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追放令嬢アイリスの銀行経営 ~神を監査(リストラ)して世界を逆買収するまで~  作者: 雫石アイナ


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第16回 事後処理(ポスト・マージン)――王族の時給は一クローナで十分ですわ

朝日が、雨上がりの王宮を白々と照らし出しています。

 昨夜、帝国の軍勢を退けたこの広場には、もはや戦火の匂いはありません。漂っているのは、泥の臭いと、そして——「破産」の冷たい静寂だけですわ。


「アイリス様。王宮内の資産目録、及び人員の再配置案がまとまりました。……それから、あちらの方が。一時間前から、面会を求めて外で震えております」


 セレーネが、広間に置かれた豪華な——そして今は私の所有物である——執務机の傍らで報告しました。

 私が窓の外へ視線を向けると、そこにはボロボロの正装を纏ったセドリック様の姿がありました。かつてこの国の太陽だと謳われた王子は、今や差し押さえ物件に居座る「不法占拠者」のような顔をしています。


「通しなさい。……ただし、今の彼は『王子』ではなく、我が商会の『負債』として扱いなさいな」


 扉が開かれ、セドリック様がよろよろと足を踏み入れてきました。

 彼は私の前に来ると、プライドの欠片を拾い集めるように声を絞り出しました。


「……アイリス。感謝する。貴様が帝国を退けたおかげで、王国は救われた。……この功績に免じて、以前の無礼を許してやろう。さあ、早くこの窮状をどうにかしろ。私は腹が減っているんだ」


 私は、ペンを置くことすらなく、冷たく彼を査定しました。

 ……相変わらず、自分の置かれた『時価』が理解できていないようですわね。


「セドリック様。……何か勘違いをなさっていませんこと? 王国を救ったのは私ではなく、私の『資本』です。……そして、その資本の対価として、この王宮も、あなたが着ているその服も、すでに私の管理下にありますの。……『許す』? 不渡りを出した債務者が、債権者に対して使う言葉ではありませんわ」


「な……貴様、まだそんなことを! 私は王だぞ!」


「いいえ。……現在のあなたは、朝凪商会に対する莫大な債務を抱えた『返済要員』ですわ。……セレーネ、彼に本日の契約条件を提示して」


 セレーネが、一枚の簡素な書面をセドリック様の鼻先に突きつけました。

 そこには、朝凪商会の社印と共に、驚くべき数字が並んでいます。


「……雇用契約書……? 職種:王宮内清掃、及び雑用。……時給、一クローナ……!?」


 セドリック様の絶叫が、高い天井に虚しく響きました。


「ふざけるな! 一クローナだと!? 街の物乞いだって、もう少しマシな施しを受けるぞ!」


「施しではありません、労働の対価ですわ。……あなたの現在の市場価値を冷静に分析した結果です。……特殊技能なし、経営能力ゼロ、政治的信用はデフォルト(債務不履行)。……むしろ、これまでの教育コストを考えれば、マイナス査定にしなかった私の慈悲に感謝していただきたいくらいですわ」


 私は立ち上がり、窓際の棚から一足の古い、泥に汚れた「靴」を取り出しました。

 私が一話で脱ぎ捨てていった、あの瞬間の屈辱。


「……セドリック様。……あなたは『愛』のために私を捨てた。……ならば、その高潔な愛で、この王宮を磨き上げてはいかがかしら? ……一時間の労働につき、一クローナ。……本日、あなたが朝食に口にしたパンの代金は十クローナですから、十時間は働いていただかないと『赤字』ですわよ」


「っ……!!」


 セドリック様が、屈辱に震えながら地面に膝をつきました。

 かつての婚約者を、最低賃金でこき使う。……それは、暴力よりも残酷で、何よりも確実な「教育」ですわ。


「……それから。……マリア様はどこかしら。……彼女も、聖国の『負債』を背負った共犯者として、適正な部署へ配置して差し上げなくては」


「……マリアなら……。……聖国の連中に見捨てられ、今は地下の礼拝堂で泣いている……」


「泣いている時間があるなら、利益を出しなさいな。……セレーネ、彼女を『福祉・広告部門』に回しなさい。……聖女というブランド価値が残っているうちに、国民への謝罪行脚プロモーションをさせましょう」


 王族の解体。

 それが、私の王国再建計画の第一歩です。


 その時。

 窓の外の王都、その街並みを照らしていた魔導街灯が、パチパチと不気味な音を立てて点滅し、一斉に消えました。

 朝の光があるとはいえ、不自然な消失。


「……アイリス様。……市内の魔力供給ライン、第三層まで沈黙。……予備の魔石も、エネルギーを完全に失いました。……『マナ・デフォルト』の加速が止まりません」


 セレーネの冷徹な報告。

 ……来ましたわね。

 王宮内のドタバタなど、この巨大な「世界の不渡り」に比べれば誤差に過ぎません。


「……グリスを呼びなさい。……王都中の灯りが消えた今、人々が求めるのは『魔法の奇跡』ではありませんわ。……私が備蓄していた、あの『黒い石(石炭)』の出番です」


 魔法が消え、既存の価値観が崩壊する暗闇の中で、私の資本だけが唯一の光となる。


「……さあ、セドリック様。……バケツと雑巾を持って、早く持ち場へ。……一秒でも立ち止まれば、その分だけあなたの借金に利息が乗りますわよ?」


 私は、冷たく言い放ち、次なる市場戦略の地図を広げました。

 魔法の終焉。

 それは、私の「朝凪帝国」が、世界のOSを書き換えるための最高の投資機会チャンスなのです。

第16回、最後までお読みいただきありがとうございます。


第2部『大陸経済共同体編』、ついに開幕ですわ!

かつての王子セドリックを「時給一クローナ」で雇い入れるアイリス様。

彼女の「復讐」は終わったわけではなく、より高度な「人材管理」へと昇華したようです。


そして、街を襲う不気味な停電。

魔法という名の「リボ払い」が終わりを告げ、世界が真の闇(不況)へと向かう中、アイリス様が用意していた次なる「エネルギー革命」とは?


次回、「魔力枯渇のカウントダウン――灯りが消えたなら、私の石炭を買いなさい」。

アイリス様による、世界のインフラ・ジャックが始まります。


「第2部も、私の株価を右肩上がりに押し上げてくださいますか? 評価とブクマという名の『投資』、引き続きお待ちしておりますわ」

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