27話 テトラとハッセルの攻防
「あの、何か勘違いをしていると思うのですが、僕たちは追放者ではありません。ガッドランドから来たフリー求道者です」
縄で縛られたジン・テトラ・ゾフィーの3人の前へ槍道者隊長・ハンプソンが立つ。
その表情は3人を敵と断定し威圧している様だった。
「援軍は間に合っている」
「あの、僕達なら力になれると思います!…多分」
「誘惑には乗らんと言っているのだ」
「誘惑?あの、ただの援軍ですよ?追放者じゃありません」
「追放者で無いならば、免許は持っているだろう?」
求道者ならば免許の携帯は必須。それは戦下でも同様だった。
「あっ、はい…カバンの中に」
「こいつの荷物を出せ。それと他の2人のもだ」
「はっ!」
求道者達がジンのカバンから免許を取り出した。
「こちらです」
ハンプソンは免許を受け取りチェックをする。
「ふん、どうやら本当に野良求道者の様だな…ん?」
ハンプソンは免許に書かれた文字に気が付く。
「…Fランク、罠士だと?」
「はぁ!?」
求道者がざわめく。
ハンプソンは驚愕の目を向ける。
「貴様、Fランク程度で宮廷求道者が集まる戦争に加担しようと言うのか?」
「隊長!こちらはEランク剣道士とEランク聖道士の様です」
テトラとゾフィーのカバンを持った隊員が言った。
「くっ…はっはっはっはっ!!」
ハンプソンと宮廷求道者達は笑いが堪えきれずに吹き出してしまう。
「なんだ…ただのお遊び雑魚チームではないか。遊びに来たら捕まっただけか?ん?」
「お遊び雑魚チームだと?」
テトラが言葉に反応した。
「ここは危険だからガッドランドへお帰りなさい」
「…ぶっ殺してやる!!」
テトラの目は殺意に満ちていた。
「我慢しろ、本当なんだから」
危険を察知したジンがテトラを静止する。
「その辺にしておけ、ハンプソン」
ハッセルが立ち上がり、ハンプソンを戒めた。
「はっ!」
ゆっくりと近づいてくるハッセル。その顔は先程の怒りが消えている。
「ふむ。済まなかった。どうやら気が立っていたようじゃ。追放者ではないと分かったら縛っておく理由は無い。縄を解いてやれ」
「はっ!」
縄を解かれる3人。
ゾフィーはジンに耳打ちする。
「何だか、私達が追放者じゃないと分かった途端にあのおじいさん、優しくなりましたね」
「あぁ。しかし一体どんな勘違いなんだ?」
「関係無い。こいつら全員ぶっ殺す」
テトラはまだ戦闘態勢を緩めなかった。
落ち着け。とにかく縄を解いてもらったんだ。暴れるなよ。
ハッセルはハンプソンに目配せをする。
「ハンプソン」
「はっ!」
「ここは宮廷求道者の決戦地。お前達低ランクパーティが来る様な場所では無い」
確かにそうだ。テトラに誘われてここまでやって来たけれど、万年Fランク罠士がここに来るのは場違いだったのかもしれない。
「隊長!こいつのカバンから、販売用の干し肉が入っていましたよ。肉商人なんじゃないですか?」
求道者達はジンのカバンから葉に包まれ値段が張られた干し肉を取り出した。
「何だ。求道者でも無いのか。商人が戦場で稼ぎに来ただけか?」
「わっはっはっはっ」
「くっ…」
「まっ、定住者だろう。もうカバンを返してやれ。さっさと立ち去るんだな」
「定住者では無いです。その言葉…嫌いなんですよ」
背を向けたハンプソンに対し、ジンは俯きながら答えた。
「…ん?何か言ったか…あっ!?」
振り返るハンプソンの目に入ったのは、首元まで伸びた剣と戦闘状態に入ったテトラだった。
「なっ…何だお前!?」
「…あの剣…」
ハッセルはテトラの剣を見ていた。
「取り消せ。ジンは定住者ではない」
「はっ…取り消してどうする。事実ではないか!」
「お前達の為だ。こいつが本気になればこの野営地ごと吹っ飛ばすぞ?」
「何言っているんだお前達は?」
「いいよテトラ。僕が定住者じゃないって事を知らしめればいい」
ジンの周りには溢れるほどの魔力に満ちていた。怒りで我を忘れている。
「…なんじゃ、この雰囲気は…」
その魔力はハッセル以外に気が付いた者はいない。
「お前ら、調子に乗るなよ!」
ハンプソンは背中から槍を取り出した。
「ハンプソン!ここをどこだと思っておる。止めておけ」
「…申し訳ありません。つい…」
「お主らの目的は?」
テトラが答える。
「サンダース宰相と契約をした。鬼10000匹と敵の大将を倒せば極刑を見逃してやると」
「…はっ?鬼10000匹と大将?何をバカな事を言っているんだ?」
呆気に取られるハンプソン。
「主ら、名前は?」
「ジン・バーネット」
「ゾフィー・リーン」
「…テトラ」
それぞれが名前を答えたが、テトラだけはフルネームを伝える事をしなかった。
「魔獣・エルジェーベトを倒すと言うのか?」
「エルジェーベト…」
ジンは父から聞いた伝承を思い出した。
魔獣・エルジェーベト。
鬼族ではなく、誘惑の魔獣と言われる種族。
人間や鬼などに姿を変える事が出来る魔獣は、目が合うだけで人を誘惑させる事が出来ると言う。
エルジェーベトが産んだ子は吸血鬼となり、その子を養う為に人間の血を飲ませるのだ。
「80年前、エルジェーベトが操る鬼の大群にガッドランドは敗戦したと聞きました」
「そうじゃ。奴は300年生きる魔獣じゃ。そう簡単にはくたばらん。だからこそ、ガッドランドの叡智を集結させた宮廷求道者が奴を食い止めておる」
「お主らの求道は、ワシらに着いて来れるのか?」
ハッセルは闘気を放った。
思わずたじろぐゾフィーとジン。さらに周りの求道者達もたじろいだ。
…俺たちを試している?
求道の極に一番近い男の圧に耐え切れずにいた。
ただ一人を除いて。
「あんたらの求道は関係無い。私は私とジン、そしてゾフィーを信じている。3人ならきっと倒せる」
テトラはハッセルをはっきり見ながら言った。
「…ほう?」
そして、ジン、テトラ、ゾフィーの3人は野営地を出て戦場に立っていた。
心配そうにハッセルを見るハンプソン。
「ハッセルさん…此奴らをどうするおつもりですか?」




