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花盗人  作者: 楠ゆう
2章 流星の燈

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1。燕の巣 #1-5

「もしかして、いい事でもあった?」


 前から一言、高い女性らしい、つい最近聴いたような声が僕に向かい放たれた。下を見て歩いていたから声の正体に気づかなくて驚いてしまった。視界の上の方に靴だけが写り急いで顔を上げる、するとそこには井上さんが立っていた。


 「いい事?」

 「いや、なんだか笑ってるみたいだったから、良いことでもあったのか〜的な」


 そう言うことか、内で納得をして、しばし考えのため息を後にそれについての問いに答える。


 「独り言がおかしくて、笑ってただけです」


 井上さんは「何それ」とあっけらかんとして笑っていた、僕もそれに釣られて笑いがこぼれてしまう、廊下のど真ん中で男女二人が意味も変わらず笑う、よく分からない構図が出来上がってしまった。


 「久梨原さんって、しっかりと笑う人だったんですね」と井上さんは僕に寄り添いながらにそんなことを言う。

 「笑わない人だって思われてました?僕」


 朝のバスでは「香」と名前呼びだったのに、苗字呼びになっている。何か変わることでもあったのだろうか。


 「なんていうか、暗そうな印象が強くて、悪口じゃないですよ、ただ、ほら寝癖とか(くま)とかでなんか合ったのかなって、思ってて、いらない心配だったみたいで良かったです、笑った方がいい顔してますよ、香さん」


 あ。香に戻った。確かにそうか、こんな成りを表でしていたら、いい印象を与えるわけはいか。ファッション……手出してみようかな。でも下手にコーデを派手にして失敗してもそれはそれで嫌だな。


 「あの、井上さん」

 「何?」

 「ありがとうございます」


 「何急に、どした?」井上さんは困惑を通り越してびっくしした形相で、眉間(みけん)(しわ)を寄せて聞いてくる。久しぶりにしっかりと笑えた。嬉しかったから、ただ感謝を伝えたかった、ただそれだけなんだ。人にしてくれたと思ったから。


 「なんとなくです」

 「なんだそれ」とまた二人でおかしくなってふひひと笑って普段は使わないような筋肉を酷使して使ったから少しヒリヒリするけど、今が楽しかった。それでいい、嘘じゃない、これは本当、多分心の底から楽しかったと思う。感謝が絶えず広がって飽和(ほうわ)してく。


 「久梨原さんって、この後講義残ってるの?」


 また戻った。もどかしいな。

 「いいですよ、香で、そっちの方が親しみがいあるでしょう、講義は、行っても行かなくてもどちらでもないって感じですね、単位は取れそうですし」


 「そっか、それじゃあ香さん、私この後予定何にもなくてフリーなんだ、お昼一緒に食べに行かない?」

 「さんもつけなくて良いですよ、そうですね、どうせなら行きますか、ちょうどお腹空いてますし」

 「よし決まり!。どこ行く?」


 どこに行こうか、主導権を預けられるのはあまりないから即答できないで「んー」と唸る声を続けて出していた.。


 「そうだ、あそこなんでどう?」

 「どこかあります?」


 「新しく喫茶店ができたの知ってる?あのー、あそこの公園曲がった辺りのー、えーと、古着屋の隣のー、なんだっけ」


 井上さんは手を組みながら一生懸命に考え出そうと思い出そうとしてる、健気だなーと思いつつ僕も色々お店を練り出そうと奮闘(ふんとう)し探している。だけどもそもそもとして土地勘があまりないし、一人でファミレスなんか行ったこともないので何も湧き出てきやしない、半ば諦めていると、一つ考えついた。


 「スマホ、使えば良いんじゃなんすか?」

 「確かに」


 そういえばそうか、という顔をし、井上さんはポッケからスマホを勢いよく取り出して、場所と名前を調べ始めた。僕も井上さんが調べている横から覗き見て二人で場所を拝見する。


 「えーと、あ、ここ!」そう通常よりも大きな声で興奮しながらにスマホの画面、地図に写っている赤いピンを勢い良く指を刺して興奮しているのがすぐに分かるほどだ。


 「ここ、ルプスってところ、紅茶が美味しいらしいよ、あとホットケーキとかチルいよね、あれよ。エモい」

 「お腹膨れます?それ」

 「確かに、まぁなんとかなんじゃない?」


 カフェのイメージって小腹満たしで大体お話しする場所として頭に定着してるからあんましお腹がいっぱいになる要素が見当たらないが、ここで断っても申し訳なさと罪悪感が残ってしょうがないので否定はしない。


 「まぁ、行けるだけ行ってみますか、」

 「賛成!」

 「てか、お金そんなないかも」

 「え。マジ?」


 僕らは二人で、大学を後にした。


 途中の道のりでくだらない話、取り繕った話を何度もして、僕が最近ここら辺に引っ越してきたこと、井上さんも最近ここらに引っ越してきたこと、どうやら家族ぐるみで面倒なことがあり親戚の家に逃げてきたとか、普段は元気なのに家に帰るとすぐだらーんとして怠け者なんだとか、昔めちゃくちゃ可愛い親友がいたとか。色んなことを知れた。


 僕の知らない所で、また別の人生が繰り広げられている、時々思うが。なんとも面白い話である。人の数だけ人生があるのだから、多種多様な思考や感受性が行き来して今があるのだから、考え深いな。なんて、。


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― 新着の感想 ―
意外とホットケーキってお腹いっぱいになりますよね。 本日もありがとうございます!
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