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花盗人  作者: 楠ゆう
3章 小心物

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5演者 1-1

そろそろだろうか。


 空は眠りに落ちたように真っ暗になり海の底に深く満ちている、午後八時と五十分。ほぼ二十一時で変わりないだろう。


 半日海斗の家を探索した。香る思い出と足跡でどんな家庭だったのか、それを知りたかったから。


 みんな生まれて役を与えられる。いわば演者、役者と言って遜色ない。人を喜ばす役目を与えられる者、統治する役目を与えられる者、弱者や強者の役目を振り分けられ、忖度を決め世界を作る役目を与えられる者。


 たくさんの役目の中から何かが生まれたと同時に託されると、僕はそう思ってる。


 神なんて信じてない、だけれど。それは必然で偶然的に直感的に”役目”というものを何処かで知覚してる、だからそのように行動するのだ、幸を与え不幸を手渡しすように。


 それならば、僕の役目はなんなのだろう。


 わかると言えども無意識で、思考の中に混在してるだけ。


 それならば、僕の演目はなんなのだろう。


 「よし、行こう」


 気合いと気負いを纏って外へ出る。走れば目立つ。だからただ散歩していると錯覚できるように自然と歩く。何にも僕はしでかしてなんていませんよとセルフプロデュースするみたいに堂々してる。


 堂々としていなければ。

 ……バレたくない。


 

 

  久梨原香、逃避行、二〇二〇年。7月十五日


 ダメだ、クラクラする。倒れてしまいそうだ。


 海斗を殺した辺りからずっとだ、気持ち悪い。船酔いを二十四時間永遠と身に受けているような感じだ。呪いと言っても過言ではないのかもしれない。


 前に進もうにも人が多い、東京でもないのにすごい人の量だ。なんだこれ、祭りかなんかか?。


 上から見てみたい、蟻が列をなしているように見えるかもしれん。


 許せないんだ、ただの嫉妬。僕は殺した。海斗は人生を終えたんだ。楽しさを胸に抱いたまま世界の苦しさと寂しさを知らないまま、嬉しいまま死んだ。対して僕はずっと生きている。この差はなんだ。どうせなら僕を殺してくれてもよかったのに。どうして、手を出してしまったのだろう。


 あの後、どうなったか気になった。


 ネットや記事はどうやっても閲覧できない、かといってニュースを覗く機会や携帯もない。僕はただ当てのない旅をし続けるだけなのだ。


 「もう、夏が始まってんだな」


 初夏も過ぎて真っ只中の夏に重々しい温度と重力を罵る。


 突然肩に衝撃が走った、何かと思ったが人とぶつかっただけだった。


 「おい、謝れよ」


 後ろから、ぶつかったやつから謝れとの要求が返ってきて、僕は特に考えず「すみません」というだけ言った。そうしたら連れらしきやつがガン飛ばしながら鼻で笑った。


 「なんこいつ、チョー暗れぇやん」

 「あんた、謝るだけっつうのも申し訳ないだろ?ちょっとつらかせよ」


 めんどくさいなぁ、ただぶつかっただけだろ、明らかに茶化して食い物にしたいだけだろ。どこまでも運が居ない。

 「すいません、これから用事があるんで」

 「へぇ逃げんだ。男の癖して弱ぇな、汚ねーし、なんなんこいつ」


 じっと僕をみている、身長は僕の方が小さい。だから上から見下ろしているようで、少々苛立ちを覚えてしまう。


 「行こうぜ」


 呆気ない。行ってしまった。何だったのだ、ただヤジを飛ばしたかっただけ?訳わかんね。


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