1。燕の巣 #1-4
一緒にバスに乗り込んで、他にも数人バスに乗り込んだ。その中には僕ら以外にも人が八人程度もう席に座っていた、僕たちはある程度奥、真ん中辺りか、そこへ座る、僕が窓側で井上さんが隣に座る。
そしてバスが排気音と共に動き出し、二十秒ほどが経過してから井上さんが僕へ言葉を投げかける。
「退屈ですよねー、バスとか電車って、あんまり喋れないし」
「そうですね、場所によっては喋るだけでうるさいって怒鳴られて降ろされたりしますもんね」
「そうなの、ここのバス、意外に結構ゆるくて助かる、普通に喋るぐらいなら何にも言われないし、最高」
窓を見ながら、淡々と一定のリズムで会話を広げる、景色はいつも通りに通過して、いつも通りに進んで、バスが歩いてく。この変わり映えのない景色が僕は好きだ。安心する。心からそう思う。そっと片隅に置いて何一つ不満を考えなくて済むこの世界が僕は好きだ。愛している。
だけど変化するものは嫌、そのままでいてくれることが一番で。平穏が続いてくれれば不安なんて何一つ感じずに済むんだから。地元の方は、変わってしまってるのかな、昔通った道も、昔遊んだ公園も、昔走った土手や田圃道も、どこもかしこも変わってしまったのだろうか。
好きだった弁当店の店主が変わり、味は当然変わってから、もうそれ以降行かなくなった。通っていたゲーセンだってそうだ。クレーンゲームの配置が少し変わる程度ならまだ許せるのだけど、そこへ急に決して大きいとは言えないサイズの、キッズスペースができて子供がたくさん来るようになってしまったからもう行かなくなってしまった。
子供が嫌いな訳では無い、一部の子が苦手ってだけ、会話が通じる子は対して思う事はない。ただ、会話の通じない子はかなり苦だ。無邪気で合ったり、活発なのは良いことだ、ただ善悪の領域があやふやで手違いでも故意にでも人を容易く傷つけてしまうような、そんな子は大の苦手だ。
そのぐらい、僕は変化が嫌いだ。緩やかに次第に変わるのならいい、でも急に変わるのは、嫌なんだ、不安になってしまう。我儘だから。
「夏の雨ってなんでこうもジメジメするのかなぁ。嫌になるよね、別に冬の雨も寒いから好きじゃないけど」
スマホで天気予報を調べながらに井上さんがそんな事を言う。僕はそれを肯定する、雨は僕もごめんだ。
「いやですよね、こんだけ湿度が高いと、偏頭痛持ちとかは尚更嫌ですよね」
「それ!、マジで頭ズキズキするの!」
バスの中とは思えないボリュームの声に、周りが驚いてこちらの方へ何人かが振り向く。痛い視線に俯きながらに小さな音で僕は口にする。
「声が、、」
「あ、ごめん、つい…」
周りにすみませんとお辞儀を、頭を下げたり、手を合わせたりしている、井上さん案外お淑やかじゃないんだな。
バスに揺られて道を進んでく、気持ちを仰いでどうにか「めんどくさい」を抑え自分に鞭を打つ。
「良いですけど、周りが何思うか分からないから、気を付けてくださいね、」
「それ親友ちゃんにも言われた」
言われたってことは、昔からの癖って事か、そら大変だろう。直そうにも直せないのが癖だ致し方ない。無意識だもんな癖って。
「香さんって趣味とかそこらへん、なんかあるの?」
「僕?趣味か、特に考えたこともなかったな、何だろ。本読むとかはありますけど、基本寝てます」
「本かぁ、私字多いの苦手でさコツとかあったりするの?」
「気合いですね」
「オッケー、暴論ね」
隅へ言葉を流し進む街を憂う、車通りもそこそこでスムーズにバスは目的地へとついてしまう。待ち時間でもあれば本を読もうと思ったりしていたがそんな気は起こす必要がなかった、何となく久しぶりにしっかり人と接したような感覚だ、ほんと、ただ大学行って講義を聞いてコンビニで飯を買って帰るだけだったし、唯一の記憶じゃあ八木さんとの電話がラストだ。
バスがゆっくりと停止して僕らを下ろす。次々と人が降り空っぽになったら最後に僕が出る。そして井上さんを見ずバス停だけを見て言う。
「それじゃあ、ここで解散で」
「そうだね。案外早かったぁ、こんなにバス移動早く感じたの初めてだよ、ありがとう。香くん、
またね!」
手を振り、走り去っていく井上さんの背中姿を目で追い、僕も大学に歩き出す。
まだ。雨は降ってた。止まない雨を心底嫌って、こよなく愛した、降り注ぐ妖華を僕はどこかで望んでいるんだろう。きっとまた。繰り返される日常の「普通」を壊してくれる何かを、大嫌いな変化を。心から願っているんだろう。何せ、我儘なんだから。絶妙に引っかかるな。どうしてだろう。
時間が経ち、一講義は終了、二、三講義は今日は履修に入れていないので、のんびりと空き時間を潰している。
気がつけば雨は止んでいで、
空は青い清夏になっていた。さっきとは違う、太陽の日差しが直で肌を刺激する。窓からの透影がいいほどに廊下を照らしてる。緑の草木も風に靡いていて、今動物たちは日向ごっこでもしているんだろうな。ジメジメした気の悪い空気感は消え去り、乾っからの時節の様、目覚ましいほどの熱が鳴いている。
することもないので、ぶらぶらと廊下を歩いてる、座りたいけれど座ったら寝てしまうような気がする。それは避けなくては、流石に差も知らない奴らに寝顔を見せたくない。
そして小腹が空いた。ため息と共に、「腹へった」っと漏らす。コンビニにでも行くか。僕は来た道を引き返して出口へと向かった。スタスタと早足で逃げるように速さを乗せていく。
歩く道の最中では、今ざまな人とすれ違う、誰かと談笑しながら歩いてく人や教材を持って急いでいる人、はたまた立ち止まってスマホをいじる人。様々人達が多種多様に、多岐にわたる人間がいる。まるで動物園だ。
そうだ、一つ思い出した。今日帰る途中でホームセンターに寄らないと、買わないといけないものがあるんだ。何が必要なんだっけ、行けばわかるか。しっかり予定を立てないとな、行き当たりばったりが過ぎるな。それもそれで楽しいからいいんだけど。
「はぁ、帰りたい」
ふと独り言を、吐き出す。何を馬鹿なことを呑気に、と思い「ふふっ」と健やかな笑いが滲み出る。
「もしかして、いい事でもあった?」




