23話 ピクチェンの夜襲
「もうすぐ日が落ちるな。足元が見えないとマズい、ペースを落とそう」
ジン・テトラ・ゾフィーの3人は歩みを遅める。
「しかし、スペアの剣を持ってくるのに随分遅かったな。家に忍び込むぐらいなら別の剣を街で買った方が良かったんじゃないか?」
「これが良いの」
新たな剣を腰に据えているテトラ。
テトラは剣が折れたせいで、自宅。つまりクローバー社から剣を持ち出していた。
「それと、お母さんに会っていた…」
「…そうか。ま、無事に来れたから良かったけど」
「ジンさんは、そのまま戻って来なくても良いんじゃないかって言っていましたよ」
「いやだって逃げられるならそれに越した事はないだろ?」
「ジン、鬼10000匹と大将を倒すまでは逃げる事は許さないから」
「交換条件の桁が馬鹿過ぎるんだよ。ま、ああでも言わないとサンダース先生は返してくれなかっただろうけど」
「そうだジンさん、あの人を知っていたのですか?」
「…元学校の先生だよ」
「ほう。求道者学校のか」
「あれ?テトラは学校に行っていたから知っているんじゃないの?」
「…どうだったかな」
「あの先生が、宰相になっているなんてな」
「…とにかく、先を急ごう。早くしないと鬼10000匹が残っていないかもしれない」
「慌てるな。それはそれで良いだろ。どうせ着くのは明日だから、どこかで一度寝た方がいい」
「どこかで岩場があれば良いんですけどね」
ゾフィーの言葉にジンは答える。
「岩場?しっかり野営をするなら川を探した方がいいんじゃないか」
「あっ、そうですね。私、最近まで岩場で寝てばかりでしたので…皆さん川沿いが良いですよね」
ゾフィーの強さを一瞬垣間見た気がした。
「確かに、どこでも良さそうだな」
「私は寝なくても良いぞ」
「…とにかく寝よう」
3人はテントを張り、焚き火をして干し肉を食べた。
暗闇に焚き火のパチパチという音が心地良く響く。
テトラとゾフィーはもう寝てしまっている様子だ。
ジンは焚き火を見つめながらこれからの事を考えていた。
「…ジン」
テトラがジンに声をかける。
「起きていたんだ」
「…あのさ…」
―――
グラッドバックの草原に日が落ちる。
「よし!退け!!」
ハッセル隊は本部に戻り、野営を始めた。
「燃焼!」
魔道士達が視界を守る為に炎を起こし、木に移した。
「ふぅ。肉が食べたいのぅ」
「はっ!おい!肉を持ってこい!」
ハッセル隊の求道者が慌ただしく動く。
「ハッセル先生、こちらに」
データがハッセルを野営地に誘導する。
そこにやってくる女性。
「ハッセルさん、ご苦労です」
「おおカルファー。お前も肉を食え」
武道士・カルファーと隊員が本部に戻ってくる。
「鬼はどうだ?」
「どんどん増えて収集がつきませんね」
「あぁ、ざっと見た所、3万って所かの」
求道者およそ1万人に対し、鬼の数は3万匹にまで膨れ上がっていた。
鬼の隊列は1000で一塊。それが20〜30の隊を成し増えていく。
「鬼は人間より数もいる…先生…」
不安そうにハッセルを見つめるデータ。その目は、退陣を要求する様にも見える。
そんなデータにハッセルは語る。
「データ、鬼の強さはなんだ?」
データは思考を巡らせる。
「体力、腕力の違い。それと統率力でしょうか」
「それじゃ人間の強さは?」
「人間の強さ…それは魔道、そして芸が使える事でしょうか」
「…なんだ、青い奴だな」
カルファーはデータに向かって言った。
「魔道や芸は、人間の強さの一要素にしか過ぎんよ」
「一要素?」
ハッセルは肉を齧りながら求道者を見渡す。
「他の生物には無い人間の強さは、馬鹿さだ」
「馬鹿さ…ですか…」
あまり良い言葉ではないな、と思いながらも、先生の言葉の続きを待った。
「合理性や出来る・出来ないで見るのではない。ただ強くありたいと求めて愚直に進む。その継続が人を何倍も成長させる。それは魔獣や竜にも出来ん事だ」
「諦めない心という事ですか。確かにそれは獣には無いですね」
「おお、そう言えば良かったな。なんじゃい馬鹿さって。はっはっはっ」
「ハッセルさんらしいですよ」
カルファーは肉の外側を削ぎ落として内を齧りながら同調した。
「鬼は組織を作っていい気になっているだろうが、こっちには道を求め続ける無謀な馬鹿が1万人います。きっと耐えられますよ」
そうだ。3万匹の鬼に不安を抱いていたが、僕たちは求道者だ。どんな険路であろうとも、歩むのみだ。
「…道を求めよ、ならば道は作られる、ですね」
ハッセルが不思議な顔をする。
「…何じゃったっけ、それ?」
「夜襲です!鬼が攻めてきました!」
突然、求道者がハッセルの野営地に走り込んできた。
「夜だぞ?」
「私が行きます!データ!行くぞ!」
「はい!」
カルファーとデータは野営地を飛び出した。
「ギャガァァァァァ!!」
「うわあああ!!」
前衛では、吸血鬼・ピクチェンが人間に齧り付いている。
「てんめー!人間を肉だと思いやがって!!」
カルファーの空拳がピクチェンを人間から引き剥がした。
「ギャギャギャァァ!!」
数十匹のピクチェンがカルファーとデータに襲いかかる。
データもボウガンで対処する。
「くそっ!数が多過ぎる!」
「なんだこいつら、鬼の癖に夜行性か!?」
ピクチェンは暗闇でも周りを見渡せる目を持つ。
「闇は人間にとって不利だ!火を全力で焚け!」
魔道士が燃焼の詠唱を唱える。
あたりが炎で照らされる。
そして、視界が広がると、既に求道者300人ほどがピクチェンに食われていた。
「なんだと…」
データの血の気が引いた。
全滅。その2文字が頭に浮かぶ。
そして一瞬止まった動きをピクチェンは見逃さなかった。数匹のピクチェンがデータに襲いかかる。
「マズい!」
データはボウガンを放つ。
ボンッ!
「ギャギャ!」
スター・ガンで一匹は仕留めたが、単発のボウガンでは防ぎようがない。
データの腕が齧られる。
「ぐあ!」
さらに他のピクチェンもデータに襲いかかる。
どうすればいい?道を。何か。考えろ。考えるんだ。
「ゴアァァァ!!」
突然、データの横から炎が噴射された。
「ギャァァァ!!」
ピクチェンは炎に包まれ黒焦げになる。
「なっ!?」
何?炎?魔道士が?いや、この勢いは魔道士では無理だ。一体誰が?
データが振り向くと、そこには3メートルはあろうかという竜が口に炎を貯めている。
「…竜が…」
そして、竜の背に乗り手綱を引いた長髪の男、エリオットがデータに向かって言った。
「夜襲なんか仕掛けるなっつーの。ギリギリ間に合ったか?」
「竜を、操っている?」
…ボンッ!!
「ギャッ!」
槍が音速を超える速さでピクチェンの頭を貫通させた。
「エリオット、そのままピクチェンを退かせろ」
「…また!誰だ!?」
データは槍の飛んだ先を見た。
炎のゆらめきの中、竜に乗ったエリオットとクラウゼを先頭に100人の男達が集まっていた。
カルファーは嫌な顔をする。
「チッ。援軍ってのは追放者かよ」




