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29話 求道者の規則

「どうやら何とも無いみたいだな」


火柱の詠唱を唱えたジンに魔力切れはまだ起こっていない。


グラッドバックの土地に撒かれた魔獣の粉末による魔力の増強、さらに魔道士のブリーザの詠唱による追い風の影響を受け、ジンの軽い詠唱でも強い火力となった。


「これならもう2〜3発は打てる気がする」


「失礼」


一人の魔道士がジンに近づく。


「あなたは?」


「私は魔道士隊の隊長、ヴィクトリア・キャンベル。先程のファイアはあなたが?」


「あっ、はい。まぁ…」


驚くだろう。そこそこ大きい火柱を出す事が出来たし、しっかり鬼に当てた。


「見た事が無い魔道士ね。ランクは?」


…しまった。


血の気が引いた。そうだ、ここは宮廷求道者が居る戦場である。免許を持たない者が無闇に詠唱を唱え、魔法を使うなんて事はあってはならない。


くそっ。なぜもう少し気を遣わなかった。テトラといるせいか、すっかり常識を忘れていた。


「…ランクは、特にありません」


「なぜ?」


「…罠士だからです」


魔道士隊がざわつく。


「罠士が魔道の詠唱を?」


魔道士達はジンに奇妙な物を見る目を向けている。


「申し訳ございません…つい…」


「魔法の鍛錬を行ってはいないという事ですか?」


「…はい」


調子に乗っていた。無許可での詠唱は罪に問われる事となる。下手をすると免許剥奪だ。


「非認可の魔法は距離や方向が違えば味方に甚大な被害をもたらす危険行為ですよ」


キャンベルの言葉に周囲の魔道士も頷く。口々に、最悪、恐ろしい、などの言葉がジンに投げられる。


「別にいいだろう。お前ら数十人の火力が束になっても打てないファイアを打ったんだ」


テトラが口を挟む。しかしキャンベルは頑として譲らなかった。


「おいジン!無視して行くぞ!」


テトラがそう言ってフォローをしてくれるが、俺はすぐに動く事ができなかった。


「ここは味方も多い戦場です。すぐにここから出ていきなさい。処罰はその後です」


そう言い残してキャンベルは戦闘に向かい、俺たち三人は再び後衛に戻された。


「厳しいんですね。良いじゃないですかね、ジンさんのおかげで助かった隊も居た訳ですから」


確かにそうだが、あの人が言っている事も最もだ。火柱がたまたま狙い通りに飛んだが、もう一度狙った場所に打てるとは限らないし、風の影響やバランス次第で味方に当たる事もあり得る。


子どもの頃に唱えた燃焼魔法陣の事を思い出してしまう。


そうだった。あの時、無闇に詠唱を唱える危険は十分知ったはずだ。


なのに何で俺は。どうしてこうも学習能力が無いのか。


心がズンと重くなるのを感じだ。このままでは、人に危害を与えてしまう。


「大丈夫ですよ!元気出して下さい!みんなで一緒に鬼を倒しましょうよ!ね、テトラさん?…テトラさん?」


ゾフィーがテトラに声をかけたが、テトラの姿は見当たらなかった。


「やだ。テトラさんまさか…」


あいつならそうだろうな、と思いながらも今このタイミングか?という怒りもある。


「かっはっはっはっはっ!」


テトラはジン達を置いて一人前衛の鬼軍と対峙していた。


剣を鞭の様にしならせながら、鬼の喉元と脳を的確に狙っていく。


ふざけるな。俺がいない間にお前に何かあっても守れないだろ!


「ジンさん!助けに行きましょう!魔法を唱えなければ大丈夫ですよ!」


「ああ、そうだな!行こう!」


ジンとゾフィーはテトラを探しに駆け出した。


たった一人で人間3〜4人分の力がある鬼の大群と向き合う。テトラの自殺行為とも言うべき特攻。


当然鬼は簡単にはやられないが、テトラの圧倒的な手数の速さで襲ってくる鬼を一匹、また一匹と片付けていった。


「私はもっと強くなってやる。もっと来い。もっと来い。お前ら。私を殺してみろ」


その様子を見ているのは、データだった。


「何だ?あの子は…」


一人で鬼軍の中で暴れるテトラを見つけ、救出に向かう。


「剣道士…それにしては軽装だし、何よりあんな女の子が居たか?」


データの“残矢”は40本程度。


グオオオオ!!


テトラは背後から槍を突き刺す鬼の存在に気が付かなかった。


「スター・ガン!」


ボンッ!


間一髪、データが鬼の頭にボウガンを射抜き破裂される。


「何をしている!一人では無茶だぞ!一度下がれ!」


「黙っていろ、宮廷求道者。」


「死にたいなら俺の目の届かない所で死ね!」


データはテトラを抱えて大群から脱出を図る。


「おい!離せ!」


しかし、鬼はすでに背後に十分な数が揃っていた。


「くそっ…」


「どけっ!」


テトラはデータを振り払い、周囲の鬼と対峙する。


「何をそんなに生き急いでいる!?」


「うるさいなぁ。お前を先に斬るか?」


データはテトラの考えの要領を得る事が出来ない。


「…とにかく脱出しろ!」


その時、テトラが伸ばした剣が叩かれ、彼方の方向へ飛ばされる。


「ちっ…」


データはテトラに落ちている斧を渡した。


「キミの芸は鉄の形状変化だろう!僕と同じだ!ならばこの鉄の容量が大きい斧を使え!」


テトラは槍を受け取り攻撃に対処していくが、トランス・フォームの芸は使わない。


「何をしている!?早くしろ!」


テトラは斧を振り回すのみで、形状を変化させる様子は無い。


「生憎だが、私は芸を使えないんだよ。あの剣じゃないと」


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