5演者 1-2
久梨原香、現在。大学。
「おまたせ」
「待ったよ?」
「三分ぐらいでしょ我慢も大事」
「遅れたことに変わりないよね、今日のジュース奢りは香で」
「わかりました」
三講義目が終わり大学の出入り口で僕らは今日も集合していた、遅れたら奢りの罰ゲームをつけて。
いつの間にか、井上さんはさん付けをしなくなっていて関係値がある程度上の方に行ったのだろう、初々しい時とは違い、近くなった距離感と冗談を軽く言えるような、気まずくもならない。行って仕舞えば雪と居た時に近いと感じる。この人も雪と親友だったのだ。シンパシーだか何だか知らないけど。
「それじゃあ行きますか」
「はいよー」
お昼ご飯を求めて近場のファミレスを探していく。
最初はスマホで探していたが歩いて偶然見つけた方が面白い所に出会えるだろうと井上さんが言い出したので、最近は食べる時間よりも探す時間のもうが多いような時も度々ある。
「自販機先に寄りますか」
「後でもいいよ?」
「忘れちゃったら嫌だし、罰ゲームだから」
「んーじゃあ、麦茶飲みたいから買って」
「はいよ」
自販機の方へ二人で立ち、お金を入れ麦茶のボタンを押す。ガタンッと飲み物が落下してくる音が聞こえ、取り口からキンキンに冷えた麦茶を取り出し井上さんに手渡す。
「ありがと〜香」
「次は絶対に僕が先に行きますからね」
「さーて。それはどうかな」
絶対に勝つ。次は負けない。次は。
「んで、どこ行きますか」
「そこなのよ、もう近所のお店ほとんど行っちゃったからねー、駅跨ぐか」
「マジすか?」
「でもそんぐらいな気がする、駅前も周辺も大体行ってー、んー。久々にコンビニでご飯でも買ってみる?、おにぎりとか買って大学戻るか」
「時間もそんなにないですし、次にでも電車乗ってお店探すか」
「賛成」
空が微妙に曇っている。長袖持ってくるべきだっただろうか。夏のシーズンが終わりまた冬が来る、クリスマスには一度八木さんの元へも戻ってみよう、また八木さんの手料理を食べたい。肉じゃがが食べたいな。一通りの幸せを心置きなく感じてる。井上さんとの日々、明日は何しようかと考える日々。今日は何をして何を食べて、どこへ行って何を読もうか。不思議な心情だ。
本当に過去が薄れていっている。
忘れたくないようで忘れてしまいたいこと。地獄のような状況が。全部なくなってしまったような。
雪、どうしたらいい。僕は。君の元へ行けるか心配だ。迷っている。迷って仕方がない。あいつら全員殺して僕も死ぬ。そう言っていたのに、死ぬのが途方もく怖いと感じて、今を精一杯生きてやりたいとすら思う。生と死を履き違えていたのかな。
「そういえばあれは買えた?本、図書館で読んでいたやつ」
「いや、まだ。探してるけど、なかなか見つかんなくてさ、やっぱり古いってのもあって見つけづらいのかな」
「私も探してみようか?」
「探してくれる分には嬉しいけど、それで井上さんの時間を取るのは違う気がする、もっと大切な人とか家族とか自分に時間を使ってあげて」
「いやいや、私にとっての大切な人に香さんはもう入ってるからね」
「それはありがとう」
「どいたま〜」




