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花盗人  作者: 楠ゆう
3章 小心物

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5演者 1-5

 久梨原香、現在。喫茶店ルプス


 「ねぇ香、なんか浮かない顔してるけど、平気?」


 目の前で井上さんがティーカップを手に取りながら心配そうな仕草のまま僕の顔を見て言う。


 「てか寝れてるの?隈すごいけど、大丈夫?」

 「あ?あぁ。大丈夫です、平気。気にしないでくれて大丈夫です、良くあるんです。本当に」


 まただ。最近よく思い出す。雪のこととあの日のことを。どうしてまた。


 今日も井上さんといつも通り話してる、今は気が紛れるからこの時間はかなり楽で、何よりも誰かと居たい。


 時間を共有していたい。一人になると嫌な考えが止まらなくなる、嫌で仕方がない。


 「井上さん、僕以外に友達いないんですか?」

 「どうした、え。何急に、え?チクチク攻撃がすぎるんですが、私は今この場で泣き崩れてもいいんだぞ、泣いてもいいんだぞ!」


 「いや、最近ずっと井上さんと話してる気がして、僕以外との時間も大事にした方がいいんじゃないかなと思って」


 井上さんは持ってたティーカップを置き、そっと考えた後に腕を組みながら言葉を垂らす、


 「いないねー。第一に私は香さんと話してたいから話してる訳で、香さんからこういうの全然誘ってくれないんだもの、ほな私から誘うしかないやんか、喜びたまえよ。もう誘ってあげなくてもいいんだぞ?」


 「ありがとうございます、でもほんと最近ずっと、本当に一緒にいるじゃないですか、僕は嬉しいんで全然いいんですけど」


 井上さんはどこか誇らしげにしているのが見てわかる。簡単な人だななんて思う。簡単な人だなんて思ってはいけないのに。


 酷い人だな、僕は。


 「井上さんって、大学卒業したら何になるんですか?」

 「何って、何?」


 「なんて言うか、その職?、将来なりたい物とか聞いたことなかったなって」

 「なんだろうなぁ。特にないって言うと嘘になるけど。強いて言うなら、デザイナー?」


 「デザイナーですか。」


 生直馴染みのない言葉に少し、顔を訝しむ。


 デザイナー、良いかもしれないな、中々上から目線になるかもしれないけど、井上さんは結構クリエイティブな面が優れている風に思える、柔軟に物事を捉えられるし、独自の思考だって持ってる。そうか、良いな。デザイナーか。


 「特に深い想いとかは無いよ?ただ唯一やりたいなって事がそれしか無かっただけ、きっと他にしたい事があれば、私はそっちに行くと思う。弱に聴くけど香さんは?」

 「僕?」


 「そう、あんたの将来」

 どうしよう、なりたい物とか別にないな。


 「なんだと思います?」

 「うわぁ、めんどっちい返ししてくるねー、えぇわかんないよ、香さん基本自分の事あんまり話してくれないじゃん」


 「正解は、まぁ。カウンセラー、、とかにしておきますか」

 「しておくって、特に決めて無いんかいな」


 「それも正解っすね」


 それからもくだらない話をして時間を程々に消化して行く、有意義に感じる。だらけるよりは全然良い、幸せだと感じる。彼女の笑う声と顔が最近の楽しみになっている気がする。良いこと。良いことだ。素晴らしいことだ。

 「それじゃあ僕は行きます。今日は行かないといけない場所があるんです、また次の機会に話しましょう、井上さん」


 「残念、それじゃ私も行くとしましょうかな」


 そう言うとティーカップに杯っていた紅茶を一気飲みして立ち上がる、バッグを背負って二人足を揃えて僕らは会計へと向かう。


 いつも通り折半でお金を出し合い外へ出て行く。外は心地の良い空気でいっぱいで二人で背伸びをした。思い切り。随分話し込んでいたから背中が固くなりポキっと音がしたのがわかった。この瞬間に味わう身体の感覚は癖になってしまうな。


 「今日はどこ行くの?」

 「今日は、義母の所へ。久しぶりに顔でも見に行こうかなって。生活も安定してきて。踏ん切りがついたんで」

 「そっかぁ、私も長いことお母さんとお父さんの顔見てないなぁ、もう少ししたら私も帰省しないとなー」


 「良いと思いますよ、きっと会いたがってるだろうし、行ってあげてくださいね」

 「ほいよ」


 「それじゃあ」と僕は井上さんに頭を下げてその場を後にする。「またね」の言葉を最後にその場から去っていた。僕は道のりを調べるためにポッケからスマホを取り出す。欠伸をしながらおぼつかない手取りで調べる。どれだけ触っていてもスマホは慣れない。ネットにも疎い僕はSNSは勿論のことんネット通販もろくに扱えない。情弱なだけかもしれないが使う必要がそもそもにないんだ。別にいいんだ。


 駅までのルートをサイトで調べて程なくして僕は歩き出す。


 八木さん元気にしているだろうか。アポは取った方がいいのだろうか、もし家に誰もいなくて鍵が空いていなかったら。いやこの時間なら大体家にいたような気がする。びっくりする顔も見たいし。サプライズ気分で楽しみになってきた。足取りは軽くなって速度がどこか増したような気もする。


 何か買って行った方がいいだろうか、飲み物?それとも何か食べれそうな物か、それか飾れる何かか、どうしよう。近くにお土産屋さんはあるかな。駅で買えばいいか。


 晴れている、以前よりは太陽も強くはない。心地のいい光で日向ごっこでもできそうだ。

 肺に空気を全力で吸い込み、全力で吐き出す。


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