1。燕の巣 #1-3
久梨原香…電車内。 現在。
ガタンゴトン…
ガタンゴトン………
と鈍く規則正しい音と合わせて、電車に揺られている、僕は座ってリュックを膝の上に置いて、抱え込んでる。暖かい電車内は心地よく、音と揺られに対して、とても寝てしまいそうになる。寝たら講義に遅れる。確実に寝過ごす、どうにか自分に喝を入れて、眠気を誤魔化す。
暖かいと言うよりは暑い、段々と暑さで汗すらかいてくる。おでこから腕から、足から、汗っかきな方ではないと思っていたけどもしかして僕は汗っかきなのかな。
「暑いな。」
外は生憎に雨が降っている、傘は買ったから心配する必要はないけど。晴れの時よりは気持ちがドヨンとしてしまう。
駅前で買ったクリームパンを片手にそっと食べ終えると同時に電車のスピーカーから声が響いた。
「次は、草薙、草薙、お出口は左、左、、足元にお気を付けてお降りください。」
着いた。と思い立ち上がりリュックを背中に背負う。僕の他にも多くの人が降りた、誰も目を合わせず、自分の目的に沿って動いてる。
歩いてく人のさまざまな匂いが追々僕に張り付く、時々刺激臭がこんにちわしてきた気がする。臭い。自動ドアを超えて駅のホームへと立つ。
すると電車は閉まって、大きな発車音と一緒に少し経ってから行ってしまった、それを見送り僕は電車の反対へ歩く、階段を上り、下りて、改札を出て、南口にそっと駅を出て傘を刺す。屋根からはみ出し、雨が傘に当たる、ボツボツっと重たい音を立ててる、煩い、ジメジメしていて良い気はしないな、どうしたものであろう。肌がベトベトして不快を感じて皮膚を掻きむしる。
駅前のバス停僕は立ってでかい口をおおっぴろに広げ欠伸をかます、バスが来るのをじっとして待っている、「あと七分か。」とスマホを確認し、ポッケにしまう。
昨夜、充電し忘れて電池が四十パーセントしかない、下手に使ったらすぐになくなってしまう、しかも中古で買ってるから電池の減りが尋常じゃない、ちょっと見てるだけで五パーセントも食われる、たまったもんじゃないよ。
「買い換えようかな」
ベンチは雨で濡れている、運動不足に祟られ、数分立っているだけで足が痛い、屋根に守られるベンチは知らない人が座っているし、このままでは動けなくなってしまう、唯の木偶の坊と化してしまう。生まれたバンビのおぼつかない足によく似てる、野生に放り出されたら即座に野生動物の餌になってしまうんだろうな。だからと言って運動をしようとも思わないけど。
他にも数人同じバスを待っている、このバスの行き先は大学直通、つまり同じ大学の人たちだ、でも顔は初めて見る、先輩かな、それともただ人と接しないだけですれ違ったりはしてるのかな。覚えてないだけか。
髪、伸びたな。前髪がかなり邪魔になってきた、セットもあんまりしてきてはいないから、寝癖も然程取れてない。頭をぽりぽり掻いて長めの髪を指の周りを塒を巻くように回して遊ぶ、きっと八木さんにこんな姿見られたら、ドヤされるんだろうな。しっかり治してくれば良かった。
まぁ、あまり気にする事でもないかと思い、吹っ切れて前を見る。「暇だ」っと声をこぼす。
みんなスマホを弄ってる、顔を下げて画面と睨めっこ、多種多様なスマホカバーに携帯を包んで個性が見て伺える。といっても数人だ。
、、あのキーホルダー………何処かで。
ふと、一人が身につけたキーホルダーに目が行った。確かあれ、雪の友達が付けてた気がする、名前覚えてないけど、なんのキャラクターなんだろうか、知識が浅いので深くはでは分からない。人違いだったら嫌だし、話しかけたりはしないけど、なんとなく、その子をじっと見続けていた。
キーホルダーをつけてる子は、僕より下の歳の子に見える、このバスは大学行きだ、つまり同年代か先輩だろう。背丈は百六十前後で、白いシャツの上にブラウンのジャケットを羽織ってズボンはデニム、髪はボブほどの長さをしていた。
ふと、その子の顔を見る、その子も僕を見ていた。
目が合った、不審者だと思われたのだろうか。気持ちの悪い輩だと思われたかも、女性は僕にゆっくりと近づいてきて話しかけてきた。
終わった、痴漢とか言われるんだ。
「どうかしました?」
「ぁ?え」
首を傾げながら困り顔で問うてきた。対面での会話はかなり久しぶりだ、頭の中をぐるぐると回してどうにか変にならないよう言葉を絞り出し慎重に応答する。
「そのキーホルダー、見たことあるなって不快にさせたならすみません、」
すると目の前にいる女性は団扇を仰ぐように手を動かし否定する。
「あ嫌々!、とんでもない、ただ気になっただけです、何見てるんかなぁって、このキーホルダー、ボロボロでしょ、よく親友に直してもらってたんだけど、やっぱ時間には勝てないんね」
近くで見たら尚更にボロボロだ、解れた所は不格好ながら丁寧に縫われてて、さぞ大事に守られてきたんだろうな。その小さな宝物のキーホルダーをそっと手に乗っけて僕にマジマジと様子を見せてくれた。
「いや、ボロボロっていうか、なんていうか、その。大事にされてるんですね」
「これは、昔の親友との繋がりなんです、無くしたくないんですよ、大事な思い出なんです、これを見てると感じるんで、繋がりっていうか思い出を、ここで感じるです」
そっと自分の胸を撫でて「ここ」を僕に教えてくれた。
「それだけ大事にしてたら、きっと親友さんも喜んでますよ」
「そうですかねぇ、それなら良いんですけど、てか、ここのバス待ってるんですか?」
上目遣い、身長は僕とさほど変わらないのに随分と下手で迎えてくれるものだ、もっとぐいぐい来るモンだと思ってたんで緊張したが少しずつ慣れてきた。
「そうですね」
「ってことは一緒の大学か、てことは!!、これからも会える機会があるかもって事ですよね、
よかったら、連絡先交換しません?」
目の前の彼女はスマホのSNSを見せて僕に問う、それを特に考えず僕は了承する。
「良いですよ、自分こそよろしくお願いします。」
「おっしゃ!」
そう言って、ポッケからスマホを取り出し、画面を開く、定番のトークアプリを起動してQRコードで連絡先を交換する。表示名は、井上美香と書いてある。
「上はわかるけど、下の読み方ってカオルかカオリ?で合ってる?どっち?」
「よく間違われるんですよね、正しくはコウです。」
「香さんね、よろしくね。」
「こちらこそ」
会釈をして改めての挨拶をする、すると井上さんがさっきとまた違う嬉しそうなピッチの高い声で言う。
「私大学馴染めてなくて、ずっと一人で友達が恋しかったんだー、嬉しいな」
ニコニコしてはにかんだ顔で僕の目を見て、それに僕は耐えられず地面に視点を合わせる。
「そんなたいそうもんじゃないですよ」
「嫌々、たいそうなもんですとも」
「他に話してる人とか居ないんですか?」
「居ないねー、と言っても私から話しかけに行ってない」
「なんでです?僕の時はこっち来たのに」
「いやぁさ?、なんかこう、んー分かりずらい例えが出てこないなー、うーん」
「言いたいことはわかりますよ」
「お、わかってくれるのか」
「わかりますよ、僕もそんな感じですし」
何気なく気さくで進む会話は久しぶりで居心地がいいと感じている。気が合うのかしょうが合うのか、すごくすらっと話が進んでいく。
井上さんは待ってましたと言わんばかりに指を刺して「バス来た!」とバスの位置を教えてくれた、僕はそれに「そうですね」と答えてから、到着を待った。




