19 それぞれの事情
一部誤字等有りましたので修正しました。
シェルシアが魔族達に紅茶を出した翌日の朝私達が用意した朝食を取った後
今回の主犯であるハーズガルとジャミが王城へシフォンさん達と向かって行った。
始めジャミの部下達も最後まで付いてて行くと譲らなかったが
ジャミがそれを宥め漸く彼等を魔王国へ帰る事を承諾させる事に成功したけれど
もしあの魔族達全員が王城に行って居たら大騒動になって居たに違いなかった。
何しろ前日から街中をぞろぞろと大きな体をした男達が揃って走り回る姿を大勢の人に見られ
それだけでも今噂になって居るのに。
その男達がもし王城へ揃って行ったら何が起こるか判ったもんじゃ無い。
そして行けば確実に彼等は処刑される。
ジャミはその彼らに魔王国へ帰る事を承諾させると微笑みハーズガルと
シフォンさん達と共に王城へ向かって行った。
ジャミの姿が見えなくなるまで見送る魔族達の姿を周りの人達に訝しげに見られて居たけれど
その位は仕方ないと彼等が施設の中へ入るまで一緒に着き合う事にした。
しかしジャミの姿が見えなくなっても未だ入ろうとしない彼らにシャルシアが気遣って?
「彼は貴方達にとって良い指導者だったのね。」
「いや、それ以上の存在だった・・」
1人の魔族の男が答えるとその他の魔族の男達の中から
すすり泣く様な声が聞こえて来た。
こんな所は人族も魔族も変わらない。
一日も早く人族と魔族が差別なく暮らせる日が来れば良いんだけど
私が生きている間にそれが実現する日が来るのはまだ難しいかも知れない。
忘れがちだけれど風の大精霊と契約して居る私の寿命は短い筈なのだから。
「しょうがないわね。私が特製の紅茶を淹れてあげるから中へ入って。」
「「「いや!それだけは断る!」」」
時々?
ズレた事を云うシェルシアの言葉に即答する魔族達に
意外とその日が近い様な気もしたけれど
何しろ元とは云え女神であるシェルシアの差別のない行動だからこそ出来る事なのかも知れない。
その翌日王都守護兵団のジークが朝早くハーズガルとジャミの処刑が執行された事を
知らせに来てくれた。
その日魔王国へ発つ予定で居た魔族達には余りにも衝撃的なその報告に
余りにも早い処刑に一時騒めき立ったが何時かはと覚悟もして居た筈と
リーダーらしき魔族の男に宥められ午前中の内に魔王国へ旅立って行った。
シフォンさん達も彼等を見送るとレイの家に礼を云いに行くと
レイは勿論勇者様とシトラル4人で出かけて行った。
残ったのはムストニア王国から来た悪魔のレアと契約者のフェスタ、
帝国のエスティアとプリシス
オアニニス王国のボイス達8人の軍人
ナリエスから来たハッシュ達7人そして私達ニシアの風の4人とシェルシア、オルイド
知らせを持って来たジークにミナト。
そのジークがシェルシアに話が有ると2人で出かけた後私はミナトに誘われ彼の部屋に2人だけで
テーブルを挟んで向き合う形で座った。
「イズミ、君が帰る前にどうしても言って置きたい事が有るんだ。」
遂にこの日が来た。
この一言でミナトが云うとして居る事はシフォンさんと私の事
もうそれしか思いつかなかった。
私は彼の次の言葉を待つ間落ち着つかず一度席を立つ。
「ミナトちょっと飲み物を持って来るから待ってて。」
ゆっくり席を立ち食堂を通り厨房に入ると大きく息を吸って
自分に落ち着く様に言い聞かせるけれどそれが中々上手く行かない
そうして何度か紅茶を零しそうになりながらミナトの待つ部屋へ戻って行くと
ミナトは両手を膝の上に組み私を待って居てくれた。
「お待たせ。うんそれで?」
ミナトの前に紅茶とお菓子を置いて席に座ると
自分の気持ちが落ち着かない癖にわざと明るい声で
気軽に聞こえる様にミナトに話しかける。
本当は胸がドキドキと張り裂けそうになってい居るにも拘らず
必死に笑顔を作りミナトに向けた。
ちゃんと笑顔になって居るか心配になったけれど
これが今出来る私の精一杯の笑顔。
そしてそんな私をミナトは真剣な趣きで私の目を見つめて来た。
「イズミ、・・」
「何?」
何時も真面目なミナトが更に真剣な眼差しを私に向ける。
「イズミ、ゴメン・・」
ゴメン?
そうか。
ヤッパリそうだよね。
記憶を取り戻してシフォンさんを選んで欲しいと私も願って居た筈
なのにこの喪失感とも寂寥感とも言える様なこの気持ち。
その後もミナトが何かを云って居たけれど
全く頭に入らない。
ミナトの口が動いて居るのは判ったけれど
それら全てが私の耳には言葉として届いて来なかった。
「・・ズミ! イズミ!大丈夫か?」
「あっうん。大丈夫。」
呆然として居た私にミナトが身体を乗り出し
私の肩に手をやり声を掛けて来た。
「本当に大丈夫か?」
「ちょっと疲れがたまってたみたい。少し休んで来る。」
「判った。明日は帰るんだろう?ゆっくり休んで明日に備えると良いよ。」
「有難う。」
その言葉を聞いて自分の部屋に戻るとそのままベットにうつ伏し
両手で顔を枕で覆た。
「イズミ、何が有ったの?」
「・・うん・・何でもない。」
その部屋に居たタルトが心配そうに声を掛けて来たけれど
それしか返事が出来なかった。
これ以上声を出したら多分今必死に抑えて居る物が耐えきれず零れて来てしまう。
すると私がうつ伏せている直ぐ脇に誰かが座る感覚が有りチラッと見ると
セティアがベッドに腰かけ無言のまま私の頭を優しく撫でてくれた。
頭を撫でてくれると何故か気持ちが休まる気がしたけれど
それと同時に抑えて居た物が枕を濡らす結果にもなった。
それからも何度かミナトが私に話しかけて来たけれど
私はミナトの顔を見るのが辛くてずっと避けたまま翌日を迎えた。
ただ帰りはセティアにタルト、カリナそしてオルイドと私の5人
シェルシアは何とジークのプロポーズに答えカラナス王国に残る事になった。
皆にお祝いの言葉を貰いシェルシアの嬉しそうな顔は多分一生忘れられ無いだろう。
それに比べ私も心から祝ってあげなくちゃいけない筈なのに何とかその場を取り繕うだけで
心から祝えない自分が嫌になった。
そしてそのミナトとは最後に別れの挨拶をしてそのままミリニシアへ向けて施設を後にした。
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シェルシア
私達が帰る前日の朝早くハーズガルとジャミの処刑執行の知らせをジークが持って来た。
その言葉に余りにも早い処刑に対しジャミの部下達が騒然としたが
リーダーらしき魔族の男に宥められ午前中の内に魔王国へ旅立って行った。
彼等が旅立った後ジークが私の所へ来ると突然皆が居るにも拘らず
私の前で片膝を着き私を見上げた。
「シェルシアさん貴女の笑顔、貴女の佇まい、貴女のりょう・・・兎に角貴女の事が好きです!
もう貴女無しでは俺は生きて行けない!シェルシアさん俺の嫁になって下さい。」
それはもう天にも昇るこの気持ちをなんと表現したら良いのか
今迄ずっと夢にまで見た事が遂に現実になった瞬間!
返事はもう決まって居る。
「ハイ♪」
もうそれしか返事のしようが無かった。
イズミ見て居た?
白馬には乗って居なかってけれど私の王子様からの告白だもの。
ウキウキとイズミを探したがそう云えばイズミもミナトに呼ばれて行った事を忘れていた。
もしかしたら今頃イズミも?
そんな事を空想して居ると突然私の手を誰かが優しく包む様に掴んだ。
その手の主を見ると優しく微笑むジークが私の目の前に立ち私を抱きしめた。
「シェルシア!有難う。」
「エッ?エッ?・・」
初めて男性に抱きしめられた私は胸のドキドキが今まで経験したピークを軽く超え
フと意識を手放す事になった。
「・・シェ・・ア・・・シェル・ア・・シェルシア!」
「ヒャッ」
気を失って居たのはほんの一分も無かったかもしれないけれど気が付けば私は
まだジークの腕の中で抱き起され心配そうに私を見るジークの顔が・・・近い。
更にレッドゾーンを超えた私の鼓動は私の意識を簡単に又もや手放す事に。
そして次に意識を取り戻した時はベッドの上に寝かされて居た。
「シェルシア、大丈夫か?」
「ハイ・・・ジーク私」
「無理をするな。もう少し寝て居てくれ。」
起き上がろうとする私をそっとまた寝かせてくれるジーク
う~ん優しい。
この時既にジークのお嫁さんになった私の姿が頭に浮かんで来た。
「ジーク私このままここに残って貴方と一緒に暮らして良いの?」
「勿論!俺にはキミしか居ない。これからの俺の人生はキミと共にある。」
その一言で私は翌日イズミ達と別れカラナス王国に残る事を決意した。
イズミ貴女も幸せになれると良いね。
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ミナト
俺はシフォン達がレイと一緒に出掛けた後イズミにある告白をしようと
自分の部屋に呼んだ。
彼女はまるで親しい友人に誘われた風に気軽に返事をしてついて来てくれた。
おそらく彼女の中の俺は友人でしか無いのかも知れない。
でも、以前イズミに告白した気持ちは記憶を取り戻した今も変わらない。
確かにシフォンの事も好きだけれどそれはイズミに対しての好きと違う気がする。
シフォンは誰もが憧れる俺には、勿体ない位の女性で何方かと云えば
皆と同じ憧れの女性であるように思う。
確かに近くに居ればドキドキと鼓動は高まり本当に一緒に居て良いのかと思う程
綺麗な女性なのだけれどこれが恋と云えば何か違う気がする。
所がイズミは違う。
一緒に居れば楽しく心が安らぎ何と言うか守ってあげたくなる可愛らしい女性だ。
しかも俺が記憶を失った時自らも傷つきながらもずっと俺をその身を挺して守ってくれた。
『シフォンさんの所へ送り届ける為』と言って居たので
彼女の方は俺の事を友人くらいにしか思って居ないかも知れないけれど
俺の心は既に記憶を失う前からシフォンに悪いと思いながらも
彼女に引かれていた様に思う。
こんな事を云えばずるい男だと罵られるかも知れないけれど
イズミ自身傷つきながら辛い旅だった筈なのにそんな事も気にする素振り等
微塵も見せず俺を守り続けたあの時間が俺の気持ちを決定づけた。
イズミが好きだ。
彼女は俺を友人として受け入れてくれた。
そしてシフォンの為と
俺をシフォンの元へ送り届けてくれた。
此れから告白する俺の行為はそんな彼女の気持ちを裏切る事になるかも知れない。
でもこの気持ちをどうしても伝えたい。
だから俺の初めの言葉は彼女への謝罪の言葉で始まった。
「イズミ、ゴメン・・」
その言葉にイズミはハッとした様な表情を見せるとそのまま俯いてしまった。
ヤッパリ自分の気持ちを裏切る俺を怒って居るのかも知れない。
「イズミ、ゴメン・・・キミの想いを裏切る形になるかも知れないけれど・・
やはり俺はシフォンよりイズミが好きだ。
俺がキミの側に居る事を許して欲しい。そして出来れば俺と一緒に・・・」
その後も彼女に話し掛けたがずっと俯いたまま一言も喋らなかった。
そんな俯いたままの彼女が心配になり
イズミの肩を軽く揺すり意識を俺に向けた。
「イズミ!大丈夫か?」
「あっうん。大丈夫。」
彼女は一言云うとニコッと微笑み
疲れたからと自分の部屋へ戻って行った。
もしかしたら今の事で彼女を悩ませてしまったのかも知れない。
いや、かもでは無く恐らくそうだ。
自分が友人だと思って居る相手から告白され
シフォンと云う親友を裏切る様な事になるかも知れない事を迫った俺を
きっと怒って居るに違いない。
でも、俺は決めた!
もう後戻りはしない。
イズミ、キミと一緒になりたい。
その後何度か彼女に話し掛けたがイズミは俺を避ける様に
俺とは顔を合わせようと最後までしなかった。
本格的に起こらせてしまったかも知れないけれど
この気持ちは押さえようがない。
そしてシフォンには謝らなくては、
『ゴメン、・・・』
明日俺は勇者達とレア達を転移で送り届け
又ここへ戻って来る。
そうしたらシフォンにハッキリ言おう。
今のこの気持ちを・・・。




