5演者 1-4
犬を見る。生暖かい体温が手にベッタリと張り付いてる。
「違う。違う。。違う」
息をしてない。あの顔、可愛らしい、初対面に懐いてくれた顔。
「あぁ、嘘だ。」
だから言ったろ。手遅れなんだよ。お前はもう戻れないんだよ。後ろめたく負い目を背負って、枯れた苗をお持ち歩くしかない。残酷で残忍で人殺しの、出来損ないのお前の本性を見据えて雪はお前を見放したんだ。
「はぁ?、」
僕の脳がおかしい。僕の声がコントロールできない。僕の声なのに知らない声のようにずっと脳に響いてる。気色悪い。気味が悪い。でもこれだけは違う。それだけは否定できる。
「雪はそんな子じゃない。僕が一番わかってるはずでしょ。なんでそんなこと考えるんだ。ざけんな。語るなよ、雪を。本人でもないのに何にも知らないくせに言うなよ。言わないでよ。そんな奴じゃなかったじゃん。僕」
わけわからん汗と涙が滲み出てくる、荒い息で酸素を出し入れしている。
殺してしまった。犬を、誰かのペットを、宝物を、家族を。
「殺しちゃった、」
どうしてなのだろう、海斗を殺めた時とは全く違う、確実にいけないことをしでかしてしまってると自覚できる、吐き気が。
「うっ…」
何かが湧き上がってきる感覚があれど空っぽの胃からは何も出てこないが喉の奥がビリビリするのと胃液の味が口内に篭っている。
どうしよう、この死体。
土を掘るにも土壌はかなり硬く、無理ではないが掘るにはかなりの時間がかかってしまう、この場にはあまりとどまって居たくない、どこかの家から飛び出してきた飼い犬だ、飼い主が探しにくるかもしれない。隠蔽、あの時は家の中だった。隠す場所はいくらでもあった。場合が違い過ぎてる、回せ、回せ。頭をフル回転しろ。どうにかしろ。自分に責任がある、だから。どうにかしないと。
「食べよう」
全てを埋められないのなら、骨や食べられない所だけを埋めればいい。ちょうど良く腹も減っているじゃないか、運が良いな。
でも、食えるのか?犬って、美味いのか?。味なんて二の次は、まずは頂かないと。
腹らへんに刺さってるハサミを抜いて内臓を傷つけないように毛皮をハサミで切る、心臓はもう止まってるから血は溢れない、じわじわと出てきて入るけど、暖かい、体温。お風呂に手をつけているような。
鉄の匂い、嫌いな匂い。
「ごめん」
皮を剥ぎ終え、内臓も抜いた。落ちていた枝で土を掘りそこに埋めた。
食えそうな部位だけを残し僕はそれを食う、一口。生のまま思い切り頬張りつく。
あぁ、ダメだやつだなぁ。
残念ながら美味しくない、獣臭い、不味過ぎる。まだ腐った魚の方が食える、身体と脳が全力で食うなと拒否しているようだが無理強いで飲み込んだ。
鳥肌と共に手が大きくこわばり震える。
「まだ、まだ望みはある!、焼けば。多少なりとも食えるようになるかもしれん」
急いで乾いた枯れ木を集めライターで火をつけて枝を血で濡らし肉を刺し焼く。今度は鉄と違い肉の焼けた良い匂いがしてきた、これなら食えるかもしれないと思い、少し焦げ目のついた犬の肉を頬張る。
再び「う、くっ……。」と吐き気が押し寄せる、ダメか、臭い。多少はマシになってるが身体が受け付けない。生臭いような匂いが消えて動物本来の匂いが口内全体に押し寄せる。
「殺めちゃったんだ、食べないと」
気合いでどうにか残りも食いあげる。これ、腹下さないと良いんだけど。
骨だけとなった犬の亡骸を眺め、それを炎の中へ放り込み灰になるのを待つ、が一向に待てど骨は灰へとならない。砕いても全く意味をなさない。
このまま埋めないとダメか。
数十分ほど土をまた掘ってそこへバラバラになった骨を埋め、跡を眺めて振り返る。
海斗を終わらせた時と違い、今回はどうも動揺して気が動転してわけわかんなくなった。ただちっちゃい一匹の些細な動物が目の前で僕の手で死んだだけ。その違いはなんだ。わからない。
覚悟。
あの時は殺さなくちゃっと思った、僕が終わらせてあげないとって。今は何の準備も、覚悟も思いもしてないで気がついた頃には命を奪ってた。
どうしようもないほどの罪悪感と喪失感と絶望感を目の当たりした。殺す、奪う。と言う意味をやっと理解した。どうしようもないほど、僕は出来損ないなんだ。




