↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花盗人  作者: 楠ゆう
3章 小心物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/68

4。裕福獣1-8

「人殺し?」


 きっと、捕まる。彼も。僕も。このままだったら。だから、そうなる前に。


 目の前の情景は血生臭い世界だけが色濃く根強く蔓延っている。冷静になってしまった。脳に酸素が行き届視界がクリアになっていく。


 そして、やっと理解した。


 「僕はもう、戻れないんだ」


 殴る手をやめて馬乗りになっていた体を起こし、無様に倒れたこいつの顔を見る。後悔はない、罪悪感もない。ただひたすらに幸福にやってやったと自分を誉める言葉が溢れ続ける。


 涙は出なかった、枯れたのだろうか。もう人じゃなくなってしまったのだろうか。大人になったからなのだろうか。


 台所へ向かい、包丁を探す、あぁそうか、海斗の父さんに刺さってんだ。ソファに倒れて首に刺さっている包丁を抜き取る。血は微かに流れる。


 再び倒れた海斗の前へ馬乗りになり今度は心臓のあるであろう箇所に包丁を思いっきり刺す、肋骨が邪魔で少し力が必要だったがそれも一瞬のことだった。もう心臓は止まってた。だから血はそれ以上出てこなかった。暖かい血液が傷から微かに滲んで、手にべっとりとくっつく。あったかい。少しとろみがあって悪寒がゾワっと迫り上がる。

 七回刺した、その度に、僕のせいじゃないと叫んでた。


 窓から太陽の光が、ポカポカとした青陽のような陽光に当てられ、僕は何をしてしまったのか。しでかしてしまったのか。ようやっと脳に帰着してきた。


 このままこの家を出たら、この真っ赤な姿を見れられでもしたら。


 「夜になるまで待とっかな」


 それはでの時間潰し。まずは死体の発見を遅らせるための偽装、二人の死体を上手く隠せる場所探し、僕の体を洗う。服も変えないと。海斗のを貰おう。


 とりあえず、まずは一番重たそうな海斗のお父さんから隠蔽しよう。


 海斗のお父さんを背中へおんぶして、二階へ移動させる。布団でぐるぐる巻きにしてクローゼットへ押し込む。そして死んだ海斗も同じようにして布団で巻いてクローゼットへ放り込む。


 ただこれだけでは直ぐに匂いでバレてしまう、もって数日。どうせもうこの辺りにはいないだろうが一応対処しておこう。


 冷房をマックスでガン回しにして部屋はキンキンに冷やす、血抜きもしたかったのだが、もうすでに心臓が止まっている事で血が流れずらいとわかると断念した。


 そして僕は海斗のであろう部屋から服を取り出し、リュックへ詰める。


 僕は台所へ向かい、汚れた服を脱いで裸体となった僕自身の体を鏡越しで覗き込む。あれだけだらしない体をしていた学生時代が嘘のようにメリハリの取れた筋肉が出揃い、筋のはっきりした手や脚。そして少し固まってカピカピになった血を掻きむしる。


 人ん家に入るのも初めてだし、人の風呂を勝手に入るのも初めてで、人を殺したのも初めてだ。なんか、今日は初めてなことでいっぱいだな。


 「良い日、だな」


 そのまま、風呂場へ入って、シャワーをつける。最初は冷たいから三十秒ほどが経過して水からお湯になってから体へ温水を当てる、長らく入っていなかった、感じていなかった、安心する暖かさに心臓が麻痺をしてしまいそうだ。


 汚れも血液も洗い流して、僕は手の甲にできた裂けた皮膚を見る。石鹸がかなり沁みる、痛い。絆創膏とかあるんだろうか、漁ってみるか。ついでに財布と、通帳、あぁでもパスワードわかんないな。でもクレジットカードは使えるか。


 最近コンビニのレジが進化してきている気がする、前まで全て人力で会計していたのに、久しぶりに入ったコンビニは機械で会計を済ませられるようになっていた。チラシとか入り口のポスターに、電子決済始めましたとか。どんどん現代が新しくなっていってるのを実感する、遠のいてしまっているのだ。僕だけが。以前の世界に。

 妙に欠伸が止まらないが何でなんだろう。眠いわけでもないし、ドライアイなわけでもないし。よくわかんないな。


 ある程度体を洗い終え、台所へ戻りタオルで体を拭く、勝手に取ってきた海斗の服を僕は適当に寄せ集めて着る。カラフルな柄の入った派手目な服に少しの抵抗感を覚えてしまうが、気にしてなんていられない。


 「海斗は、どんな世界を生きてたんだろう」


 どうして、殺さなければならなかったのか、どうしてそこまで追い詰められてしまったのか。たった一つの家族を殺してまで手に入れようとした幸せってなんなんだ。



____殺したかったから。殺した。今も。すごく殺したい。

 


 海斗の最後の言葉を思い出した。


 そっか追い詰められてなんてなかったんだ。ただ、彼は殺すことでしか感度を快感を得られなかったんだ。サイコパスってやつなのだろうか。自分を頑張って押し殺していたのが爆発しただけかもしれないけれど。本質的に彼は殺しを楽しんでいるようにも見えた。


 だから僕は間違ってない。

 讃えられるべきなのだ。

 後悔なんてしてない。してない、してない………。

 「怖いな」



 捕まることが、この先が、バレることが、生きることが、死ぬことが、殺されることが、歩くことが、寝ることが、思い出すことが、時間が、未来が、過去が、心が、感情が。「怖い」

 

 休もう。休んで、逃げなくちゃ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。