2。あの頃へ。#1-1
久梨原香…中学。
香………。
香………、、 香………。
「香!」
「んっ。」
寝てしまったみたい。雄介が声をかけてくれたおかげで目が覚めた。
「移動だぞ、教室!、先に行ってるよ。寝ぼけて二度寝するんじゃねーぞ」
雄介が行ってしまった。次の授業、音楽か。嫌いなんだよな、歌うのなんか恥ずかしくって嫌だし、リコーダーとか楽譜とか、見れたもんじゃない。音がでかいのがまぁ嫌い。後先生も。
やればできる熱血系音楽教師って混ぜるな危険とかいておいた方がいいだろ。あれだけ寝ても眠たいなんて、いっそのこと冬眠したいよ。熊が羨ましいことこの上ない。
眠い……。
「ありがとう」それだけ言ってから、授業の準備を早めに終わらせないと、急いで移動教室先に向かうために立ち上がる。
机の後ろ側の個人用ロッカーから荷物を手に取り、
音楽の教科書、楽譜本にリコーダー、音楽用のファイルを両手に持って急いで教室を出た。
移動教室に向かう道中、二年生の教室の前を通る。遠いのが鬱陶しいがそこまで困るものでもない。と思っている時ふと思い出すことがあった。怕竹さんって確か、二年生だったよな。少し脳で考えたあと、どこのクラスか気になってしまった。
歩きながらひょっこりと、横目に見てみることにした。と言ってもあまり容姿は覚えていないけど、わかったらそれはそれで良いことがあったって思えば良いだろう。
少々重たい教科書達がうざったらしい。微妙に重たい、やっぱり鍛えたほうがいいのかな、いや笑われるな。
五組、四組、三組を超えて二組の教室を覗いた時に、
「あっ、」後ろ側の引き戸をこっそり覗いて、視界が吸い付くようにすぐに見つけることができた。分かるんだな後ろ姿だけでも。まっ、わかっても特にすることもないので、そのまま音楽室へ急ぐ。
誰かと喋っているようだった、僕と喋っている時とは違う笑顔で楽しそうだった。
やっぱり冷房がない廊下は暑い。蝉が鳴いてもおかしくない程に蒸し苦しい。喉が即乾くので水筒の中が二時間程度で空になってスカスカのただの荷物になる。そんな暑さの中で長袖なんて着れるはずもない、でもちらっと見えた怕竹さんは長袖を着ていた様に見えた。
前日までは肌寒いとかどうとか言っていたのに、もうこれか。季節って本当にわかんないや。
教室の境目にある窓を見ると反射した自分の顔が薄っすらと映った。
周りとなんな変わりない平凡な顔立ち、日本にならどこにでも居る日本人だ、こんな顔が何十億といるんだから不思議なもんだ。
するとともなく聞き慣れたチャイムが鳴った。あーやば、授業遅れちゃうなこれ、叱られるなこれ。居眠りしてしまった自分が悪いのだが如何せん移動教室と言うものが億劫で感じてしまう。教室でやればいいのに。確かに楽器を扱うともなると音を気にしてしまう、他教室からしたら迷惑極まりない。それならばせめて近くに教室を作ってくれ。
僕の通っている学校、マンモス校と言って差し違えはないだろう、付近にある第一小学校、第二小学校。それらの卒業生が合併でこの中学に中学するのだ。棟も幾つか分かれていて入り組んでいる。そのせいでどこに何があるかすら把握ができないんだ。
ましてや音楽室ときたら、一つ棟が離れている位置にあるんだ、そりゃあ。遅刻もするし、余裕をもないと間に合いもしないさ。
すると、一つ。魔が刺した。
サボってしまおうか。
もう散々あれだけのことをされてきたんだ、少しぐらいなら、少しなら、バチなんて当たらないだろう。
そう顔を引き攣らせて、ニコニコと不敵な笑みをぶら下げながら、僕は教室に急いで戻って教科書を机にしまう。
「どうせ、授業遅れてるし。そこまで考えんでもいっか」
先とは違う、質量としても重さではなく感覚としての重さが消えてくれた、身軽だ、鳥になれる今なら、きっと。
辺りは異様に静かで何も聞こえない。しっかり耳に神経を傾ければ微かに教師の声が入ってくる。隣、左右いろんなところで授業しているんだ、音は立てればサボりがバレる。だから慎重にカタツムリの這うよう動く。
玄関の方へ外履きに履き替える勇気は持ち合わせていないから、窓から出る。それもそれで勇気はいるのだが。
半履きの状態で。途中で小石が挟まりコツっと違和感が足の裏に生まれ負われてしまう、僕は硬い身体を精一杯曲げて小石を取り学校を抜け出して道並みを歩く。
どこに行こうか、公園かどこかのショッピングモールか、はたまた家に帰ってしまおうか。普段こんなことできなかったから、ワクワクする。何が起きるのだろうか、楽しみで仕方がない。
知らない事だらけで、土地勘が有り余っているのに感動が迫り上がってくる、最高だ。肩の荷がどこかに飛んでしまった様に、この世の諸悪を全部取っ払ってしまった後の様な、とても良い気分だ、生きているんだな、僕は、
「試しにあの公園に行こう」と意気揚々に走り出した。風に空気に、僕は走って涼しさが追い打ちを掛けるようにひんやりと体の熱を奪っていく、にしても運動は苦手な方なので、すぐに疲れ果てて歩きに戻してしまったのだけど。
すーっと、肺全体に酸素を練り混ぜ、呆気と諸々を斬風の如く吐き出した。
「綺麗、」
普段歩いている道なのに、感情と気持ちが変わるだけでこんなにも愛おしくなるものなのか。草達の緑、蒼天の青、地面の茶、白。黄色。オレンジ、灰色。全部が綺麗で仕方がない。写真に収めたい、目の中に残しておきたい。暑さで溢れでる汗すら心地いい。僕の心を物語っているような感覚達が一斉に飛びつく。
そしてたどり着く、帰り道いつも見る小さな公園、いつも誰もいなくて錆びた遊具しか設置されていない。廃墟みたいな公園、柳桜公園とは打って変わって素朴な公園、その後ろには規模は大きく無いながらの竹林が生えている。これもまた綺麗だ。
いろんな物を横目に歩いて走って、進んでく。
お濠の様に踊り、熟るゝることなく緩やかに歩く。やなこと全部捨てて、「日ははは!」ととんでもないほどに笑える。
良いんだ。自由なんだよ。あの絵みたいに、好きに生きても良いのだ。敷かれた線路の上を皆と同じく逝かなくても良いのだ。離れても良いんだ。壊して良いのか。もう、はみ出しても良いんだ。
今だけは、僕だけの世界なんだから、諭す者は誰もいない。
「あっつい、」
ワイシャツを鎧を脱いで肌着になる。細やかな風がくすぐったく身体に吸い付く。気持ちいい。かいた汗を冷やして、また汗をかいて。そうやって時間を食い荒らしく。




