」

「悪人と言った罰。私達には、おいちゃんがいるじゃない」

「おい、伊藤さんに悪いだろ?」

「だな。浪漫じゃねえな」

「おじ様に謝りなよ」

「ん? おいちゃんじゃないよ? 私達の財布だ」

「ひっどー!」

「だよな? 剣豪だぞ?」

「何か、うさぎって、金絡むと人格変わるな」

「え? そんな事ないよ? 私は、お金に正直なだけ」

「そのうち、詐欺か何かで捕まりそう」

「つか、捕まえて、警備につきださねえ?」

「うわ! 直哉ひっどーい!」

「懸賞金貰えたりして」

「リンクもひどくない? 華菜、怒ってやって」

「リンクと直哉に賛成!」

「ええ! この!」

「いたあーい!! もうつねらないでよ!」

「ん? もっと?」

「あははは」


 リンクと直哉が笑い、華菜がほっぺを押さえているところに、部屋の襖が開いた。


「何だ? 暇そうだな。若い者がそんな事でどうする」

「おいちゃん。お金ちょうだい」

「おいうさぎ!」

「あ、ごめんなさい。つい本音が」

「あははは。うさぎちゃんは面白いな。だがダメだ。若い者は、自分でどうにかするもんだ」

「自分でどうにかしたら、四億ペニーの借金なんだけど」

「あははは。そうだったな。後でいくらか用意しよう」

「伊藤さん、有難いけど気持ちだけで」

「おい……リンク……。ふざけた事言うな……」

「う、うさぎ? 目がすわって」


 華菜が目を見開き私を見上げている。


 気持ちだと?

 気持ちてなんだ?

 気持ちで、何が買えるんだ!


「一刀さん、すいません。うさぎ、ちょっとおかしくて」

「おい、直哉だまれ」

「うさぎが壊れた」

「大丈夫だ、皆にも用意しよう」

「やったあああ!」


 私の叫び声だけが部屋に響いた。

 皆、素直になれよ。


「明日から、いないしな」

「おいちゃん、どこへ?」

「一週間後の剣術御前試合と大演習の準備だ」

「もう、そんな時期か」

「直哉、知っているのか?」

「ここの生まれだからな。毎年恒例だよ」

「大演習は、陛下も御覧になる大きな演習でな、その時は演習場の周りに店など建てられて、街の皆や城の皆も見に来る」

「ん? 城の皆も?」


 私の天才的頭脳が回転し始めた。


 皆?


「ああ、ほとんどの者が演習に参加するからな。不用心だと思うがな。忍びこまれて、金品盗まれたらどうするのかと」

「それだ! 閃いた!」

「うさぎ……。とーっても悪そうな笑顔だよ? またよからぬ事を」

「え? そう? ねね、皆、その演習の日にお城に四億ペニー貰いにいこうよ」

「は? 何言ってんだよ」

「いや、浪漫かもしれない」

「直哉も、乗らないの」

「華菜、リンク、それしかない!」

「完璧に犯罪だろ」

「バレなければいい」

「バレたら、完璧に死刑じゃないの?」

「まあ、バレる事はないだろうな」

「伊藤さん」

「おじ様、煽らないで」

「やろうよ! 私シーフよ? 盗賊よ? オレヌスム! カネカエス」

「何でカタコトになんのよ」

「盗賊っぽさを出した」

「盗賊っぽさを出すな」


 リンクが頭を抱えた。


「うさぎさん。落ち着こう? ね? お城からお金を盗むのは、普通に犯罪だよ?」

「華菜」

「何?」

「私達は今、四億ペニーの損害賠償を背負った身だよ?」

「うん」

「つまり、もう普通じゃない」

「そういう方向に開き直らないで!」

「それに、盗んだ四億は王国に払うんだし、つまり、お城から出た四億が、お城に戻るだけ。誰も困らない」

「屁理屈がすごい」

「天才と言って」

「嫌だよ!」


 私は胸を張った。

 誰も損をしない。

 私達の借金は消える。

 王国のお金は王国に戻る。

 完璧だ。


「うさぎ、お前、たまに本気で怖いこと言うよな」

「リンク、褒めても何も出ないよ」

「褒めてねえよ」


 おいちゃんは、そんな私達を見て、楽しそうに笑っていた。


「まあ、演習の日はまだ先だ。今から考えても仕方ねえ」

「仕方あるよ。計画は大事」

「その計画が犯罪なんだよ」

「俺は明日から準備でしばらく外す。嬢ちゃん達も、あまり馬鹿なことはするなよ」


 そう言って、おいちゃんは襖に手をかけた。

 そして、出ていく直前に、こちらを振り返る。


「ただまあ……」

「ん?」

「王城には、四億くらいあるだろうな」


 その一言を残して、おいちゃんは部屋を出ていった。

 私は、静かに拳を握った。


「皆」

「嫌だ」

「まだ何も言ってない」

「顔が言ってる」

 

 ◇


 一週間後。

 王城前広場は、人で埋め尽くされていた。

 屋台が並び、肉の焼ける匂いが漂い、子供達が木剣を持って走り回っている。

 あちこちから歓声が上がり、酒を飲んだおっさん達が肩を組んで歌っていた。

 祭りだった。

 完全に祭りだった。


「うわあ、すごい人」 


 華菜が目を輝かせた。


「毎年こんな感じだよ」


 直哉が言った。


「剣術御前試合は、王都の名物みたいなもんだからな。優勝者は陛下から直接褒美を貰える」

「褒美?」


 私は、その言葉に反応した。


「褒美って、お金?」

「さあな。武具とか名誉とかじゃねえか?」

「名誉……」


 私は興味を失った。

 名誉は食べられない。

 名誉は風呂に入れてくれない。


「帰ろう」

「早いな」

「うさぎ、せめて見ようよ。おじ様出るんでしょ?」

「おいちゃんが優勝して、お金が出るなら見る」

「最低だな」


 広場の中央には、大きな試合場が作られていた。

 その奥には、一段高い席があり、豪華な椅子に王様が座っている。


 あれが王様?


 もっとこう……。

 冠を被って、赤いマントを羽織って、偉そうにふんぞり返っている感じを想像していた。

 

 オールバックに、黒いスーツ。

 脚を組んで、肘掛けに片肘を乗せている。


 王様のイメージ、崩れるわ……。


 あれ絶対、葉巻吸う人間だわ。

 というか、王様というよりヤクザの偉い人に見える。


 目が怖い。

 笑ってない。

 遠くから見てるだけなのに、何か怒られそう。

 私は、そっと華菜の後ろに隠れた。


「うさぎ? 何で隠れるの?」

「何となく」

「何となく?」

「目が合ったら、人生終わりそう」


 周囲には貴族らしき人達や、偉そうな兵士達がずらりと並んでいた。

  

 周りを見渡すと、シスターがいた。

 こっちに気がついたのか、真っ直ぐに向かってきた。


「おどれらああ!」

「ひっ」

「シスターさん……」

「瓦礫処理になんで来ないんじゃ! ボケええ!!」

「あの、その……」


 リンクが大量に汗をかき始めた。

 シスター、こんなに可愛いのに、なんでそんなに口が悪いんだろうか……。


 散々私達を説教した後、シスターは満足したのか、教会関係者の元へ戻っていった。


 後ろ姿だけは、聖女だった。

 口を開かなければ。

 悪い人ではないんだけど……。

 本当に怖い。


 その時、広場が大きく沸いた。

 試合場に、おいちゃんが現れた。

 いつものだらしない感じではなかった。

 腰に刀を差し、背筋を伸ばし静かに歩いている。

 顔つきも違う。

 いつもの遊び人みたいな笑みは消え、目だけが鋭かった。


「おお……」


 思わず声が漏れた。


「おいちゃん、普通にかっこいい」


 相手は、全身を鎧で包んだ大柄な騎士だった。

 両手剣を構え、見るからに強そうだ。

 

「始め!」


 審判の声が響いた次の瞬間。

 騎士の剣が、空を飛んでいた。


「え?」


 気づいた時には、騎士は膝をつき、おいちゃんの刀が首元で止まっていた。

 広場が、一瞬だけ静まり返る。


 うおおおおおおおおおおお!!


「勝者、伊藤一刀!」


 え?

 終わり?

 今、始まったばかりだよね?


「おいちゃん、強すぎない?」

「強いっていうか、何したのか分からなかったな」


 リンクが真顔で言った。


「浪漫あるな」


 おいちゃんは、刀を収めると、何事もなかったように頭を下げた。


 その後も、試合は続いた。

 けれど結果は全部同じだった。


 相手が構える。

 始めの声が響く。

 剣が飛ぶ。

 相手が転ぶ。

 おいちゃんが勝つ。


 もはや剣術大会ではない。

 おいちゃん鑑賞会である。

 そして最後の試合も、あっさり終わった。


 優勝。

 伊藤一刀。


 広場中が、おいちゃんの名を叫んでいた。

 おいちゃんは試合場の中央で片膝をつき、王様の方へ頭を下げる。

 王様は、少し呆れたように笑った。


「また一刀殿か」


 王様の声が、広場に響く。


「貴殿を負かす者がいつか現れることを期待しているが、まだまだ先のようだな」


 王様は立ち上がった。


「天下一の無双者よ。見事であった」


 再び歓声が上がる。

 おいちゃんは、静かに頭を下げた。

 かっこいい。

 普通にかっこいい。

 

「褒美は?」 


 私は呟いた。


「お前、本当にぶれないな」


 リンクが言った。

 王様の側近らしき人が、おいちゃんに立派な箱を渡した。

 中から出てきたのは、美しい刀だった。


 刀。


 金ではない。


「売れる?」

「売るな」

「まだ何も言ってない」

「言っただろ」


 おいちゃんは刀を受け取り、もう一度深く頭を下げた。

 その時、王様が言った。


「一刀殿。明日の大演習にも、ぜひ参加してもらいたい」


 おいちゃんは顔を上げた。


「私でよろしければ」

「うむ。貴殿の剣は、兵達の励みにもなる」


 明日の大演習。

 王も兵も城の者も行く。

 

 つまり。

 王城は、手薄になる。

 

「うさぎ」

「何?」

「今、また悪い顔してる」


 華菜が言った。


「してないよ」

「してる」

「してない」

「じゃあ、何考えてたの?」


 私は、お城を見上げた。

 立派な城だ。


「四億ペニーって、重いのかなって」

「やっぱり悪いこと考えてるじゃん!」


 私は笑った。


 にひひひ。

 

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