弟は下僕
「隊長~、お茶どうぞ~」
少年が目の前の机に、お茶を置いてくれた。
それを手に取り、アルヴァスはしみじみと思っていたことを口にした。
「今回ばかりは、お前がいてくれて助かったよ」
「本当ですね」
「いえいえ、それほどでも~」
少年が茶菓子を出すと、真っ先にラングが手を出す。
「俺等じゃ、ああうまくいかなかったかもな」
「貴方は、速攻で椅子にされてましたからね」
─────俺、さっぱり覚えてねぇ。不機嫌に顔をしかめながら、ラングはバリバリ茶菓子を食べた。
「まあ~、あの人。うちの姉達に比べれば、よっぽどマシですよ」
その台詞に、三人は動きがピタリと止まる。
「‥‥‥‥お前の姉ってあれだろ、『三種の宝石』に例えられてる美人三姉妹だろ?」
「社交界の中でも、淑女の鏡に例えられてる‥‥‥‥」
「たいそうな渾名ですよねぇ~淑女の鏡?ないないですよ。外に出ると猫三十匹ぐらい被ってますからね」
────末弟は下僕扱いです。
「‥‥‥‥え、俺ちょっとショックなんだけど」
「何言ってるんですか。屋敷にいると、やれお菓子が足りないだの、茶がマズイから入れ直せだの、部屋が汚れたから片付けろとか、髪型が気に入らないから直せとか。挙句の果てには、街で限定販売の菓子を買いに走らされるのも全部僕です」
「─────それって普通使用人とかが‥‥‥‥」
「使用人には、いい主人顔してますからね」
─────その代わり、弟がパシリにされてます。
「‥‥‥‥お前、だから騎士団に雑用でもいいから、入団させてくれって強引に来たのか?」
「そうですっ!姉達から解放されるには、騎士団しかないって。まあ、最初の頃は姉達が、屋敷に連れ戻す機会を狙って、ウロウロしてるのが怖かったんですけど」
─────確かにいたな。入団したばかりの弟が心配なんです。とか言いながら結構な頻度で騎士棟に出入りしてた‥‥‥‥。あれって弟を連れ戻そうと画策してたのか?だとしたら、怖い。
「─────だから僕、今とっても幸せなんですっ!」
最年少で騎士団の見習いに入り、最初は誰もが戸惑う雑用をそつなくこなし、大人たちの間をも、その笑顔と言動で上手く立ち回る。天性のものかと思っていたが、まさかの実家仕込み。
「伯爵家の末っ子なのに‥‥‥‥」
「‥‥‥‥おまえ、苦労したんだな」
「弟なんて、大抵そんな扱いですよ」
─────そうなんだろうか?う~んと首を捻っていると、扉がノックされる。
少年が確認に行くと、扉の外から女性の声が聞こえてくる。
「姫様がいらっしゃいました」
扉が大きく開くと同時に、三人は立ち上がった。
慣れない解体作業も、マールさんの指導という名の檄で、格段に腕が上がった。
「まだまだだけど、これぐらいならいいだろう」
─────おうふ、まだまだでした。
一匹解体するのに、すごく時間がかかったし、なんだか工程も色々あって、すごく手間がかかった。グロいのは平気なのかって?そんなのは森にいるうちにどっか行ったさ。ただあの頃は、こんなデカい獲物はいなかったし、結構適当にしていたからな~。
ちゃんとした解体作業となると、こんなに大変なのかと実感するが。
‥‥‥‥どうしよう、まだこれよりデカいのがあるんだけど‥‥‥‥。
「さあ、厨房へ運ぶよ。そういえば、連れの犬はやっぱり生肉がいいのかい?」
「あ、あの子は特殊なんで、人間用の味付けでも大丈夫です」
一度フェンリル母さんに聞いたことがあるのだが、フェンリルにはNGの食材など存在しないらしい。
フェンリル母さんは、人間の味付けも嗜好品のようで美味しかったと言っていたので、白陽にも食べさせてみたい。
「ふうん、変わった犬だね。まあ、 アンタが獲ったんだから、一番いい部位をあんた達に食べさせてやろう。期待してなっ」
「やったっ!姉さん、ありがとうございやっす!」
─────残りのビッグボアの事は、すっかり頭から消えていた。




