28話 ジンの火柱
「ハンプソン、あの3人を後衛に置いておけ」
ハッセルはそう命令し馬に乗った。
「私はてっきり、前衛に置いて囮にすると思いましたよ」
「彼らはまだ若いし、Fランクの求道者じゃ。戦場には行かせられんよ」
「はっ!」
「わしは召喚士隊の所へ行く」
鬼の恐怖をよく知るハッセルはジン・テトラ・ゾフィーに戦闘させる気は無かった。
後衛に入ったテトラはあからさまに不機嫌な表情を見せていた。
「何で私達が後衛なのよ」
「そりゃそうだろう。でも、戦場に出れただけマシだよ」
「私はヒーラーですから。後衛でも一向に構いませんよ」
「お前達は補佐に回れ。いいな、絶対に動くなよ!」
ハンプソンは3人に睨みを効かせる。
「ハンプソンさん!」
求道者がハンプソンの元へ駆け寄り伝令を伝える。
「…わかった。すぐに行く!」
ハンプソンは踵を返し前線へ駆けつけた。
「いいな!絶対に動くなよ!」
「あれでも私達の事を心配してくれているのでしょうか?」
「どうせ面倒が嫌なだけだろ」
3人は小高い野営地近くの場所から戦場を見渡す。
その光景は、圧巻だった。
「…しかし、戦争とは近くで見ると本当に凄まじいな」
砂埃の舞う戦地で活気のある掛け声、剣と剣が弾き合う音、鬼の叫び声。
遠くで見ているとどこか他人事の様に感じるが、紛れも無く、鬼と人間が斬り合い、殺し合いをしているのだ。
「ジン、あそこが見えるか?」
「ん?」
テトラが指を指す方向は、前衛よりの鬼の右側。槍と斧を持った鬼軍が密集していた場所だ。
「鬼が集まっているな」
「もっと良く見ろ」
鬼の密集地の中心では数十名の求道者の小隊が居た。
「小隊?囲まれているのか!?」
前後左右に鬼が集まり逃げ場がない小隊は今にも押し潰されようとしていた。
「中衛の右側の魔道士達が逃げ道を作るべく、魔法を打っているぞ」
「このままじゃ、あの小隊は潰れてしまいますね…」
「あそこに加勢しよう」
「あぁ。魔道士に合わせて火柱を放つ」
ジンとテトラとゾフィーは小高い山の中腹を駆け出す。
「おっ?おい!どこへ行くんだ!」
補佐役の求道者が呼び止めるが、聞く気は無い。
それより現場にいち早く駆けつけたのは、ハンプソンだった。
「くっ。小隊が危険か。ならば逃げ道をこじ開けるのみ!おい魔道士隊!そのまま右側を狙え我々も向かう!」
魔道士隊に指示を出し、密集地域の右側目掛けて駆ける。
「急いで下さい!」
魔道士隊の数十名の魔道士が杖の先から頭部大の火の球を起こし鬼へ放つ。
ボォン!ボォン!ボォン!
数十個の火の玉が鬼に炸裂するが、道は開けない。鬼の数が多すぎるのだ。
「ハンプソン隊!槍を構え!」
「おおっ!」
ハンプソンを中心とした隊が馬を駆けさせる。
どんどん小隊は小さくなっていった。
「…間に合うか!?頼む!」
ビュン!!
ハンプソンの馬隊の左側から鬼が槍を放った。
「くそっ!」
間一髪避けたが、数百の鬼に阻まれて勢いを止められるハンプソン。
「魔道士隊!全力で前衛の小隊を助けろ!」
「もうやっている!みんな!魔力切れを考えるな!打て!」
魔道士達は休む事なく火の玉を放った。
「打て!とにかく打て!考えるな!」
「…まだ序盤。軽〜く、軽く…」
魔道士隊の後ろでグローブをはめた右手を上げているジン。
「いきなり魔力切れを起こさないで下さいね」
「分かっているよ」
親指と人差し指を擦ると小さな火花が散る。
「え〜っと火花が散ったら魔力で大きく。そして目標点に向けて殴る様に!」
ボォォ!!!
まるで空気が油を吸っていたかの様に火花が大きな炎となった。
「ファイアトラップ!」
ジンは叫びながら右手を突き出した。
ボヴヴァァァァァォォ!!!
「えっ!?」
「キャッ!」
魔道士達が背後からの炎の光に反応し体を背ける。
ヴァァァァォォ!!
ゆうに幅3メートルを超える猛烈な火柱が鬼の集団右側を駆け抜ける。
「ガァァァァァ!!」
その火柱は地面を削りその場にいた鬼の集団を一瞬で燃え殻にさせた。
騒がしかった戦場に一瞬の静寂が訪れる。
「な…何だ…何が起こった?」
ハンプソンはその巨大な炎に目を奪われた。
「何よこれ…」
魔道士が後ろを振り返る。
そこには右手を突き出すジンの姿があった。
「…しまった」
ジンは呟いた。
「…大丈夫かジン!」
テトラがジンを心配する様に声をかける。
「…ファイアトラップって言わなくても良かったんだった」
鬼の密集地に居たカルファーとデータが右辺が開いた事に気がついた。
「データ!右だ!」
「はい!カルファーさん!」
魔道士隊に助けられた。凄い魔力の火柱だ。
データとカルファーは鬼の右側に向かい脱出を測った。
「ハンプソンさん!小隊、脱出出来そうです!」
「よし!我々も引くぞ!」
ハンプソンは槍隊の鬼との抗争を中断し小隊に混ざる様指示をした。
「素晴らしい活躍だ、魔道士隊!」
困惑しているのは魔道士だった。
「隊長、さっきの炎は…」
「後ろから来たわね。まさか、あの子が?」
隊長はジンを見つめる。
「何かの間違いでは?魔道士小隊を集めてもあれだけの火力は出せませんよ」
魔道士は隊長に進言する。
「あれは、人ならざる魔力よ…」




