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7話 太陽の日

グラッドバックの森を超え、岩壁を進むと深い岩の亀裂が現れる。それは数百年前の地滑りで出来たもの。


その亀裂を降りて歩いた一本道の先に大きな広場と教会があり、周辺には豊潤な果物や栄養価の高い野草が溢れているという。


だけど人間は、この地域に足を踏み入れる事は禁じられていた。


その理由の1つは、ルッド教会の入り口、岩の亀裂。


この大きな亀裂の先には長い洞窟の一本道があり、普段光の届かない洞窟内は、長らく苔と葉に覆われグリーンマンの住処で、大変危険と言われている。


ルッド教会へ抜ける洞窟の一本道に太陽の光が届くのは、年に一度、夏の太陽が一番高く登る太陽の日だけ。この日はグリーンマンは姿を消すので、亀裂から道へ入る事が出来る。


「そういえば何で姿を消すのかしら?」


ゾフィーは岩壁を通りながら岩の亀裂へ進んでいた。


それと、もう1つの理由。

人間にとってこの理由の方が、より重要とされている。


「一体、何匹の鬼が住んでいるのかしら…」


ゾフィーは過去を思い出す。


ーーー「ルッド教会?お前そんな所行こうとしてるのか!?」


ゾフィーが加入するパーティのリーダー、ベックハムは野営地で干し肉をかじりながらゾフィーの相談を受けている。


「はい。鬼に囚われた妹を助けたいんです」


「グフっ…鬼!?バカお前!…誰かに聞かれたらどうするんだ?」


食べている干し肉を喉に詰まらせながらベックハムが辺りを見回す。


「どうしても行きたいのです。お願いします。この討伐が終わったら、皆さんと一緒にルッド教会へ行かせてくれないでしょうか?」


「ダメだダメだ。ゾフィー、鬼を相手にするって意味分かって言っているか?」


「はい。求道者になる際に言われました。鬼には絶対に手を出してはいけない」


「そうだよ。鬼と戦う事は禁じられているんだ!俺たち全員牢屋に入れようとしているのか?」


「そういう訳では…ですが、私一人では鬼にかなう訳も無く…一緒に来て頂けたら有り難いと思っていたのですが…」


「無理無理。そういう危険な事は一人でやってくれ」


「でも…」


「…妹はルッド教会の鬼に連れ去られたのか?」


「はい。そうなんです!」


「だったら、尚更止めておけ…辛いだけだ…」


立ち上がるベックハム。


「ゾフィー、お前、この話は絶対に他言するなよ。宮廷に目をつけられるぞ」


「…」


ーーー


そう。ルッド教会には鬼の集落があるが、決して人間が立ち入ってはいけない。


「それでも諦めない!」


ゾフィーは決意を決めていた。妹を助ける。その気持ちは揺るがなかった。


勿論、鬼と争わずに妹を救出できるに越した事はない。


しかし例え、鬼と対峙しようとも、もう二度と怖がらないと決めた。


「10匹〜20匹は覚悟しておかないと…」


岩の亀裂に到着したゾフィー。


「岩というより、まるで鉱石ね。これは広げる事は無理そう…」


鉱石が割れて出来た亀裂を上から覗き込むと、普段薄暗い地下にはびっしりと苔が生えている。


「本当、はっきり下まで見えるわね。広くてまだわからないけど、グリーンマンは居なさそう。これなら…」


…ん?


亀裂の奥から何かが飛んでくる。大きい!


…鬼!?


亀裂の奥から鬼が飛んでくる。


「きゃーー!!」


咄嗟に避けて右手で叩く。


ズガァァァァン!!


飛んできた鬼を思いっきり張り倒すと、横の岩にめり込んだ。


「えっ?何?何?何?」


岩にめり込んだ鬼に目を向ける。


「待って。いきなり鬼やっちゃった!?嘘でしょ?」


恐る恐る、朽ち果てた鬼に近づく。ドクドクと腹部から血が流れている。


「もう最悪…。洞窟へ入る前に鬼に危害を加えちゃうなんて…どうしよう…ん?」


鬼の腹には剣で突き刺された痕跡がある。


「あら?もうやられてた訳?な〜にも〜。私がやったんじゃないよね?大丈夫よね?もう絶命してたって事よね?」


自分に言い聞かせる様に呟くゾフィー。ふと岩の亀裂を見ると、奥から植物の様に伸びた1本の剣が見えた。


「何かしら?長いシラウオかしら?」


その剣は亀裂の中へ沈んでいく。追いかける様に岩の亀裂を覗いてみた。


「きゃああああああ!!」


そこには顔面に血飛沫を浴びながら笑う女性が立っていたのだ。


「おいテトラ!何やってるんだよ!」


人の声?良かった。誰か人間がいるんだわ。


「かはははは!亀裂まで突き飛ばしてやったわ!」


…絶対人間じゃない。

あれは人語を喋る鬼だわ。もしくは魔獣かも。姿を隠さなければ!


「テトラ!鬼に手を出すな!一回落ち着け!」


「はっ。鬼が刺されただけでやられるか?呆気ないね」


テトラは血飛沫を浴びた顔を拭い、剣を元の長さに戻した。


「なぁ、言っただろ?絶対に鬼に手を出すなって!」


「悪かったって。洞窟にまで鬼がやってくると思わなかったのよ。グリーンマンが居ないせいかね」


大きくため息をつくジン。


「気をつけてくれよ。しかし、太陽の日だからか?周辺の様子が変だな」


ジンは不穏な空気を察知した。

グリーンマンが居ない太陽の日に合わせルッド教会へ向かったは良いが、人間の領域近くにまで鬼が来るとは思わなかった。


「さっき亀裂まで飛ばした鬼の様子を調べてみよう」


ジンは洞窟の入り口に目を向ける。


「ん?」


岩の間で、1個の岩が震えている。


「何だ?あれ」


岩に擬態する獣か?


テトラを見ると、すでに剣を構えている。


「いや待て…」


よく見ると岩ではなく、背中だった。美しいまでに筋骨隆々とした広背筋が震えている。


「人か?」


「…人だと?そこの!」


「ハイっ!!」


岩の様な背中が飛び跳ねた。


「女性の声?」


亀裂から恐る恐る顔を覗かせるゾフィー。


「あの…人間の方ですか?」


「ええ、はい」


怯えながら覗くその顔はとても小さく、長い髪は美しいブロンドカラーだ。


なんだ。岩に挟まれて“背中”と勘違いしたのか。


「人間みたいだな」


だから言っただろ。何でもかんでも剣を向けるな。


「俺はジンと言います。こっちはテトラです。あなたは?」


「良かった…鬼では…ないんですね」


「驚かせてしまったみたいですね。ここに鬼はもう居ません。降りて構いませんよ」


「はい。今そちらに」


「何だよその丁寧な言葉遣いは」


テトラが冷たい目でこっちを見ている。


なんだよ。


「別に普通だよ。彼女の目の前にいきなり鬼が出てきて驚いたんだろうし、怖がらせる訳には行かないと思って」


「ふぅん…」


「求道者じゃないんじゃないかな?きっと商人か役人か…」


亀裂から入る光が遮断され、洞窟が一気に暗くなった。


…はっ?どうした?


入口を見ると、そこには、猫の様な愛らしい顔にはアンバランスなクマの様な“恵体”が立っていた。


「良かったです。私はゾフィーと申します。お強い方達ですね。私は聖道の求道者です。お二人も求道者の方ですか?」


「あ…あの…」


話が入ってこない。誰かの胴体が入れ替えられたのか?小さな顔に似合わない傷跡だらけの筋肉質体型。遠近感がおかしくなる。


「ほう。自らの筋肉を肥大化させる芸ね。つまり戦う意思があるって事だね」


剣を構えるテトラ。


「待て待て待て」


とりあえずテトラは抑えておくとして、そうか、グリーンマンとの戦いで出会った剣士と同じ芸。何だこの女性は…?


「あの、お二人はルッド教会へ行かれるんですか?」


「はい」


「良かった。一人で不安だったんです。もし良かったら、近くまでご一緒出来ませんか?」


「…へっ?」


「怪しいな。まずは芸を解いてから話してみな」


テトラは殺気を緩めなかった。


「芸?なんの事ですか?」


「筋肉の肥大化の芸だとすると、武道士か剣道士だろう。聖道士と偽るのは何故なの?」


「……ん?」


「早く答えろ!」


「……聖道士、ですけど?」


「ん?」


「ん?」


「いやだから、その肥大化させた芸を」


「芸…?」


「会話が通じないのか?」


目をキョロキョロさせ、怖がるようにこちらを見るゾフィーに敵意は感じられない。


もしかして、芸じゃない?じゃあその体は?


「あっ、この体の事ですか?すいません、私、筋肉がついてまだ数十日しか経っていなくて、自分でも慣れないんです」


いやいや…ますます意味が分からない。

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