香りの暴力
シロ君事、白陽は只今混乱の極みにいた。
部屋に入ってきたのは、若い女性であろうことは、解る。
声がそうであったし、匂いもここいらにいる男らのそれとは違う。それらから、女であろうことは解るが。
─────それ以外、さっぱり見えなかったのである。
頭につばの広い被り物をし、その縁から長い布のようなものが膝辺りまで垂れ、それがぐるりとその人物をすっぽり覆っていたからである。
莉緒がいれば、室内で帽子かぶるのが、ここの流儀なの?と突っ込むだろうが、いかんせん白陽には、人間の流儀など知る由もない。
「アル隊長。待ってるように言われたけど、我慢できなくて‥‥‥‥あら、真っ白なワンちゃん。かわいい」
覆っている布から手だけが、突然にゅうんと出てくれば、さすがの白陽も後ろに引く。
「あ、姫様。触っちゃだめです」
アルヴァスが、白陽を触ろうとする人物を慌てて止める。
「コイツ、今はこんななりをしてますが、本体はフェンリルです」
「フェンリルってあのフェンリル?」
─────どのフェンリルだよ。白陽はぷしっ、と鼻を鳴らした。
「アル隊長が、大きいワンちゃん飼い始めたかと思ったのに‥‥‥‥残念だわ。でもなんでここにいるの?」
「─────あ、シロ君はおやつを食べに来たんですよ」
少年が干し肉が入った皿を取り出してみせた。
「わふっわふっ」
少年が取り出したものを見て、白陽の尻尾が盛大に振れた。
「犬じゃねぇか‥‥‥‥」
「うぉんっ!!」
「ラング、フェンリルは賢いんですから、からかっては駄目ですよ」
「そうだぞ、こっちの言っていることが、分かってるらしいからな。姫様、色々報告もありますので、こちらにお座りください」
白陽は、移動する人物を目で追っていた。動くたびにヒラヒラする布が気になって仕方がないが、とりあえずもらった干し肉とやらの方が興味が勝った。─────何これ旨い。
その頃莉緒は、周りの人間に遠巻きにされながら、厨房で戦っていた。
「大丈夫だって言ってんじゃん~」
目の前の大鍋には大量の油。
温度はこんなもんかな~よしよし。さて、いこうか。
食材を熱せられた大量の油に投下する、途端にジュワと音が鳴る。
「フンフンフン~」
ご機嫌な私と、不審な目を向けるマールさんと厨房の人達。そんなに警戒しなくったっていいのに~。
今私が作っているのは、ズバリ─────フライドポテトである。
そうなんです、この世界にジャガイモが存在しましたよっ!。
マールさんと食糧庫に入った時に、隅っこに積まれてたのは、まさしくジャガイモ。
感激している自分の後ろで、マールさんが「それは廃棄処分するもの」というから、なぜだ─────と詰めよれば、自分達は普段これを扱っておらず、こちらに来て初めて見た物だという。試しに食べたら、腹を壊して大変だった。だから廃棄処分するんだ。と答えが返ってきた。
─────それって、芽を取ってなかったんじゃない?と聞けば首を傾げられた。
ひそかに『鑑定』すれば、やっぱりジャガイモである。ただ、表記が『ジャ・ガ・イモン』と微妙な名前だったけど、『じゃがいもっす(ひそっ)』と追記された。
となれば、途端に食べたくなる一番手がフライドポテトだったが、いくら大丈夫だといっても聞いてもらえない、ならば自分で作るという事になったのである。
借りた調理場で仕込みにかかると、皆の不審の目が刺さる刺さる。
だがそれも、次第に漂いだした香りに戸惑い出した。
「‥‥‥‥なんか、旨そうな匂い‥‥‥‥」
「‥‥‥‥俺、また腹下してもいいかも‥‥‥‥」
「‥‥‥‥美味しそう」
遠巻きにしていた輪が、じりっと狭まってくる。
そうだろう、そうだろう。美味しそうな匂いには逆らえないもんね~
周りの警戒が、匂いと共に薄れだした頃。
─────フライドポテトの匂いがしますわっ!フライドポテトっ!どこですの!?
フライドポテトはどこ!?─────
‥‥‥‥めっちゃ叫んでる女の子がいる。
周囲の人達も、お互い顔を見合わす様子から、幻聴ではないらしい。
「‥‥‥‥姫様の声か?」
「まさか、姫様があんな叫ぶかよ」
「‥‥‥‥だよな」
─────ふ~ん、姫様ね。
どうやら姫様とやらは、‥‥‥‥『お仲間』らしい。




