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追放令嬢アイリスの銀行経営 ~神を監査(リストラ)して世界を逆買収するまで~  作者: 雫石アイナ


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20/30

第20回 聖国の関税嫌がらせ――信仰を理由にした禁輸措置、密輸ルートで粉砕しますわ

 鳴り響く聖鐘の余韻が、王都の空気を重く湿らせていました。

「……アイリス・フォン・アルトハイム。貴様を神敵と断じ、その銀行に触れる者すべてを破門、および死罪に処す。これは神の御名による最終通告である!」

 王宮の対面にある聖教会のバルコニーから、ウルス審問官の声が響き渡ります。


 執務室の窓を閉め、私は優雅に背伸びをしました。

「……死罪、ですか。随分と『コストのかかる』脅し文句を。ねえ、セドリック様。今のを聞いて、どう思われまして?」

「ひっ……!? あ、アイリス、もうおしまいだ! 聖国が本気になった! 国境は封鎖され、食料も魔法具も入ってこなくなる! 私を、私を殺さないでくれ……!」

 床に這いつくばり、雑巾を握りしめたまま震える元王子。

 私は彼を無視し、傍らに立つ監査官フェリシアへ視線を送りました。彼女は片眼鏡を指で直しながら、冷徹に手元の魔導計算機を弾いています。


「……アイリス総帥。聖国は王国の主要な食料供給源であり、薬品(聖水)の独占輸出元です。彼らが関税を一〇〇〇%に引き上げ、さらに全面的な禁輸を宣言したことで、我が帝国の予測モデルでは、王国の飢餓率は三日以内に七〇%に達しますわ。……あなたの『朝凪紙幣』は、パンがなければただの燃える紙屑ですわよ」

「フェリシアさん。あなたは優秀な会計士ですが、一つだけ計算に入れ忘れている変数がありますわ」

「……変数?」

「『欲望グリード』という名の、最も確実なエネルギーですわ」


 私は、セレーネに目配せをしました。

「セレーネ。……国境の『仕入れ』状況は?」

「……順調です。……聖国の国境警備騎士団長、および徴税官三名。昨夜のうちに、彼らの『個人口座』に石炭引換券を金貨一万枚分、送金済みです」

 フェリシアの表情が、初めて硬直しました。


「……買収? そんな、聖騎士が信仰を捨てるはずが……」

「捨てさせてなどいませんわ。私はただ、彼らに『冬の暖かさ』という名の福利厚生を提案しただけ。……信仰心で家は暖まりませんもの。セレーネ、運び込ませなさい」


 その直後。

 王都の北門が、轟音と共に開かれました。

 現れたのは、聖国の国章を刻んだ巨大な馬車隊。しかし、その手綱を引いているのは、聖国の騎士たちそのものでした。

「……なっ!? 聖騎士が自ら荷を引いているというの!?」

 バルコニーに駆け出したフェリシアが絶叫します。


 馬車に積まれていたのは、禁輸対象であるはずの小麦、干し肉、そして聖国の独占特産品である治癒薬。

 それらは「没収された異端の物品」という名目で王都に運び込まれ、そのまま『朝凪商会』の倉庫へと直行していきました。


「審問官が『死罪』を叫ぶほど、民衆は恐怖します。恐怖すれば、彼らはより多くの備蓄を求め、裏市場ブラックマーケットの価格は跳ね上がる。……跳ね上がれば、聖国の役人たちの『マージン』も増える。……ウルスが信仰を説けば説くほど、私の密輸ルートの利益(利回り)が上がる仕組みですわ」


 私は執務デスクに戻り、一通の署名済みの契約書を取り出しました。

「……フェリシアさん。あなたが先ほど言った『三日以内の飢餓』。それを回避するために、聖国の司祭たちが裏で私に泣きついてきた『食糧支援要請書』ですわ。……もちろん、代金は彼らの教会の『地下墓地の敷地権』を抵当に入れていただきましたけれど」


「……あなたは……、聖国の権威そのものを、内部から腐らせて買い叩いているのね」

「腐っているのではなく、私が『適正価格』に書き換えているだけですわ。……さて、セドリック様。手が止まっていますわよ。一時間で一クローナ。……今、あなたが磨いているその廊下を通って、聖国の最高級小麦が運び込まれている。……その匂いを嗅ぐだけでも、一〇クローナは頂きたいところですわね」


「あ、アイリス……お前は……お前は悪魔だ……」

 セドリックが絶望に瞳を濁らせますが、私には最高の賛辞にしか聞こえません。


 その時。

 セレーネが、無表情の中にわずかな困惑を滲ませて、一通の密書を差し出しました。

「……アイリス様。……不測の事態です。……国境の密輸馬車の中に、一つだけ『予定外の貨物』が紛れ込んでいました」

「あら、追加のボーナスかしら?」

「……いいえ。……中身は、聖国の聖女。……マリア・フォン・クリスティア様本人です」


 室内の温度が、一気に下がりました。

 窓の外では、ウルス審問官がなおも「マリア聖女の威光に従え」と民衆を扇動する声が響いています。

 しかし、その本尊(聖女)は今、私の倉庫の隅で震えているという。


「……ふふ。……面白いですわね。……聖国は、自らの『最大資産』を、私の元へ投げ売り(デッド・コピー)してきたというわけかしら」


 私は、錆びた一クローナを弄びながら、冷酷な笑みを深めました。

「……セレーネ。彼女を迎え入れなさい。……ただし、客人としてではなく——『当商会の、給与未払いによる差し押さえ物件』としてね」


 信仰と金。

 その境界線が、今、完全に崩壊しようとしていました。

第20回、最後までお読みいただき光栄ですわ。


聖国の禁輸措置を「裏の買収」で逆手に取り、高騰する裏市場で暴利を貪るアイリス様。

まさに「ピンチは投資のチャンス」を地で行く姿、いかがでしたか?

そして、まさかの「聖女マリア」の密入国。


彼女はなぜ、自分を担ぎ上げていた聖国を捨て、天敵であるアイリス様の元へ現れたのか。

彼女は「優良資産」か、それともアイリス様を破滅させる「不良債権」か……。


次回、「マリアの再雇用――絶望した聖女に、利益という名の新しい光を」。

アイリス様による、聖女の「強制再就職リストラ」が行われます。


「聖女様の価値を査定する前に、あなたの『評価』と『ブクマ』で、私の商会の信頼残高を増やしてくださいませ。投資、お待ちしておりますわ」

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